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3-4 最寄り町ヨセフタウンで聞いたジェット嬢の渾名がひどい(2.1k)

 でかすぎて馬車に乗れなかった俺は、ジェット嬢を背負って馬車と一緒に町まで走った。


 城壁都市入口でヘンリー卿と別れた後、町を歩く。

 大通りを馬車が行き交う俺の前世世界での十八世紀風の地方都市。

 だが、違和感を感じて俺はジェット嬢に尋ねる。


「石造りと木造の建物が混在してるけど、この町ではこれが普通なのか?」

「石造りは比較的古い建物ね。今新築する場合は木造にすることが多いわ」


 ちなみに、背中合わせで背負った姿はさすがに目立つため、ジェット嬢は頭からすっぽりとカバーのようなものをかぶっている。荷物擬装にもつぎそうだ。

 カバーの隙間から周囲を見て、小声で俺に指示を出す。


「次の交差点を左折」

「ヨーソロー」


「次の赤い看板の店に入店」

「だぁらっしゃぁー」


 後ろしか見えなくても、街中でのナビゲートは完璧だった。

 最初に来たのは、ユグドラシル物流局。俺の前世の世界で言うところの郵便局である。ここでも赤い看板なんだなと懐かしさを感じる。


 入店後、荷物擬装にもつぎそうを解除して窓口に背中を向ける。

 窓口職員はジェット嬢と顔見知りらしく、楽しげに話をしながら用事を済ませた。ジェット嬢はサロンフランクフルトから持ってきた荷物を何処どこかに送る手続きをしたようだ。


 次はゴダードの病院へ行った。

 あのマッドサイエンティストゴダードのところだ。


 診察室にてジェット嬢を降ろし、俺は待合室で待つ。町の診療所のような雰囲気だが他に患者は居なかった。この町はみんな健康なんだな。

 診察の結果、傷口は順調に回復しているとのこと。例の魔力推進脚もあと三日ぐらいでできるそうだ。

 本当にアレやるの?


 街歩きは続く。


 次は洋服屋。仕立て屋とも言う。

 ジェット嬢の普段着と、俺の普段着を新調するためだ。特に、規格外ビッグマッチョな俺は既製品の服では着ることができないので仕立てるしかないのだ。


 ここでジェット嬢は、例のおんぶ紐的ハーネスの改良型の製作を依頼した。

 設計図のようなものを書いた紙を店主に渡す。

 それを見た店主は乗り気になったようで、早速俺とジェット嬢の採寸にかかる。

 ジェット嬢は試着室にて仕立て屋の夫人が採寸したようだ。


 新しいおんぶ紐的ハーネスの最大の特徴は、それぞれが着用状態で離脱と連結を簡単に行えることだ。連結部分は左右あわせて六個所の金具で、その金具さえ露出していれば服の下に着用も可能というよく考えられたものだった。

 いつの間に設計したのかわからないが、ジェット嬢、設計センスあるな。


 普段着もあわせて注文する。

 ジェット嬢はそのおんぶ紐的ハーネスに合わせて背中に穴を開けた薄赤色のメイド服。

 俺は、ポケットの多い作業服風の灰色の上着と、紺色のズボンを頼んだ。


 前世の俺は作業着で仕事するサラリーマンだった。

 だから、どうせ仕立てるなら、それに近いものが欲しかった。

 もちろん上着にはおんぶ紐的ハーネスの金具に合わせた穴の配置をお願いした。


 そしてついでに、俺用にコサック帽のような帽子を買ってもらった。転生初日に髪を焼かれて坊主頭のような状態になっていたので、何となく帽子が欲しかったのだ。


 次は、眼鏡屋。

 今の俺は視力は悪くないが、ジェット嬢がきっと似合うというのでレンズ大きめの度なし眼鏡を試着してみた。それを付けると、なんとなく前世の俺の風貌ふうぼうに近づいた気がして懐かしさを感じる。

 結局それを買ってもらった。


 眼鏡でコサック帽でビッグマッチョ。そして背中に【滅殺破壊娘めっさつはかいむすめ】これがこの世界の俺だ。


 一通り用事を済ませた帰り際。

 大通り沿いの酒場の前で乱闘騒ぎをしている男達に遭遇。

 野次馬も集まっている。


 俺はこの世界の文字が読めないので、その建物が酒場かどうかは厳密には確定できない。でも、白昼堂々酔っ払いが店の前で乱闘騒ぎをしているのだから、あれは酒場なんだろう。

 スルー一択と考えて野次馬の外周から離脱しようとしたら、荷物擬装にもつぎそう状態で背負っているジェット嬢から理不尽な指示が飛ぶ。


「ターゲット確認。反転。突撃せよ」

「指令! スルーを提案します」


「却下する。ただちに突撃せよ」


 逆らえない俺は仕方なく突撃を敢行。


 野次馬をかき分けて乱闘男達の前までたどり着き、回れ右して背中を見せるというヘンテコアクション。

 荷物擬装にもつぎそう解除したジェット嬢が男たちに声をかける。


「お久しぶりね。白昼堂々、何楽しそうなことしてるの?」


「「お前は! 【金色こんじき滅殺破壊魔神めっさつはかいまじん】!」」


 男たちの発言に俺は思わず噴き出した。

 何そのネーミングセンス。

 何をどうやったらそんな風に呼ばれるようになれるのか。


「その名で呼ぶんだったら、期待に応えてあげたほうがいいかしら」

「「申し訳ありません。どうかお許しください!」」


 乱闘していた男達、直角謝り後一目散に逃げる。

 喧嘩してたんじゃないのかよ。

 男たちが逃亡し、野次馬も解散し、大通りが静かになったところで、俺はつぶやいた。


「過去に何があったのか、聞くのが怖いな」

「聞かなくてもいいのよ」


 それもそうか。


 俺達は、サロンフランクフルトに帰った。徒歩で。



・魔王歴82年 5月6日

 魔王討伐隊からの急ぎの使者が王宮に到着。

 魔王討伐成功と討伐隊隊長である第一王子 ユーリ・ジル・ユグドラシルの戦死を報告した。

 その報を聞いたユグドラシル王国国王 ワフリート・ソド・ユグドラシルは、使者の前で杖を落としたという。

●次号予告(笑)●


 自らの【失言】のために脚を失った女のために、男は食堂棟のバリアフリー化工事の指揮を執る。

 【バリアフリー】を【アスレチック】にしてしまった男に対し、【金色こんじきの滅殺破壊魔神】は容赦なく判定を下す。

「やり直し!!」


 そうこうしているうちに完成した【魔力推進脚】の部品。男は罪の意識を感じながら手術室へ消える女を見送る。

「せめて、俺が脚代わりになってやる」


 そして、女は久しぶりに会った顔見知りの不適切行動に亜音速の蹴りを放ち、蹴られた男は電気研究者の成果物を「がっかり重量物」とこき下ろす。


 その混沌の先に、この世界の「雷属性魔法」の未来が見える。


「雷は、電気だ」


次回:クレイジーエンジニアと魔法の雷

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