臨死戦隊★ゴエイジャー配属編 臨死ブルーの機長就任(5.1k)
私は、元・ユグドラシル王国戦略空軍少尉。今は【臨死戦隊★ゴエイジャー】所属の【臨死ブルー】だ。
本名はロバート。だけどもう【臨死ブルー】でいいかなと思ってる。
【魔王妃】様が王宮襲撃に来たあの日。世界の滅亡を阻止するために居住棟の屋上より狙撃を試みるも、建屋ごと粉砕。生き埋めにされて二日ほど臨死。
【魔王妃】様との最初の出会いは、彼女が第一王子の婚約者になった頃だった。
その日、王宮騎士団で兵站を担当していた私は、各部隊に支給された新型の盾を受領するために王宮に来ていた。
食堂で昼食を頂いた後、スタイルのいいウェイトレスを見かけたのでついお尻を撫でてしまった。
私は【女は胸よりも尻だ】という信念を持っているし、当時は王宮騎士団の風紀が乱れていて、そのぐらいなら許されるという雰囲気があった。
だが、そのウェイトレスが振り向いた瞬間、それが決して許されない行為であるということを心の底から悟った。
【なんで使用人に混じってウェイトレスやってんねん】というツッコミをする間も与えられず殴り飛ばされ、気が付いたら病院だった。
殴られた怪我はすぐに回復し、【女は胸よりも尻だ】という信念はより確固たるものとなったが、怪我した理由が第一王子にバレたら極刑不可避という恐怖に怯える日々が続いた。
それに前後して王宮騎士団の風紀は急速に改善された。
魔王討伐完了後も王宮騎士団に所属しており、第二王子の指揮下で国内各所を転々としながら雑用をしていた。
その任務の中で、キャスリン様が乗り回していた飛行機に興味がわいたので、首都の滑走路整備工事計画が出た時に志願して参加した。
広い滑走路を整備して運用開始を待っていたが、そこで運用が予定されていた大型機は完成しなかったと聞いてがっかりした。
エスタンシア帝国からの【宣戦布告】とその際の組織変更により、私は【ユグドラシル王国戦略空軍】に配属され、少尉に任命された。
空軍の責任者はキャスリン様で、メンバーは三人しかおらず、実質私がリーダー役だ。
空軍を大規模に編成して、空からの攻撃を集団で行えば戦力にならないかとキャスリン様に意見具申したが、それをすると、相手も同じことをし始めて【戦略爆撃】の応酬となり、世界中に安心して住める場所が無くなると説明を受けて納得した。
戦というのは勝てばいいというわけではないことを痛感した。
前線基地で飛行機の操縦訓練を受けたのち、航空兵站部隊として【軍用1号機】による小型の建材輸送に従事した。
【軍用1号機】は良い飛行機だったが、運用開始当初は積載量の少なさに悩まされた。
輸送任務に従事している際に、超低空飛行時に揚力が増大する現象を偶然発見。
その現象を仮に【地面効果】と名付け、リオ主任の協力を得てその原理の応用で【軍用1号機】の積載量を増加させる改造に成功。
降着装置の強化と貨物懸架装置の追加により、平野部に設定した専用の経路を地表スレスレで飛ぶ【地面効果翼機】として、トロッコ鉄道のレールなどの長尺の重量物輸送に活躍した。
空軍メンバー三人で有翼貨物コンテナ【八咫烏】の操縦も行った。
第一王子似の大男と彼女が背中合わせで機動推進牽引機になっていたが、そこは気にしないことにした。
【八咫烏】は積載量こそ大きかったが、操縦が難しく運用に制約が多いため平時での運用は難しいものだった。
大型機が欲しいと切に願った。
事実上の休戦から正式に休戦協定が成立するまでの間は、空軍の三人で交代しながら【軍用1号機】を両国間の連絡機として運行。
首都とカランリアは遠いので、連絡や輸送にこの【軍用1号機】は大活躍だった。
しかし、長距離飛行なので操縦士は二名必要。
そうなると乗客は二名しか乗れない。
この時も大型機が欲しいと思った。
二日間の臨死体験から帰ってきた後、瓦礫の山となった王宮跡地にて、顔面ボコボコの引っ掻き傷だらけになっていた国王の指示で、【バー・ワリャーグ】に向かった。
そこに先に来ていたメンバーと共にレッドの到着を待った後、西側都市を食べ歩きしながら【魔王城】に移動。
私の地元も経路だったので、お忍びで第一王子を連れて行ったこともある穴場の名店に案内したらアンとメイが大喜びした。
その夜はそこで飲み会になり、レッドが真っ赤になって酔い潰れるハプニングもあったが、無事に【魔王城】に到着。
【配属面談】で吹っ飛ばされた後、【辛辣長】から就業規定の提示を受けた。【ユグドラシル王国戦略空軍】所属時よりも好条件で収入も増えた。
【魔王城】は居心地の良いアットホームな職場だ。任務が決まるまでは雑用係ということで、配属当初は大型機用滑走路整備工事に従事。
それが終わったら、地味に広い【魔王城】西側台地の草刈りをした。
そして、キャスリン様が謎の大型機を強奪してきた時に私の任務が決まった。陸上突撃機【双発葉巻号】の【機長】だ。念願の大型機だ。
最初の仕事は、【西方航空機株式会社】の工場にこの【双発葉巻号】を回送し、艤装完了後に受領して持ち帰る事。
「……!!」
遠くから声が聞こえる。
「…………まし! ……きて……!」
そして私は、回送ついでにキャスリン様から大型機の操縦訓練を受けるため、【魔王城】の滑走路から【双発葉巻号】で離陸したはずだが……。
ガン
「痛っ!!」
頭に加わる衝撃で目を覚ます。
ここは陸上突撃機【双発葉巻号】の機長席だ。そして右隣には鬼教官のキャスリン様。右手で操縦桿を、左手には金属パイプを持っている。
それで私を殴ったのか。
「呼んだらさっさと起きてくださいまし」
鬼教官は【双発葉巻号】を片手運転しながら呆れたように口を開く。
「申し訳ありません。教官」
それもそうかと謝りつつ、なぜ私は機長席で寝ていたのか。記憶をたどる。
「旋回荷重で失神するなんて操縦士失格ですわよ。単座機だったら今頃墜落ですわ」
右隣の鬼教官が答えをくれた。
もっともな話だ。私は不甲斐ない自分を恥じて再び謝る。
「申し訳ありません」
「でも、一度墜落を経験してみるのも操縦士としてはいい経験ですわよ」
【双発葉巻号】を片手運転しながら、鬼教官は怖いことを言い出した。
冗談じゃない。普通に死ぬ。かな?
