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臨死戦隊★ゴエイジャー 活躍編 臨死グリーンと腐属性魔法(10.0k)

 国内でも希少な【回復魔法】の使い手であり【医者】でもある私は【臨死戦隊★ゴエイジャー】所属の臨死グリーン。

 普段は草刈りをしているが、今日は【回復魔法】の使い手を増やせる新技術の検証協力を依頼され、【双発葉巻号】でかつての前線基地に降り立った。


 【魔王城】からこの前線基地は結構遠い。馬車なら三日程かかる距離だが【双発葉巻号】の巡航速度ならすぐに到着だ。朝出発して午前中には到着した。

 飛行機が速いのは当然だが、陸路の整備も進んでおり二年前に比べると各所への移動時間が格段に短縮されている。

 技術の進歩とはすごいものだ。



 飛行場に到着後、プランテ室長の案内で技術研究を行っている【西方運搬機械株式会社】の【要素技術研究室】に移動し、今回の適性者三名の紹介を受けている。


「メアリです。夫と共にサロンフランクフルトの食堂棟住み込みの管理人をしています。普段からどう思われていたか分かりませんが、真っ先に【尻尾】を付けられました」


 前線基地食堂棟の管理人スミスの奥さんで【魔王妃】様の養母の方だ。

 メイド服で【九尾の女狐の尻尾(特大)】を付けている。


「マリアです。アンダーソン卿の秘書をしています。メアリ様のところに遊びに来ていたら適性アリと言われたので【尻尾】を付けてみました」


 ブラックの出身地アンダーソン領の居住者か。

 何となく目とか髪とかの配色がブラックに近いけど、なんだろう。ブラックは【黒】だけどこの方は【闇】に見える。

 女性にしては珍しくズボン姿で、【黒豹の尻尾(長)】を付けている。


「エレノアです。【西方良書出版株式会社】所属の記者です。新技術の取材に来たら適性アリとのことだったので、体験ルポ書こうと思って参加しました」


 最近【売れっ子作家】としても有名な方だ。

 著書の【女の生き方~孫に愛されながら死にたい~】が先月のベストセラーとして生協さんのカタログで紹介されていた。

 この方も適性があるのか。【猫又の尻尾(赤・中)】を付けている。


「自己紹介ありがとうございます。私は今回講師を務めさせていただく【臨死グリーン】です。以前はドクトルGと呼ばれていましたが、今は【臨死グリーン】を名乗っているので、【グリーン】と呼んでください」


 【回復魔法】の適性者は少ない。特に女性の適性者は少なくて【魔王妃】様以外では今のところ一人しかいない。だから王宮病院でも女性の治療をする場合に困る場合が多かった。

 ここで三人も【回復魔法】を習得できるなら国全体に与えるメリットは大きい。

 最近草刈りばかりしてたけど、久々の医者としての大仕事だ。頑張ろう。


「早速ですが先生に診て欲しい患者が居るんです。こちらにお願いします」


 プランテ室長がなんか既に疲れた様子で言い出して部屋から出るので、私と受講生三人が続く。なんか、彼女たちの装着している【尻尾】が生き物のように動いているのが怖い。


 【要素技術研究室】内に作られた病室のような部屋のベッドに青年が寝ていた。


「ルクランシェ。先生を連れてきたぞ」

「お手数おかけして申し訳ありません。プランテ室長」

「先生、ちょっと診てもらえますか。研究仲間のルクランシェ主任ですが【回復魔法】の被験者となってから、起きられなくなってしまいまして」


 プランテ室長に促されてベッドに寝るルクランシェ主任の身体を確認し驚愕した。


「これは! 一体何があったんです?」


 体格バランスが明らかにおかしい。

 下半身は細身の青年なのに、上半身の胸から腕にかけてだけ筋肉がモリモリに付いている。こんなアンバランスな体格じゃまともに動けるはずがない。


「【強化改造】してみました」

 【黒豹の尻尾(長)】をグネグネ動かしながらマリアが楽しそうに一言。


「なにやっとんじゃー!」


 あんまりすぎる発言に思わずツッコミ。

 確かに【回復魔法】による治療では、治療の内容によっては完全に元の形に復元しない場合もある。それを応用すれば【改造】に近いことができる可能性もあるとは思ってはいた。

