表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
150/166

臨死戦隊★ゴエイジャー 活躍編 臨死ブラックと最終兵器(4.7k)

 帰省を口実に長期の有給休暇を頂いて【魔王城】を出発してから四日後。ヴァルハラ平野を試乗用のトラクターで走る私は【臨死戦隊★ゴエイジャー】所属の臨死ブラック。黒目黒髪そして腹黒の臨死ブラックだ。


 ヴァルハラ戦役では、多くの戦友ともを失った。

 戦争さえ無ければ、今頃家族と楽しい時間を過ごしていた多くの命があの戦場で散った。

 特に私が編成した【黒部隊】は多くの犠牲者が出た。


 彼等の任務は、予め迎撃地点に用意した地下通路による敵の背後からの奇襲攻撃。

 毒矢ボウガンや火薬弾スリングショットで敵陣地を一日中攪乱し、無駄弾を消費させながら敵を精神的に追い詰めること。


 必要な任務だった。


 敵の大火力を封じる手段として反斜面陣地は有効な方法だったが、陣地は動かすことができない。そして、丘陵地帯の東側には見通しの良い平野部が広がっている。

 反斜面陣地で足止めした敵にそれを気づかれると、一旦後退した後で迂回される危険性があった。もしそれをされてしまうと、前線基地まで防御陣地が構築可能な地形は無い。


 だから、敵の退路を封じつつ部隊間の連絡を遮断し、作戦を考え直す隙を与えないまま早期に降伏させる必要があった。

 そのために、この任務は必要だった。


 敵の大火力の前に無防備で晒される危険な任務。多くの犠牲者が出るのは明らかだった。彼等はそれを覚悟して志願した。

 圧倒的な火力を持つ敵を、短期間で降伏させることができたのは彼等の功績だ。


 あの戦争は一体何だったのか。

 何故戦わなければならなかったのか。

 これは、開戦前から気になっていたことだ。


 【魔王討伐計画】が第一王子のシナリオ通り最期まで完遂されていれば、この戦いは起きなかったはず。

 魔王討伐完了時のあのイレギュラーが無かった場合、歴史はどのように動いたのか、私は知りたい。実行されなかった【最終作戦】の真実を私は知りたい。

 そして、その真実を黄泉の国で私を待つ戦友ともへの手土産としたい。


 その手掛かりを探すため私はここに来た。

 【魔王】様には、アンダーソン領に帰省すると伝えているので、お忍びでここに来ている形になる。

 まぁ、【魔王】様なら、休暇中の行動についてとやかく言わないだろう。


 あの会社で借りた試乗用トラクターで麦畑が広がるヴァルハラ平野を走る。作付けの終わった麦畑がある区画を抜けて、さらに北へ。


 ウィリアムから聞いた、例のボートの落下地点に到着。


 破損したボートの前半分がそこにあった。

 一年以上風雨にさらされていたのでかなり傷んでいる。

 少し離れた場所にトラクターを止めて、前半分だけになったボートに乗り込みその先端部分の内側を覗く。


 あった。


 ボート先端部の木の板の裏側に不自然に厚くなっている部分がある。これは、板に擬装ぎそうした箱だ。

 その部分を持参した【バールのようなもの】で、慎重にこじ開ける。


 中にあったのは、掌に乗る小さい化粧箱。

 あと、手紙のようなもの。


 ここに魔王討伐計画の【最終作戦】の謎を解く手がかりがあるはずだ。

 それを取り出し、ボート先端部の上に置く

 持ち帰るつもりは無い。

 これはここで中身を確認したらすぐに焼却だ。

 この世で真実を知るのは、私だけでいい。


『無断で【滅殺案件】に触れようとするアホはどこかなー』


 聞き慣れた声が脳内に響き、背筋が凍る。


「ひょっとしたらこれは、中身を見たら死ぬ奴かな」

『死ぬ奴よ』


 殺気のこもった即答に私の恐怖ゲージはいきなりMAXに達し、思わず叫ぶ。

「聞こえてるのかー!!」


『その、中を見たら死ぬ奴を、元の場所に戻して頂戴』


