臨死戦隊★ゴエイジャー 活躍編 臨死イエローと司書の仕事(4.0k)
【元・国王】を連れて首都から帰ったブルーより買い出し荷物を受け取り、【魔王城】地下一階の仕事部屋にて内容確認をする私は【臨死戦隊★ゴエイジャー】の臨死イエロー。
パッカン パッカン
天井から合図の音。
「どうぞー」
誰が来るかは分かっているので返事する。
パカッ ヴィィィィィィィィン
【赤いミノムシ】となった【魔王妃】様が天井の縦穴通路から降りてくる。
「こんにちわー。今時間大丈夫かしら」
「大丈夫ですよー」
私の仕事部屋は【魔王】様と【魔王妃】様の居室の直下にあり、【魔王妃】様の箱型の【寝室】とこの縦穴通路を介して上下で繋がっている。
【魔王妃】様は私に用事があるときは、赤い布袋に入ってワイヤーでぶら下がり【赤いミノムシ】の形で私の部屋に訪れるのだ。
この吊り下げ機構は【魔王】様から教わった【天井クレーン】というものを参考に私が作った。
当初は逆さ吊りで【蜘蛛】のような形だったが、それだと見た目が怖すぎるので私がお願いして【ミノムシ】に修正させてもらった。
「頼んでいた文献調査の結果はどうかしら」
「三件中一件は終わってますよ。それはそうと【元・国王】が来ているそうですが、そっちに行かなくていいんですか?」
「うーん。今会うのはちょっと気まずいかなーと。それに【辛辣長】居ればなんとかなるし。それよりも調査結果の方が気になるのよ。終わったのはどの件かしら」
「【死者蘇生法】の件です」
私が頼まれた文献調査は王宮から回収してきた禁書庫の調査だ。
かつてはよほどの理由が無い限り閲覧許可が下りないものだったが、今は全部私の仕事部屋の本棚にある。
さすがに本棚は施錠しているが、私は【魔王妃】様より自由な閲覧を許可されているので、実質全部私のものだ。
「一番時間がかかりそうと思っていたのに、それが最初に終わるなんて意外ね。過去に同様の調査を担当したことがあるのかしら」
「他の依頼者からの依頼内容については秘密ですよ」
王宮で司書をしていた時の原則だ。
王宮関係者からの依頼内容は他愛の無い物が大半だったが、その中には危険な内容もあった。
秘密漏洩は命に関わる。
禁書庫に関わる司書というのも案外危険な仕事だった。
「さすがに仕事には厳しいわね。依頼者が故人となっても守秘義務は残るのかしら」
「当然です」
「調査結果を簡単に教えて。気になってたところは伝えてあるわよね」
禁書庫関連の調査結果は口頭伝達が基本だ。
漏洩すると危険なので報告書のように紙に書き残すようなことは滅多にしない。
「【死者蘇生法】は、強力な【回復魔法】による肉体の修復と、術者の肉体を媒体とした魂の再注入により成立する【禁術】とされています。記録している資料は複数ありますが、どの資料にも術に失敗した場合の【禁忌の呪い】という記述はありませんでした」
【死者蘇生法】に関連した【禁忌の呪い】という謎用語の調査を依頼されたが、前回調査時にそんな用語は無かった。
今回は前回調査時に閲覧できなかった資料も調べたが結果は同じ。何処から出てきた用語なのかは分からないが、調査結果を伝えるのが仕事だ。
「そう。無かったの……。だったら、術に失敗した場合に術者はどうなるのかしら」
【魔王妃】様にしては意味の分からない質問が出た。
でもここは普通に答えるのが仕事だろう。
「【死者蘇生法】は術者の命と引き換えに成立するものです。失敗しても成功しても術を完遂したら術者は死にます。術の手法や効果については文献によってブレがありますがそこは一貫しています」
「……知らなかったわ。【禁術】と呼ばれるわけね」
【死者蘇生法】を知っていたのにこの条件を知らなかった?
前回の依頼者は術の存在を伝える際にこの条件を【隠蔽】したのか?