 だけど、倫理的にそれをしてはいけないことは明白だ。


「私が、私がいけなかったんです……」

 ベットで寝るルクランシェ主任が苦しそうに話し出す。


「一体、何がどうなってこんなことになったんです」

「実は私、昔からマッチョ体型に憧れていまして。研究の傍らで筋トレしていたんです。でも、なかなか筋肉がつかなくて。力も強くならなくて……」


「まさかそれで、【回復魔法】を応用した【強化改造】を自ら依頼したのか。なんて危険なことを」

「うまくいくと思ったんです。この技術が完成すれば、成人女性を背負って軽々と走り回るあの御方のようになれると。そう思ってこの【萌え】の研究に執念を燃やしていたんです」


 【魔王】様のことか。

 男ならあの大きさと強さに憧れる気持ちは分からなくもない。だが医者として、それに失敗した理由をまず説明しておこう。


「いいか。生物の身体というのは絶妙なバランスで成り立っているんだ。筋肉が欲しいからと言って、欲しい場所にだけ筋肉をつけたりしたら、骨や関節の強度が追いつかずに無理が出る。実際に今腕とか腰とか痛いんじゃないか」

「痛いです。動こうとすると腰と背中と胸のあたりの骨が痛くて、起き上がれないんです」


「そうだろう。今の骨の太さに対して筋肉が強すぎるんだ。それに、全身でのバランスがとれていない。二足歩行で歩く人間の場合、身体の動きの反動は全部脚にかかってくる。腕だけ剛腕にしたって、その動きを支える足腰が追いつかなかったら力を発揮できない。人間の脚は飾りじゃないんだ。鍛えるならまず足腰が先だ」

「そうだったんですね。剛腕に憧れて腕の筋肉を先に鍛えようとしていたんですが、そこから既に間違っていたんですね」


「そうだな。ちゃんと鍛えたいならトレーニングにも手順という物がある。私は【元・軍医】でもあるから、栄養指導を含めて一通りの指導ができる。でもその前にまずは起きられるようになろう。その身体で下手に動こうとすると肋骨や背骨を傷める可能性がある。今は動こうとするんじゃない。急いで市内の病院への搬送を手配しよう」