 初めて聞く、殺気のこもったあのむすめの声。

 あのむすめは本気だ。

 今逆らったら、私は死ぬ。

 言うとおりに、元の場所に手紙と箱を戻す。


『安全と思う距離まで離れなさい』


 ボートの残骸から降りて、トラクターのあたりまで走った。

 次の瞬間、背後から強烈な輻射熱、そして熱風。

 おそるおそる振り向くと、ボートは跡形もなく焼き払われ、それがあった場所の地面は赤熱していた。


「証拠隠滅か……」


 あのむすめが今何処に居るのかは分からない。

 でも、こういう時に上を見てはいけないのは王宮での惨事で学習済みだ。


『一つだけ教えてあげるわ。私も知らなかったのよ』


 やはり、知らされていなかったか。

 これで私がここに来た目的は達成だ。


 しかし、あのむすめなら気付かなかったはずはない。

 自分も関与していた案件のあんまりな真実を前につい口が軽くなる。


「気付かなかったのか? 彼は君を」『おめでとう【被滅殺特別手当ひめっさつとくべつてあて】第一号よ』


…………


 全身が焼けるような痛みで目が覚めた。

 ぼんやりと見覚えのある天井が見える。あの前線基地の医務室だ。


「気付いたか。本当に危ない所だったんだぞ」

 グリーンの声だ。来ていたのか。


「黒がトレードマークだからって、黒焦げにまでならなくてもいいだろう。こうなると治療が大変だ」

「自業自得ではあるが好きでやってるわけじゃない。それにしても痛いな。早く治してくれ」


 実際に痛い。

 まぁ、意識が戻ってる今の時点でだいぶ治療は進んでいるんだろうが、できることなら早く完治まで直してほしい。


「今やってる。これでも【臨死】のおかげで【回復魔法】は上達したんだぞ」

「【聖女】なら、瞬時に治したぞ」

「彼女は別格だ。比べられたら困る」


 【魔王城】に居るはずのグリーンが何故なぜここに居るのかは聞かない。今日の私はあのむすめの手の上だったということだ。


 あのむすめもあの場所にあれがあることを確認したいと考えていた。だが、あのむすめは一人でそれをすることができない。

 だから、私を泳がせたのだろう。


 戦友ともへの手土産を整理するか。

 エスタンシア帝国側で捕虜になっていた時に聞いた【最終作戦】の概要。魔王討伐完了で【魔物】が消滅しなかった場合に実施する予定だった条件付きの作戦。

 ユグドラシル王国から【最終兵器】の提供を受け、それを最大限活用してエスタンシア帝国側の【魔物】残党を掃討する。


 作戦名は【ハ号作戦】。

 立案時の元の名称は【ハネムーン作戦】だったとのこと。

 つまりそういうことだったんだろう。


 魔王討伐完了後に【魔物】が消滅しなかった場合。第一王子は【聖女(最終兵器)】だけを連れてエスタンシア帝国に入国し、エスタンシア帝国側に残る【魔物】残党をあのむすめの大火力魔法で一掃する計画だった。


 あのボートはあのむすめを乗せるために用意したものだ。泳げないあのむすめをボートに乗せ、自分は川に入り、ボートを引いて渡るつもりだった。【魔王城】より下流側にそれで川を渡れそうな箇所が何か所か確かにある。


 しかし、第一王子は死亡。【聖女(最終兵器)】は負傷。

 この作戦が遂行されなかった結果、川の向こうで合流を待っていたエスタンシア帝国側の魔王討伐隊は【魔物】残党の襲撃を受け壊滅。

 その連絡が滞ったことで、機械化農耕師団ヴァルハラ平野開拓団が予定通りヴァルハラ平野に進出。

 無防備な開拓団は【魔物】残党の襲撃を受け壊滅。


 エスタンシア帝国軍は開発の遅れていた重機関銃と大砲を完成させ、量産と共にヴァルハラ平野開拓団の生存者を中心に部隊編成。

 多くの犠牲を出しながらも【魔物】残党の処分に成功したが、その一部が【最終作戦】を実行しなかったユグドラシル王国への報復として、リバーサイドシティの橋脚残骸きょうきゃくざんがいを使用して独断で越境攻撃を敢行。

