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臨死戦隊★ゴエイジャー配属編 臨死グリーンの夜の宴(6.5k)

 私は元・ユグドラシル王国戦略陸軍の衛生部隊長。そして今は【臨死戦隊★ゴエイジャー】所属の【臨死グリーン】。

 以前からドクトルGと渾名あだなで呼ばれていたが、今後は【臨死グリーン】の渾名あだなで呼ばれることになるのだろう。


 【聖女】様が王宮上空から帰ってきたあの日。

 近々逆襲に来るであろうことは分かっていたので、この世界を守るため、刺し違える覚悟でレイマンと共に事務棟の建屋内より大口径銃で狙撃を試みた。


 結果、建屋ごと粉砕されて臨死。

 医者でありながら一日ほど生死の境をさ迷った。


 【聖女】様との最初の出会いは王宮病院の集中治療室だった。

 火魔法で黒焦げにされた王宮騎士団の団長が急患として搬送されてきた時についてきた。

 最初は誰かと思ったが、辺境の地からスカウトされた【聖女】と聞いて【聖女】って何だよと思った。


 私は国内も数少ない【回復魔法】の使い手だ。

 でも、広範囲の炭化した火傷の治療は難しい。半日がかりを覚悟で治療を進めていたら彼女が治療を手伝ってくれた。

 彼女の【回復魔法】は大火力で、黒焦げ状態の団長はすぐに復活した。


 なるほど、【聖女】というのは【聖属性魔法が得意な珍しい女】の略なのかと納得した。


 当時【魔物】討伐で王宮騎士団の騎士が負傷することは多く、【回復魔法】の使い手は常に治療に忙殺されていた。そこで、重傷者が搬送されてきた際には彼女に治療を手伝ってもらうことにした。


 重傷者の快復かいふくが速くなったことで、病院の勤務体制は改善されて皆喜んだ。

 同時期に、殴り飛ばされて搬送されてくる患者が急増し、王宮内で【赤い凶星きょうせい】の噂が立つようになった。


 彼女は薄赤色のメイド服を普段着用していたが、病院勤務だとその服装は目立つので、病院の制服を元にした特製の白いローブを仕立てて与えた。気に入ったようで今度はそれを普段着とした。


 その後、殴り飛ばされて搬送されてくる患者はさらに増えて、王宮内で【王宮の白い悪魔】の噂が立つようになった。


 【魔王討伐計画】が後半に入ると、彼女からあのローブの補充を頻繁に求められるようになった。

 王宮騎士団の戦闘服にも使われる強化繊維製でそう簡単に痛むようなものでもないし、そこそこ高価なものでもあったが、第一王子からも必要数支給せよと指示が出たので欲しがるだけ与えた。


 通算で五十着以上は製作したが、転売でもしたんだろうか。


 【魔王】との決戦時においては【魔王城】最寄りの街の病院にて待機。

 撤収してきた魔王討伐隊生存者の応急処置を行った。

 第一王子が死亡し彼女が行方不明になったことにショックを受けた。


 エスタンシア帝国との戦争の時はヨセフタウンの前線基地の病院で軍医として勤務した。

 第一王子似の大男の背中で幸せそうに寝ている彼女を見た時は、もうそっとしておいてやろうと思った。


 開戦前は訓練中に負傷した兵士の治療を主に行っていた。

 訓練中の特殊部隊九名がボコボコにされて搬送されてきた時は、なんとなく彼女が関係していそうな気がした。


 開戦後は負傷した兵士の応急処置。休戦直後は敵味方双方の戦死者の死亡判定や身元確認を行う仕事を行った。


 損傷のひどい遺体も多かった。

 戦争の現実と直面する仕事だ。

 医者の仕事といえども辛かった。

 戦争はもうこりごりと思った。


 【魔王討伐一周年記念祝賀会】の時に、第一王子似の大男の顔面を修復したのは私だ。

 やれと言われたときにそれやったらマズイとは言ったが、大丈夫だからやれという王命に従いやむなく決行。


 やっぱりものすごくマズかった。

 修復した顔面は第一王子で、それを見た彼女が逆上したのを見て【人生オワタ】と覚悟した。


 一日間の臨死体験から帰ってきた後、レイマンと共に国王をボコボコにしてから【バー・ワリャーグ】に向かった。

 そこでアンとメイの下で皿洗いの仕事をしながらメンバーが揃うのを待った。そして、レッド到着後に合計八名の【魔王城】職員で貸切馬車に乗り、西側都市で食べ歩きしながら【魔王城】に移動。