 【回復魔法】では筋肉を除去するような治療はできない。

 ここは自然治癒力を活用するしかない。時間はかかるが、その間にも体幹部の骨を損傷すると後遺症が出る可能性がある。

 治療方針としては、体幹が歪まないように専用のギブス等で身体を固定しつつ、なるべく寝たきりで過ごす方法だ。

 ヨセフタウンには装具設計に詳しい外科医のゴダード先生が居たはずだ。急いで相談に行こう。


「私は、治るんでしょうか……」

「治るさ。生物には【生体恒常性維持能力ホメオスタシス】というものがある。安静にしていれば、この無理のある筋肉を分解して元の動ける身体に戻れるはずだ」


「ありがとうございます。治ったら、次は骨と関節を先に【強化改造】してもらいます」

りて! こんな目に遭ったんだから、りてやめるところでしょ!」


 何を言ってるんだこの青年は。

 これが【魔王】様の言っていた【クレイジーエンジニア】か。


「すばらしいわルクランシェ。それでこそ【肉体美】の探究者よ。【筋肉は正義】のの教えを体現したその姿勢は【出版】に値するわ」

「寝たきりになるような改造に【肉体美】など無い! そんな危険思想を【出版】されてたまるか!」


「じゃぁ【次】は骨と関節からですね。治るのが楽しみです。【腐属性魔法】は素晴らしい技術です」

「やらせはせん! やらせはせんぞ! 寝たきりになる【強化改造】を何度も試されてたまるか! 骨の改造とか失敗したら後遺症が出るぞ!」


「細マッチョ、太マッチョ、ビッグマッチョ。【筋肉】はどんなパターンにも対応できる万能な要素なのよ。それを否定するなんて医者とはいえ許しがたいわ」

「そんなにマッチョが好きならまずは夫のスミスで試しなさい! 無関係な青年の身体に危険な改造を試そうとするんじゃない!」


その無意味さに気付けないなんて、貴方あなたは医者として未熟ね」

「意味が分からん! 狂った【肉体改造】に喜ぶ変人共に医者を否定される筋合いは無い!」


 三人が三人ともぶっ飛んだことを言いだすので医者として丁寧にツッコミ。

 それぞれの【尻尾】が生き物のように動いているのが怖い。特にメアリの【九尾の女狐の尻尾(特大)】の動きが怖い。


「【筋肉】は正義!」

「【筋肉】は万能!」

「【腐属性魔法】万歳!」


 三人とも【尻尾】を激しく動かしながら変な方向で共鳴しだした。

 けものの尻尾を付けた暴走女達。【怪獣】だ。【怪獣女】だ。


 なんかもうヤバイ。

 こんなの一人だけでも手に負えないのに三人も並ぶともうヤバイ。


「プランテ室長! これは一体どういうことです!? この三人は一体どうしたというのです!」

「これは、【波動離脱はどうりだつ】現象ですね。近い趣向ベクトルを持つ三人の精神波動が付加アイテムである【尻尾】の波動増幅力を通じて【共鳴】したことで、思考が普段の常識的発想から離脱してしまっています」


「もはや普段が常識的かどうかすら疑わしいけど、付加アイテムにそんな危険な作用があるなんて聞いてませんよ! って、キャスリン様はどうだったんです!? あの方も試したんですよね!」


 一般人がこんなになるような技術だ。

 【国一番の危険人物】であるキャスリン様に適用したら大変なことになるに違いない。何か大変なことが起きていなければいいが。


「キャスリン様は市内の病院で【ふさふさのリスの尻尾(中)】を装着して波動生成を試したところ【万人を癒す女神の如き神々しいオーラ】を放ちました。そして、見たこともないぐらい強力な【癒しの波動】を全周囲にばらまきました」

「ある意味成功じゃないですか! それで入院患者の治療に成功したんですか? 先日会って聞いた時には、治療は試していなさそうでしたが」


「協力してくれる予定だった入院患者の方々がそれを見て、ものすごい勢いで逃げだしたので、治療の試験はできませんでした」

「扱いがひどい! 普段の言動がアレだから、なまじ成功しそうな雰囲気出ると逆に怖いのは分かるけど!」


「でも、逃げ遅れた年配の方々が【癒しの波動】に巻き込まれた際に、肩こりや関節痛が改善されたりしました」

「スゴイじゃないですか。触れることなく【回復魔法】の効果が得られるなんて前代未聞の新発見ですよ。しかも加齢による肩こりや関節痛は普通の【回復魔法】でも改善が難しい疾病しっぺいなんですよ。なんかもう、そっちの研究進めましょうよ。その方が国のためですよ。キャスリン様も協力的だったんでしょう」


「私もそうしたいのはやまやまなのですが……」


…………」


 【怪獣女】三匹のうめき声が背後から聞こえる。怖い。


「それはもう神々しい御姿でしたわ。【王妃】で【女神】で【癒しの波動】なんて、オイシイところ全部持っていかれたと泣きながら取材ノート整理したぐらいです」


「なんかもう【格の違い】を見せつけられた気分ね。【尻叩き】をするたびに魔力が上がっている気はしていたけど、あのがあそこまでするとは。【尻尾】付きで同席した私たちが完全に【引き立て役】だったわ」


「あの御方からは【け】を開花させる能力を感じました。【定数】の大きい【け】をぶつけると歴史を変えるような偉人に変えるでしょう。でも、【め】しでアンダーソン卿を追いかけているこの私があの場で【ハズレ尻尾キャラ】扱いされたのは楽しくなかったです」