 そして【勝利終戦号】と交戦。


 敗走した越境攻撃部隊の報告より、エスタンシア帝国軍は【勝利終戦号】こそが【最終作戦】で提供されるはずだった【最終兵器】であると認識。

 それを持ちながらあの時【最終作戦】を実行しなかったユグドラシル王国への怒りを爆発させ、首脳陣もそれを抑えることが出来ず、宣戦布告に至った。


 真相はそんなところか。


 歴史に【もしも】は禁物だが、魔王討伐完了後のあのイレギュラーが起きなかった場合の事を考える。予定通り第一王子が【聖女(最終兵器)】を連れてエスタンシア帝国の【魔物】残党を処分した場合どうなっていたか。


 あのむすめのデタラメ魔法攻撃力を、エスタンシア帝国側にさらしたらどうなっていたか。


 剣と魔法で戦う第一王子の戦闘力も戦士としては規格外だった。エスタンシア帝国軍の持つあの【戦車】に匹敵する。

 しかし、【戦車】は【戦車】だ。一兵器に過ぎない。


 それに対して、あのむすめの魔法破壊力は別格だ。

 どこまでの力があるのかは未知数だが、少なくとも一人で大都市を焼き払うほどの破壊力はある。

 そんな危険なデタラメ要素を【王妃】に据えた形で両国の平和な共存が可能だっただろうか。


 以前の私ならその問題点に気付かなかっただろう。だが、私は開戦準備を通じて国家間の関係という物を学んだ。

 軍事力バランスを大きく崩すデタラメ要素を抱えた状態では、安定した国家関係は成立しない。だからこそあの時、強すぎるデタラメ要素である【勝利終戦号】を敵前で自爆させた。


 第一王子はその危険性を認識していたはずだ。

 ならば【最終作戦】完遂後に、あのデタラメ魔法破壊力をエスタンシア帝国にさらした後に、あのむすめを一体どうするつもりだったのか。


 第一王子はかつて【100人が生きるためなら1人を殺すのが政治だ】と言っていた。

 こちらの都合で辺境からさらってきたむすめを、【王妃】をえさに散々いいように使い倒した挙句、一体どうしようとしていたのか。


 【魔王】を倒しても【魔物】は消えなかった。

 山林地帯での苦戦によりユグドラシル王国側にも戦力がほとんど残っていなかった。

 その状況下で深刻な食糧難で【魔物】討伐に十分な戦力を割けないエスタンシア帝国を助けるためには、あのむすめの魔法破壊力は必要だった。

 確かにあの状況ではそうするしかなかった。


 それが【政治家】の仕事だと言うのか。


 第一王子の本心は今となっては分からない。だが、はたから見るとあのむすめと居る時だけは楽しそうだった。どんな心境で状況を判断し、どんな心境で決断を下したのか。


 それは今となってはどうでもいい事だ。


 今、あのむすめは生きている。

 五体満足とは言えない。両脚は失っている。

 しかし、多くの人に守られて今を生きている。


 両国はあの戦争を通じてお互いの力を認めた。

 対等に共存すべき相手と認識して歩み寄っている。

 多くの血を流したが、それを自分達の力でやり遂げた。

 デタラメ要素無しで成し遂げた。


 あの戦争は、あの戦いは無駄ではなかった。

 誰一人無駄死にはしていない。

 真相を知った今ならそう断言できる。


 これは誰にも語るまい。

 黄泉の国にて、あの戦いで散った戦友ともに語るまでは。


 私は【臨死戦隊★ゴエイジャー】所属の臨死ブラック。

 黒目黒髪そして腹黒たまに黒焦げの臨死ブラックだ。


 休暇は延長を申請しよう。臨時収入もあった。

 アンダーソン領に居る妹に豪華な食事でも奢ってやろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