 到着して【配属面談】で吹っ飛ばされた後【辛辣しんらつ長】より就業規定の説明。王宮病院よりも好条件なのが嬉しかった。


 仕事はやっぱり医務室担当。

 医務室として使う部屋を割り振られたので、とりあえず使えるようにしようと最寄りの街の病院に頼んで機材を融通してもらい、手術台、ストレッチャー、タオルなどの衛生用品を必要最小限確保した。


………………

…………

……


 そして今。

 黒焦げの【魔王】様とずぶ濡れの【魔王妃】様を医務室の手術台の上に放置して、職員で【魔王城】エントランスのテーブルに集まり【魔王城整備慰労会】を始めようとしている。


「「慰労会カンパーイ!」」

 アンとメイが開会宣言。


「「「「「いぇー!」」」」」  カシャーン

 焼酎をそれぞれ好きな飲料で割ったものをグラスに入れて皆で乾杯。


 焼酎を割らずに飲む猛者もさはアンとメイだけだ。

 各自飲んで、テーブルに広げたつまみをてきとうに食べる。

 ちょっと遅くなった夕食代わりなのでみんな空腹。

 みんな干し肉大好き。


 すると、アンとメイが突然立ち上がって一升瓶を振り上げたので皆が注目する。

「「突然の自白ターイム!」」

 アンとメイがなにかよくわからないことを言い出した。


「何やらかした。言ってみろ」

 【辛辣しんらつ長】が心配そうに問う。

 【魔王城】の財務管理担当だから立場的にあんまりモノを壊してほしくないのだろう。


「「あの時、王宮の排水処理設備壊したのは私達でーす!」」


 ブーッ ゲホッ ゲホッ×5


 男五人、酒を噴き出しむせる。

「何してくれてるんだお前たち!」

 最初に復活した【辛辣しんらつ長】がもっともなツッコミ。

 いや、本当に何をしてくれてるんだ二人とも。


「送風機と曝気槽ばっきそうの間の配管を、私の火魔法とメイの風魔法の応用でこうスパッとね。いや、アレであそこまで壊れるなんて知らなかったし」

「アンと二人で夜中に忍び込んでやったけど、誰にも見つからなかった。警備も点検もザルで助かったわ」


「なんで王宮職員のお前らがそんな破壊工作をするんだ! 何の目的だ。誰に頼まれた」

「「黒幕は当然あの!」」


 【辛辣しんらつ長】の追及に対して、当然のように主犯格を売るアンとメイ。

 そこは隠すところじゃないのか?


「黒幕はあのむすめか。把握した。あの日の襲撃は全部あのむすめの仕業だったんだな」

「どういうことだ。あのむすめは混乱に乗じて襲撃をしたと思っていたが」

 ブラックが確認する。そこは私も気になるところだ。


「つまり、排水処理設備を壊して王城区画から人を追い出し、街中で祭りをさせて王城に市民の目を集めたうえで、襲撃をしたんだ。あのむすめは」

「「正解ー!」」

 アンとメイが楽しそうに応えるが、男五人は私含めて呆然ぼうぜん


「あの時、メイと一緒に【バー・ワリャーグ】前の屋台で店番しながら見てたけど、それはもう見事な【公開処刑】だったわ。国王陛下が気の毒に思えるぐらいに」

「そんな黒い発想。何処で覚えたんだ……」

 腹黒自慢のブラックが呆然としてつぶやく。


「元・教育担当として言わせてもらうが、あのむすめは黒いつもりでやってない。あれがだ。見かけほどの残念脳筋娘ではないと言っただろう。綿密に計画、周到に準備、徹底して実行。当たり前のようにそういうことをする。気付いた時には手の上だ」