いや、そこを考えるのは私の仕事では無いな。
「だとしたら、成功した場合の術の所要時間が気になるわ。それに関して記録は無かったかしら」
「記録は複数ありましたよ。一貫して長いですね。半日とか数日とか」
これは前回調査時に閲覧できなかった資料からの新発見だ。
「……なかなかにおぞましい術ねぇ。術を起動したら亡骸に寄り添って自分が死ぬのを待たないといけないなんて」
同感だ。もしこの術が実際に可能なものであるなら。
「それで術の事例の記録はあったの?」
術の内容からしてこれは普通の魔術師や【回復魔法】の使い手にできるものではない。それ故に事例の記録も真偽の程は疑わしいものだ。
でも、そこはそれ。見つけた記録内容を伝えるのが仕事だ。
「事例らしき記録は複数ありました。失敗すると魂を持たない生体ができる。死者の身体に別人の魂が入ることがある。成功してもこの術で蘇った人間は人外のバケモノになる。応用すると魂と魔力により無生物のバケモノを作ることができる。そのぐらいですね。真偽の程は不明です」
「最後のはちょっと気になるわ。別で依頼している案件とつながりそうね」
「そうですね。そこは私も気になったので調査中です」
「他案件の進捗はどうかしら」
「難航しています。記録は断片的で意図的に資料を破棄した痕跡が至る所にあります」
「禁書庫の中身をこっちに引き渡す前に破棄したのかしら」
「それは無いですね。私とブラックで王宮の禁書庫の中身を回収に行ったとき、地下にあった禁書庫は出入口が瓦礫で埋まってましたから。あの日以降で最初に入ったのは私です。掘り起こすのは大変でした」
「どういうこと? 図書館は無傷で残したはずだけど」
「今だから言えますが、王宮図書館地下の禁書庫は偽物です。本物は王城中心部の地下深くでした。これは【極秘事項】なので知っている人間は限られていましたが」
「知らなかったわ。危ない所だったわね」
「書籍の保護という意味ではむしろ好都合でしたよ。雨が降って浸水していたら危なかったですけどね」
「そう。じゃぁ、資料の破棄はあの日より前なのね」
「そうなりますね。しかもかなり前。何らかの理由で、何かを徹底的に【隠蔽】しようとしたようにも見えます」
「王宮の禁書庫以外になにか資料が残っていそうな場所は無いかしら」
「この【魔王城】の地下二階にも図書室らしき部屋があったのですが、長年水没していたので全滅でした」
「初耳よ。復元できそうな書籍は無かったの?」
「残念ながら。書籍らしきものは泥状になっており、大半は排水時に流出したものと思われます。隙間とかに何か残っている可能性を考慮して、今は残っていた本棚や机の残骸を乾燥させながら解体調査はしていますが、望み薄ですね」
「それで地下二階を立ち入り禁止にしていたのね。だったらアンとメイに手伝わせたらいいわ。あの二人なら何か見つけても問題は無いし、あの二人は乾燥や解体が得意よ」
「ありがとうございます。時間があるときに協力してもらいます。他案件についてですが【過去の歴史】の件は進捗あります」
「教えて頂戴」
「魔王歴以前の歴史は確かに存在しました。五百六十六年以上はあったと思われます。でも、それに関する記録は意図的に破棄されていました」
「どこから分かったの?」
「禁書庫の書籍に栞のように挟まっていた紙片がありまして、そこには【創世暦五百六十六年】の記述がありました。それは天気の記録の断片だったんですが、紙の古さより【魔王歴一年】より前の物ではないかと思われます」
「やっぱり【魔王歴一年】より前にも歴史はあったのね」
考えてみれば当たり前だが、私も【魔王妃】様に調査を依頼されるまではそれを気にしたことが無かった。
気になりだすと確かに興味深いのでこの件の調査は楽しみながら仕事をしている。
「その【創世歴】の頃の資料を探しているところですが、今のところそれ以外には見つけていません」
とはいえ資料として残っている物は無いので、書籍の間に挟まっている紙片や何らかの理由で転写されたインクの跡等を探している。
書籍調査というより遺跡発掘に近いがこれはこれで楽しい。
「引き続きお願い」
「了解です」
「あ、そうだ。今日は新しいの持ってきたわよ」
【魔王妃】様が【ミノムシ袋】から紙束を取り出した。
【魔王】様が描いた異世界の機械のスケッチだ。
たまにもらえるコレも私の楽しみの一つだ。
「ありがとうございます。今日のお題は何でしょうか」
「異世界の【写真機】らしいわ」
紙束を受け取る。
文字は書いていないが、図からもいろいろ読み取れるように【魔王】様は工夫して描いてくれている。私も【魔王妃】様も機械が好きなので、天井からぶら下がる【赤いミノムシ】状態の【魔王妃】様とスケッチ内容についてしばし雑談。
写真乾板さえ入手できれば、この【写真機】は私にも作れる気がする。
次に首都に行ったときに、小物部品が得意な鍛冶屋に部品の製作について相談してみよう。
…………
コンコン ヴィィィィィィィィィィィン パタン
仕事部屋のドアからノックの音。
同時に【魔王妃】は素早く【帰宅】。
「イエロー出番だぞ。首都で【双発葉巻号】に機材搭載するから出張ついてきてくれ」
そしてブルーの呼ぶ声。
好都合だ。早速首都に行く用事ができた。
私は【臨死戦隊★ゴエイジャー】の臨死イエロー。
【魔王城】の設備と機械の担当者でもあり禁書庫の司書でもある。
秘密厳守も司書の仕事。見ざる聞かざるが原則だ。
だが、いつか黄泉の国であの件の依頼者に会えたなら、聞いてみたいことが一つある。
あの術のあの条件を【隠蔽】して、婚約者にどういう仕事をさせるつもりだったのか。
そんな秘密を心に仕舞い、次の仕事に行く準備。
ここでの仕事は楽しい。