 この【怪獣女】達の【闇堕ち】の原因はそれだったか。

 さすがはキャスリン様だ。自覚でも無自覚でも成功でも失敗でも何らかの騒動を起こすパターンは一貫している。イェーガ王が苦労するわけだ。

 そしてこの【怪獣女】達を何とかしないと新しい【回復魔法】の研究は着手できないとそういうことだな。


「プランテ室長! この【波動離脱】状態を止める手段はあるんですか? こっち来る前の打ち合わせで、そういうアイテムがあるとは聞いていましたが!」

「この【波動離脱剪断装置はどうりだつせんだんそうち】で止めることができるはずです」


 プランテ室長が渡してきたのは、私の身長の半分ぐらいある扇と棒を足して二で割ったようなもの。厚紙のような素材でできているのか若干フニャフニャしている。そして、その形には見覚えがある。


「【魔王】様が【ハリセン】と呼んでいたアイテムか! これでどうすればいいんですか?」

「これで、彼女たちの【波動離脱面】つまり、おかしくなったところを叩けば【波動】を止めることができます」


「おかしくなったところ。【あたま】だな!」


ひどい!」


 この出張を依頼されたときにキャスリン様が見せてくれた図の通りに、暴走中の【怪獣女】三人の頭をこの【ハリセン】でブッ叩けばいいのか。女性を叩くのは抵抗があるが、こうなってしまったら仕方ない。


「頭を冷やせ!」 ブン ヒョイ


 マリアを狙ったら素早く避けられた。


「女性を叩こうとするなんてひどいです。そんなひどいことする人は【強化改造】です」 バッ

「うおっ!」 ヒョイ


 マリアが飛びかかってきたので、慌てて避ける。

 そうか、捕まると【波動】で【強化改造】されてしまうのか。何て恐ろしいことを考えるんだ!


「【回復魔法】を武器に応用するとは、医者として許せん狼藉ろうぜき! 成敗してくれるわ!」

「【騎士】ですら無かった貴方あなたが、そんな【武器】で私達に勝てるかしら。見たらわかると思うけど、それけるの簡単よ」


「そうだったー!」


 メアリの指摘はもっともだ。

 そもそも私は戦闘訓練は受けてない。相手は【強化改造】という最恐技を使う【怪獣女】三人。そして私の武器はやたら長いけど微妙にフニャフニャなこの【ハリセン】。


 人道を捨てて女性相手に拳を使うか?

 いや、それでも私は強くない。むしろ素手で触れただけでも何をされるか分かったもんじゃない。

 なんということだ。女三人と戦うことなんてこれっぽっちも考えていなかったけど、戦力的に圧倒的不利なのは私の方だ。いや、こちらにはプランテ室長が居る。


「プランテ室長! ってどこ行った!?」

「さっきこっそりと部屋から出ていきましたよ」

 エレノアがしれっと応える。


「逃げたな! あの野郎!」


 ルクランシェ主任はベッドで寝たきり。【ハリセン】を手にした私は気が付けば【怪獣女】三人に部屋の隅に追いつめられて身動き取れず。


、若干【め】ね」

「そうですね。でも、私がすアンダーソン卿やオリバーには遠く及びません。あの方々の【め】の【定数】と比べると中途半端です」

「【め】しもいいですけど、伴侶にするなら【け】がいいですよぉ。【愛】を注いで自分専用に改造できます。【け】という面では、たまに来るイエローですね。あの方は【出版】したいぐらいの【け】です」


「意味が分からん! もう意味が分からん!」


 大ピンチだ。捕まったら【強化改造】で【寝たきりマッチョ】にされてしまう。メアリに関しては【激痛】が付いてくるとも聞いている。

 こんな時ブラックが居れば。ブラックは身内に【闇魔法】の使い手が居るとかで【闇魔法】に詳しい。この【ハリセン】以外にも対処法を出してくれるはずだ。


「くそっ。ブラックが帰省休暇でなければ連れてきたのに」

「えっ? そちらのブラックはお休みですか?」

「そうだ。四日前から長期有給休暇取得して休んでる。アンダーソン領に帰省すると言ってた」


 ブラックの休暇の話になぜかマリアが興味を示した。別段隠すことではないので時間稼ぎも兼ねて普通に応える。


「それなら、私は帰らないといけませんね。お先に失礼しまーす」

「お土産よろしくねー」


 マリアはそそくさと部屋から出て行った。【黒豹の尻尾(長)】の先端が嬉しそうに上を向いて揺れていたけど、アレ付けたまま帰るのか?