「普段の言動からはそうは見えませんが」

 【辛辣しんらつ長】の怖い発言にイエローがツッコミ。


 私もそう思う。

 彼女は普段はわりと衝動的に動いてるように見える。


「周囲にそう思わせるところがあのむすめの恐ろしいところだ。【被滅殺特別手当ひめつさつとくべつてあて】の設定があるから案件によっては発言に注意が必要だが、王宮の常識と一般論からちょっと考えてみろ」


「辺境出身の平民の女が、王位継承権を持つ王子の婚約者になると思うか?」


 【辛辣しんらつ長】の発言を聞いて、全員黙る。


 無いな。確かに無いな。

 彼女はいつのまにか当たり前のように第一王子の婚約者になっていたけど、よく考えたら次期王妃は貴族から選ばれるのが普通だ。

 相思相愛であっても平民を王妃に据えるのは各方面から猛反対がありそうなものだが。


 そういえば【王宮の白い悪魔】の噂は王宮職員や王宮騎士団だけでなく各地領主からも聞いたことがある。

 そして、その頃に殴り飛ばされて搬送されてきた怪我人の中には……。


 いや、考えるまい。

 私は何も見ていない。私は何も覚えていない。


 全員考えたことはおそらく同じ。

 そして、何も言えない。


「イヨ、謀ったな イヨー!」

 【辛辣しんらつ長】は沈黙を破り叫ぶ。

 そして、手酌で焼酎をグラス一杯飲み干して自ら潰れた。


 私は医者の仕事をする。

 潰れた【辛辣しんらつ長】を座敷に搬送。


「いくら彼女に頼まれたからって、勤め先である王宮への破壊工作をあっさり引き受けるなんておかしいだろ」

 気を取り直したレッドがちょっと話を戻して矛盾点を指摘。

 婚約者の件は全力スルーだ。


「いや、私ら王宮であのにはすごく助けられてきたから、頼まれると断れないのよ」

 メイが応える。


「王宮で一体何があったんだ?」


 普通に質問したレッドをアンとメイがとても冷たい目線で睨む。

 私には分かる。

 【元・王宮騎士団の団長】のレッドは特大の地雷を踏んだ。


「レッドからその質問をされる事が既に不快なんだけど、あえて明確に説明してあげましょう」

「あのが来る前は王宮騎士団の風紀が荒れてたわよね。王宮内の女性職員が不良騎士に乱暴される事件が起きては、誰かさんが隠蔽いんぺいしてたわよね。【元・王宮騎士団の団長】なら、この事実は知らないはずは無いわよね」

 不機嫌そうに説明するアン。


 私も確かに覚えがある。

 王宮病院勤務時代、彼女が来る前はそういう目に遭ったであろう女性職員が来院することはしばしばあった。

 何も語らなかったのでどうすることもできなかったが、そういうことだったのだろう。


「……あ、まぁ、確かに不道徳ではあったけど、当時は【魔物】との戦いで殉職する騎士も多くて、討伐に出たら命の保証が無い仕事だから……、士気のことを考えるとあまり強くも言えなかったところもあり……。隠蔽いんぺいしたつもりは無いんだが……」

「あのがそういう不良騎士を片っ端から殴り飛ばしてくれたおかげで、王宮内で女性職員が安心して働けるようになったのよ。だから、王宮の女性職員は全員あのの頼みは断らないわ」

