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幕間 退役聖女の一発芸(2.5k)

 【しん金色こんじきの滅殺破壊魔神】という物騒度が上がった異名を持つ私だが、現在死の危険が迫っている。


 話し合いをするために会議室に入ったら、いきなり銃で撃たれた。


 撃たれる前に【殺気】に気付いた。脚のある頃の私なら撃たれる前に動くこともできただろう。脚の無い今の私でも飛んでいる時なら回避は簡単だ。

 だけど今の私は義足装着の【脚付き】。ゆっくり歩くことしかできない無防備な状態だ。何もできずに撃たれてしまった。


 未だ命中はしていない。だが、私の顔面を正確に狙った、確実に殺すために放たれた銃弾が迫っている。


 迫る銃弾が見えるのは、死の危機に瀕した時に思考が高速化して視界がスローモーションになる現象だ。銃弾では無いが【魔物】と戦っている時にこんな光景を何度も見た。そして、何度も致命傷を負った。


 これが誰にでも見えるものなのかは分からない。また、普通の人間にこれが見えたとしても対処はできない。銃弾の速さに対応できるような動きは、人間の身体ではできない。


 銃弾は迫る。


 でも今の私は違う。身体の動きが追いつかなくても、魔法なら間に合う。迫る銃弾を瞬時に弾き返せる魔法もある。

 【魔導砲】だ。だけど、今は威力を抑えるための金属パイプを持っていない。この状態で【魔導砲】を放つと、市街地の中心部にあるこの建屋で壁と屋根を派手に吹き飛ばしてしまう。


 銃弾は迫る。


 銃で撃たれても死なないバケモノ。

 銃で撃たれたら瞬時に報復で建物を半壊させるバケモノ。

 それが私だ。

 私を確実に殺すつもりで撃った男も仰天するだろう。そして、エスタンシア帝国でも【しん金色こんじきの滅殺破壊魔神】伝説の誕生だ。

 そうならないために、【デタラメ無し】【物騒抜き】の【対話で解決】のために、こちらのルールに合わせて金貨を使った買収とかいろいろ準備して、普通の人間として対話しようと、痛いのを我慢して脚付きで会議室まで来たのにこの扱いだ。


 銃弾は迫る。


 そんなに私をバケモノ扱いしたいなら、望み通りやらかして本物のバケモノを見せてやろうか。

 見えないほど遠くに魔法を発動するのを試したことは無いけど、フロギストンを熱に変える火魔法なら今の私は範囲無制限で使える。

 この場所を含めると私も焼死するから、トーマスの小屋よりも北側の海沿いあたりからカランリアの北半分ぐらいを地下から派手に融かして、カランリア湾でも作ってみるか。


 銃弾は迫る。


 死者は多数出るだろうが、もう知ったことか。

 誰も死なずに済むように考え抜いて行動してきたこの私を一方的に殺そうとする方が悪いのだ。

 バケモノを怒らせるほうが悪いのだ。

 こうなった場合に備えて、ユグドラシル王国の国のシンボルを【墓標ぼひょう】にした。しかも【借金漬け】でこれ見よがしに王宮を圧迫している。

 【魔王城】がユグドラシル王国の組織ではないことは明白だ。だから今の私がここで多少暴れても、報復の矛先がユグドラシル王国に向くことは無い。


 銃弾は迫る。


 でも、それで【戦争】にならなかったところで、私は世界中からバケモノ扱い。

 大人しく生きたいと思っている私をわざわざ怒らせて、勝手にバケモノ扱い。

 そんなに私が生き残るのが不満か。

 どう生きても、どう生き残ってもバケモノ扱いしかされないなら、もうこの世界全部南から北まで融かして燃やして終わりにしてやろうか。


 迫る銃弾を何かが遮る。


 発射された銃弾の速さに対応して動く何か。

 その何かに意識を向ける。

 あのアホだ。

 あのアホが私の前に回り込んで、銃弾と私の間に入った。あのアホの左上腕部が銃弾の進路をさえぎる。あの銃弾ではあのアホの規格外の剛腕は貫通できない。

 私に銃弾は届かない。


 銃弾があのアホの剛腕に飲み込まれる。


 私は【女の子】として守られたことは無かった。

 誰かのために血を流すのはいつも私の役割だった。

 ヨセフタウンでは町や畑を守るため一人で【魔物】と戦った。

 街の皆は優しかったけど、普通の人間なら死ぬような場所に当たり前のように私を送り出した。


 婚約者ですらこの私を【たて】や【おとり】として扱った。

 山林地帯での討伐作戦では、毎回当たり前のように騎士達の前で【魔物】にズタボロにされた。

 見通しの効かない林の中で多数の【殺気】を引きつけて走り回り、全周囲から斬られて折られて潰されてえぐられた。

 何度も致命傷を負いながら、痛みや恐怖に耐えて【回復魔法】で身体を修復しながら走り続けた。


 必要な役割だと分かっていた。

 私にしかできない仕事だと分かっていた。

 だから、仕事と割り切って役割を果たし続けた。


 でも、無理と分かっていても望んでいたことはあったのだ。


 一度だけでいい。誰かに、身をていして守ってもらいたかった。


 銃弾を飲み込んだあのアホの剛腕から血が噴き出す。

 あのアホのそでが血の色で染まる。


 気分が高揚する。


 初めて見る。私のために流した誰かの血。

 長年夢見た血の色。

 あのアホは、この私を守るために負傷した。

 私のために血を流してくれた。

 あのアホは、私の望みを叶えてくれた。

 【女の子扱い】の達成だ。


 死の危機が回避されたことで、時間の感覚が戻る。


「痛てぇ!」


 あのアホの叫びが聞こえる。

 軽症だが、いい仕事をしてくれたお礼にすぐに治そう。

 その前に、二発目はいらないので拳銃の中で軽く爆発。

 バケモノ扱い上等だ。


バゴン カシャーン


 【女の子扱い】は達成した。

 次に目指すものはもう決めている。


 【成人】と【門出】に少し遅れて私の人生は次のステージに移行だ。それを記念して、最高の舞台を見せてくれた彼等にお礼をしよう。

 久しぶりに【一発芸】を披露しよう。いや、今ならできる演目が他にもある。観客が沸くのがたくさんある。まとめて披露しよう。【マジックショー】だ。


 さぁ、デタラメやってやる。


『いっつ・あ・しょーたーいむ』

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一発芸という題名から別のことを想像してました。すみません。(笑) いつも”ツン”な部分ばかりなジェット嬢の”デレ”部分が垣間見れて、なぜか嬉しい気持ちになります。(笑) どんなに強い女性で…
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