 まぁいいや。ズボン着用で動きが素早い【怪獣女】が一匹帰ったことで私にも勝機が出てきた。ここは攻めるところだ。【め】として。


「成敗! おりゃぁぁぁぁぁ」

 「は万能! やぁー」

  「【筋肉】盛りよ! たぁー」


 ブン ヒョイ シュタッ ガシャーン ドタバタ ブン サッ ドタバタドタバタ シュタッ バッ ヒョイ パリーン パーン ガシャーン 


…………


「先生! 急患です。って何やってるんですか」


 スカート姿の【尻尾】付き【怪獣女】二匹を【ハリセン】で追い回していたら、プランテ室長が帰ってきて、滅茶苦茶になった室内見て一言。

 病人が寝る部屋で暴れるなんて医者としてあるまじき行為であったと反省しつつ、言いたいことはある。


「プランテ室長! 何処行ってたんですか。大変だったんですよ!」


「すみません。怖いから逃げてました。それよりも重症の急患です。食堂棟の医務室に搬送しているので急いで来てください。メアリさんもエレノアさんもお願いします」

「ハーイ」


 素直に白状するプランテ室長に従い一時休戦して皆で食堂棟の医務室に向かう。

 何をしていても急患が来たらそっちが優先。これも医者の務め。


…………


 食堂棟の医務室に到着。

 そこには【西方運搬機械株式会社】のウィリアムが居た。患者はストレッチャーの上で、全身が白いシーツに覆われている。

 

 【尻尾】を振りながらストレッチャーを囲む【怪獣女】二匹は一旦放置して、事情を知っていると思われるウィリアムに患者について確認。

 もしエスタンシア帝国側の人間なら王宮に報告が必要だ。


「患者の身元は分かっているのか? 状況と容体は?」

「患者は今朝早く試乗用のトラクターを借りに来たレイマンだ。ヴァルハラ平野の北部で黒焦げになってたとオリバーから通報があったから、トラクターに傷病者緊急搬送用トレーラを繋いで運んできた」