 メイの追撃を聞いたレッドは覚悟を決めた表情をして焼酎をグラスに注いだ。


 私は慌てて止める。

 医者として見過ごせない。


「やめろ! 酒に弱いんだろ! その飲み方は自殺行為だ!」

「止めてくれるな。コレが【騎士道精神】だ!」

「絶対違う! 体質考えろ! 身体大事にしろ! 医者の言うこと聞けー!」

 結局、レッドは私の制止を振り切りその一杯をイッキして自ら潰れた。


 私は再び医者の仕事をする。

 全身真っ赤になったレッドを座敷に搬送。


 【辛辣しんらつ長】に続いてレッドが潰れたことでアンとメイのテンションは上がる一方だ。

 立ったまま焼酎を飲み一升瓶を片手にはしゃいでいる。


「今夜の【魔王】と【魔王妃】は【既成事実】!」

「喰ってしまえ! 喰ってしまえー!」


「あんまり騒ぐと医務室に聞こえますよー」

 あんまりな発言にイエローが立ち上がって止めようとする。

 止めるイエローもそこそこ酔っているようで、足元がおぼつかない。


「「イイ女は男を喰ってなんぼじゃー!」」

「オバサン臭い発言やめ」ドガッバキッ ベシャッ


 イエローの【禁断の言葉】に対し、アンのボディブローとメイの一升瓶尻叩きがイエローの表裏に【同時弾着】。

 イエローは床に沈んだ。


 メイはともかく、アンは元々女性騎士志望の武闘派だ。

 規格外とかデタラメとかそんな要素は無いが普通に強い。


 そして私は医者の仕事。

 失神した可哀そうなイエローを座敷に搬送。


「まさかとは思うが、その間違った表現をあのむすめに教えてないよな」

 生暖かい視線でアンとメイの暴走を見ていたブラックが確認。


「教えたわよ。【イイ女は男を喰うものだ】って。あの意外とそういう話好きなのよ」

 アンが応える。アンは【聖女】の侍女だったから、彼女と行動を共にする機会は多かったのだろう。暇な時のガールズトークでそんな話をしたのかどうなのか。


「知らんぞ……。手に負えない事態になっても、私は知らんぞ……」

 ブラックは青ざめた顔でつぶやきながら、焼酎を手酌で一杯飲み干して静かに潰れた。


 若干オバサン臭いガールズトークにそんなに青ざめる要素はなさそうなものだが。


 また私は医者の仕事。潰れたブラックを座敷に搬送。

 テーブルに戻ろうとして気付く。


 もう、私しかいない。


 これは危険な流れだ。明日も仕事だ。

 医者として言える。飲みすぎは良くない。

 ちょっと食べたりないけど、ここは切り上げよう。


「まぁ、皆潰れたから、今日はお開きと言うことで……」

「「まちなさい」」 ガシッ


 テーブルから離れようとしたところでアンとメイに後ろから両肩を掴まれて背筋が凍る。

 この二人は王宮の祝賀会や忘年会等で職員を片っ端から潰す悪質なカラミ酒の常習犯。男を酒で潰すのが楽しみで飲み会を開催するぐらいの確信犯だ。

 毎回潰された職員の処置をしていた私が言うんだから間違いない。


 私も今夜潰される。

 だったら、今のうちに聞きたいことを聞いておこう。


「さっきの突然の自白タイムは、【魔王妃】様の指示だったりするのかな」

「「正解ー!」」

 焼酎を入れたグラスを持って二人が迫る。


「【魔王】様と【魔王妃】様が今日医務室に搬送されるのは予定外だったけど、もしかして、彼女は状況毎に場合分けした指示をあらかじめ出していたりするのかな」

「「正解ー!」」

 危険なグラスから距離を取ろうと、私はゆっくり後退する。


「もしかして、こういう状況になった場合は、【慰労会】で男五人を全員潰すというのも指示のうちなのかな」

「「大正解ー!」」

 背中に壁が当たる。もう逃げ場がない。


 私は覚悟を決めた。


…………


 潰れて動けなくなった私を座敷に搬送してくれる人はいない。

 テーブル近くに倒れて意識が朦朧もうろうとする中で二人の話し声が聞こえる。


「今度はあのと飲みたいわね。メイもそう思うでしょ」

「確かに楽しみだけど、あの相手じゃ私たちが潰されそうよ」

「初飲酒でカルーアミルクを中ジョッキでイッキしてケロリだからね。素質あるわ」

「ケロリどころか、潰れたフリして運ばせて【王宮お礼参り計画】の指示を出すとか。あののすることはいつもとんでもないわ」


「あの計画がこれで終わりじゃないというところが、本当にとんでもないわね。【西方良書出版株式会社】に依頼した件が形になったら、国王陛下は退位に追い込まれるんじゃないかしら」

「国王陛下には気の毒だけど、アレをやっちゃったんだからねぇ……」


 よくわからないが、聞かなかったことにしよう。


 今日はいろいろなことが分かった。

 でも、今日も何を【護衛】すればいいのかは分からなかった。

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