臨死戦隊★ゴエイジャー 活躍編 臨死ブルーと王妃の秘密(3.0k)
エスタンシア帝国北部平野上空にて、高揚力装置を使用した低速飛行中。
【双発葉巻号】機体下の投下口から【魔王】様を風魔法で本当に突き落としたキャスリン様にドン引きしながらも、操縦はちゃんとする私は【臨死戦隊★ゴエイジャー】の臨死ブルー。
「行きましたわね」
行ったというより、落ちた。落とした。普通の人間なら逝きましたになる高度で。
「ちゃんとキャッチできましたか?」
「うーん。あ、ちゃんと喰いつきました。飛んでます」
「では、任務完了ですね」
喰いついたという表現が気になりはするけど、まぁ【魔王妃】様がいるなら【魔王】様は何しても死にはしないだろう。今日のところは帰還命令が出ているので、一旦帰るか。
投下扉を閉じて、高揚力装置をたたんで加速。針路を南へ。
「本当に、見てて飽きない夫婦ですわね」
貨物室から操縦室に入り、私の後ろの指令席に座ったキャスリン様がつぶやく。【免停】期間が終わっていないので隣の副操縦士席には来ない。おかげで安心して操縦ができる。
「それを見るため遊びに来てるんでしょう。今日も楽しめましたか?」
夫の第二王子が国王に即位したので、キャスリン様は王妃様だ。【魔王】と【魔王妃】様も面白い夫婦だが、国王と王妃の夫婦も実はなかなか面白い。残念夫婦と呼ぶ人も多いが、イェーガ王はああ見えてやり手だ。
「楽しんではいますが、遊びに来ているわけではないのですよ。こうやって飛んでいるのは王の指示でもあります」
「意外ですね。王は休みが欲しいのでしょうか」
「不敬ですわ。また九倍荷重がお望みですか?」
「それは勘弁してください。それに、キャスリン様も立てなくなりますよ」
「そうですわね。アレだけは勘弁ですわ」
「あの時は私も大変でしたよ。プロペラ後流で麦畑荒らしたから、機体が直るまで農夫になりました」
「今となってはいい思い出ですわ」
「ちなみに、王の指示は何なんです?」
「【魔王】と【魔王妃】の動静は国の重要事項です。その情報収集と一次対応を任されておりますの」
「確かに。【魔王】様はともかくとして【魔王妃】様怒らせたら国を滅ぼしますからね」
「国家予算は【魔王城】からの借金で賄っていますし、税収も利子で消える計算で、今やユグドラシル王国は完全にあの二人の【属国】ですの。本当に恐ろしい方々ですわ」
キャスリン様がため息をついている。
恐ろしいのは【魔王妃】様だけだと思うけど。【魔王】様はけっこう常識人だし。でも、そこは言うまい。
「撮影した写真乾板の引き渡しがあるので、この足で【西方航空機株式会社】の滑走路に降りたいと考えておりますが、よろしいでしょうか」
「私は今日の事を王に報告しないといけないので、王宮に帰ります」
「では、首都の飛行場に一旦降りますよ」
「いえ、久しぶりに飛んでみたくなったので、今日は空から降りますわ。王宮上空から投下お願いします」
キャスリン様の得意魔法は【布】を媒体とした風魔法。さっきもマントを使って【魔王】様を突き落としたし、たまに人を布でぐるぐる巻きにするのも風魔法だ。
そして一番面白い使い方が、マントと風魔法の組み合わせで高所落下から軟着陸するという技。あまり知る人は居ない秘密だが、【免停】になって私が操縦する飛行機に乗るようになってから飛行機から飛び降りるのを楽しみにしている節がある。
「了解です。今日は高度と速度はどうします?」
「寒すぎない程度に高めで、速度は最大でお願いしますわ。ぱーっと舞ってみます」
この方はどんな形であれ、空を飛ぶのが好きらしい。それに関して、ちょっと気になっていたことがあったので聞いてみよう。
「風魔法で軟着陸ができるなら、自力で離陸できたりはしないんですか?」
「道具を使えば飛行に必要な推力だけなら出せますわ」
それができるのは意外だった。
「だったら、落ちるばかりでなく、【魔王妃】様みたいに飛んでみても良いのでは?」
「安全に飛行するには、【筋力】が足りませんの」
「はぁ、飛ぶのに【筋力】必要でしょうか」
「あの時の、機動推進牽引機。元は私が乗る予定でした」
「初耳ですね。もしかして、稼働が遅れた原因もそれが絡んでいますか?」
「そうですね。私は推力は出せたのですが、私の【体格】と【筋力】では、その推力による衝撃と加速度に耐えられなかったんです」
「最終的には【魔王妃】様が【八咫烏】を引いてましたね」
「【魔王妃】様のように、丈夫で大きい身体があればと悔しい思いをしたものですわ」
「ああ、確かに一度撫でた時、【魔王妃】様は引き締まったいいお尻をしていました。そして、その後の拳も強烈でした」
「それは聞かなかったことにしておきます。まぁ、私が我儘言ったことで機動推進牽引機の開発が遅れてしまい、突貫工事での開発になったうえに、【八咫烏】の出番も減ってしまいました。開発チームには申し訳ないことをしたと思っています」
「もしかして、当時のイェーガ王子が弾薬類の陸上輸送経路確保と輸送技術確立を急がせたのは、キャスリン様に爆発物を引かせたくなかったからでしょうか」
「どうでしょうか」
「まぁ、それはいいとして、【筋力】不足で飛べないというなら、座席に羽を付けたようなものを使えば魔力を使って自力で離陸もできるんじゃないでしょうか」
「そういう物なら既に使っていますわ」
「えっ?」
「そろそろ到着ですわ。投下準備お願いします」
確かに首都が見えてきた。この機の巡航速度は【軍用1号機】の二倍以上。機内は広くて快適だけど、ゆっくり会話を楽しむのは難しい。
指示通りに、ちょうどいい高度に上げ、加速する。
キャスリン様が貨物室に移動した。
「投下扉お願いします」
「投下扉、開きます」
投下扉開閉レバーを操作する。背後から風切音と、冷たい空気が流れ込む。
「では、ごきげんよう」
バサッ
後ろを見る。キャスリン様はもう居ない。本当に飛んだよ。
投下口を閉じて減速。旋回し、針路を北東に向ける。
左後方を見下ろすと、首都上空でマントを広げて楽しそうに空を舞っているキャスリン様が見える。あれは、【一方通信】で使用人にこっそり窓を開かせて、仮設の王の執務室に背後から飛び込むつもりだな。王も大変だ。
キャスリン様が使っているという、座席に羽を付けたような魔力で飛ぶためのもの。もしや、【試作2号機】か。
ウィルバー部長が最初に作ったという飛行機のうちの一つ。
キャスリン様専用機で、キャスリン様以外に操縦できないあの機体。格納庫で現物を見たことがある。試乗してみたいと頼んだが、ウィルバー部長に断られた。
垂直上昇時の姿勢制御をどうやってしているのか、飛行機乗りの私にも分からなかった。だが、今なら分かる。あれは、キャスリン様の風魔法との組み合わせで飛行が可能になるものだったんだ。
つまり、単体では飛行機として成立していない。
「これは【極秘事項】だな。口外したらギロチン台だ」
私は【臨死戦隊★ゴエイジャー】の臨死ブルー。
何かと便利な陸上突撃機【双発葉巻号】の【機長】だ。
空の密談。ちょっとした秘密を抱えて今日も飛ぶ。