「ブラックか。こっち来てたのか。帰省と聞いていたが」


 ストレッチャーの上のシーツを半分めくると、確かに黒焦げにされた【臨死ブラック】だ。全身大火傷で意識を失っている。治療を急がなくては。


たっといわ!」


 黒焦げを見た【怪獣女】二匹がまた意味不明な叫び。

 何なんだ一体。


「以前見かけた時にもしやと思っていたけど、この黒焦げこそ私とマリアが探し求めていた者」

「わぁー……確かに。今の私じゃ正確に【定数】が見えないけど、この黒焦げは明らかに他の方と違いますねぇ。なんか【特集】が編集できちゃいそうですぅ」


「マリアにも見せたかったわ。帰っちゃったのが残念よ」

「そうですねぇ。もうこれを見つけた以上は、やるしかないですね」

「そうね。もうこれは義務ね。意識不明の重体だから私も参加できるわ」


 もう嫌な予感しかしない。


たっとい黒焦げをマッチョに【強化改造】!」


「させるかぁー!」


 ブン スカッ ガシャーン パリーン ヒョイ ブン ガン スルリ ヒョイ ブン スカッ ドガッ ヒョイ サッ パリーン ゴン


…………


 食堂棟医務室にて。

 急患として搬送されてきた同僚が乗るストレッチャーを背にして、【闇】をまとう尻尾付きメイドと【変衆者】に成り下がった【編集者】相手に【ハリセン】を持って対峙する。


 プランテ室長とウィリアムは速攻で逃げた。

 後でシバく。


 やはり二人とも素早い。

 だが、追い回すうちに私もこの【ハリセン】の扱いに慣れてきた。最初は片手持ちだったが、両手持ちの方がしっくりくることが分かった。


 そして、【波動】を送り込むことで、【ハリセン】そのものが私と【共鳴】できることも分かった。【怪獣女】達の【尻尾】のようなものか。

 同僚を守るために燃え上がる【医師道精神】の【波動】でこの【ハリセン】を私の一部に変える。私と一体化した【メディカルハリセンブレード】だ。


 必殺の一撃。【次】で仕留める。


「さぁ、そのたっとい黒焦げを渡すのです。その御身体にマッチョ筋肉を授けて崇高な【美】とすることはもはや【神】の意志なのです」

「健康な人間を寝たきりに変える【美】も、人間の身体を勝手にもてあそぶ【神】も要らん。私は医者として患者を守るのみだ」


「【売れっ子作家】として【黒焦げマッチョ】という新ジャンルを開拓して、国内の特殊性癖女性陣に愉しみを提供するのです」

「まさか黒焦げを治療せずに【強化改造】をしようとしていたとは。どこまで非道な。例え【回復魔法】が使えようとも、貴様に医者になる資格はない!」


「私は【編集者】です。【医者】になるつもりはありません。自分の職業と趣向に合わせて【回復魔法】を【美】の追及に適した形に進化させただけです」

「粘土細工なら好きにすればいい。だが、生きた人間の肉体を操作するような術を扱うには、それ相応の【倫理】が必要だ。【倫理】を伴わない【技術】は悲劇しか生まん!」


「【美】の追及は【倫理】を超える人類の義務なのです!」 ゴッ

「人を病人にするような【美】など、医者として認めん!」 ブン


 ベチーン


「旧友のキャスリンに全部負けた気がして、悔しかったのです……」パァァァァァァ

「案ずるな。貴女あなたには貴女あなたの勝ち組人生の道がある。【尻尾】さえ付けなければな」シャキーン


 ドサッ


 叩いたら正気に戻るのか。

 【ハリセン】なかなか強力だな。


 残る【怪獣女】は一匹。

 【闇】をまとう尻尾付きメイドだけだ。


「いつの間にか一人になっちゃったけど、黒焦げ全身マッチョという【愛】の造形を体現するためには負けるわけにはいかないわ」

「なんで黒焦げを先に治療するという発想が無いんだ! 可哀そうだと思わんのか!」


「その御方の黒焦げはもはや個性。個性を活かした造形にこそ【愛】があるのよ! 早く完成させてマリアに見せてあげたいわ」

「重症患者の苦痛を個性にする発想なんて【愛】じゃない! 患者の健康で安心な日常のために【倫理】に基づいて【技術】を活かす事こそが【医者】の【愛】だ!」


「若いわね……。【愛】を語るには若すぎるわ」

「ならば、貴女あなたの語る【愛】を教えてもらおうか」


「究極の【愛】は、倒錯とうさくを伴ってこそなのよ!」 グワッ

「それを【愛】とは呼ばん!」 ゴォッ


 ベチーン


むすめが【門出かどで】して寂しかったのよ……。元気にしてるかしら……」パァァァァァァ

「案ずるな。元気にしている。帰ったらやんわりと【里帰り】を勧めておこう」シャキーン


 ドサッ


…………


 黒焦げになった同僚をマトモな【回復魔法】で治療する。

 足元に転がるメアリとエレノアはとりあえず放置だ。危険な【尻尾】だけは外しておいた。しばらく目は覚まさないだろう。

 ブラックは重症だが、今の私でも治療が間に合うぐらいには【火加減】されている。誰が焼いたかは一目瞭然。一体何をして怒らせたのやら。


「………………」


 目が開いた。意識が戻ったようだ。

 患者を安心させるのも医者の仕事。聞こえているはずだから声をかけておくか。


「気付いたか。本当に危ない所だったんだぞ」


 危ない所だった。

 本当に危ない所だったんだぞブラックよ。


 私は【臨死戦隊★ゴエイジャー】所属の臨死グリーン。

 普段は草刈りをしているが、本業は医者だ。


 【倫理】の伴わない【技術】は【医療】の世界に必要ない。

 この技術は封印する。それが医者としての務めだ。


 そのためにも、逃走した【怪獣女】一匹の【捕獲】を急ぎたい。

 これはブラックにも手伝ってもらおう。

 あの【闇】は私だけでは手には負えない。

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タイトルとあらすじ見て『サイコホラーだったらどうしよう』→勇気出して読む→『ホラーではなかった』→『ホラーじゃなかったけどヒロインがサイコ』→『ヒーローはクレイジー』→『モブもサイコ』→『サイコとクレ…
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