でも、私は墜落以上の酷い目に遭って臨死体験したけど今生きているわけだから、墜落ぐらいじゃ死なないような気もしてくる。
そこで失神寸前に見た光景を思い出し、慌てて反論する。
「教官! 意識失う直前に荷重計の指示値が七倍超えたの見たんですけど! この機体の安全荷重は六倍ですよね! 何してるんですか!」
「さっきは九倍まで振りました。七倍程度で失神するようじゃ操縦士の適性が乏しいのではないでしょうか」
鬼教官はしれっと応える。
あんまりな発言に私は夢中で叫ぶ。地元の方言が出てしまうほどに。
「ありえへん! そもそもこの機体輸送機やろ! 二倍とか超えたら積荷とかぐちゃぐちゃやん! それ以前に、安全荷重超えたら空中分解で墜落ですがな! ホンマ何してくれんねん!」
「限界は超えてから勝負ですわ。ウィルバーの設計ならこのぐらいは耐えますの」
鬼教官はぶっ飛んだことを平然と言い出した。
私も必死だ。
「絶対ありえへん! オカシイ! アンタ頭オカシイ! アンタに適性とか言われとうない! ホンマありえへん!」
「じゃぁ次は七倍荷重でもう一回チャレンジですわ。せめて八倍ぐらいは平気で耐えてもらえないと、良い飛行機乗りにはなれませんわよ」
鬼教官は機嫌を損ねたのか、次の暴挙を宣言する。
「ありえへん! 確かに耐荷重強いほうがいいけど、やりすぎ! 明らかにやりすぎ!! でも、九から七に下げてはくれるんですね」
「さっきの九倍荷重で右主翼中央の鋲が数本飛んだので、やむなく下げました」
鬼教官はしれっと危険な発言。
機体の窓から右主翼を見ると、確かに歪んでる。
「耐えてないやん! あかん! 着陸しましょう! 着陸! 緊急着陸!」
「そんな弱気では勝てません。さぁいきますわよ。歯食いしばってください」
「あかーーーーーーーん!」
損傷した主翼が七倍荷重に耐えられるはずもなく。
高荷重旋回中に右主翼は中央部で破断。
バランスを失った機体はきりもみ急降下。
「このぐらいよくある事ですわ。立て直してごらんなさい」
きりもみ状態で急降下する中、鬼教官の指導は続く。
グワーン グワーン グワーン
プロペラが急降下の速度に負けて回される音が機外から響く。
降下は加速する一方。機体の回転も止まらない。
ツッコミ入れる余力もない。
「高揚力装置!!」
私は叫ぶ。
「主翼があの状態でまともに動くと思いますか? 頭を使ってください」
鬼教官は折れた右主翼の方向を扇で指して、呆れたように指摘する。
「!!!」
回転しながらの急降下は続く。
頭の中は真っ白。このままではあと数十秒で地表だ。
鬼教官の追撃。
「【乗機】の声が聞こえませんか? 操縦桿は心で握る物ですよ」
「着陸して降りる瞬間まで、命を預ける大切なパートナです。その声が聞こえないようでは、良い【機長】にはなれませんわ」
回転しながら垂直降下する機体の操縦席正面に地表が見える。
降下速度は落ちない。
機体の姿勢も起こせない。
絶体絶命。
「私には、できないのか! 【機長】にはなれないのか! 教えてくれ! 【双発葉巻号】! お前の声を聞かせてくれ!」
極限状態の中、操縦桿を握りしめそう叫んだ瞬間。視界の前に光が広がる。
走馬灯 ではない。
そこは、ヒトとモノの心が通う、聖地。
神宿る 森羅万象の終着点。
うっすらと見える神の領域の向こうから、【双発葉巻号】に宿る魂の声を確かに聞いた!
【そのデタラメ女をなんとかしてくれ】
【機長】と【乗機】の心は一つになった。
操縦桿を握る手を通じて、全てが見える。伝わる。
【双発葉巻号】の骨組み。損傷。
機体に張り付く空気の流れ。
そして、次に取るべき操作。
全てが分かる!!
【機長】と【乗機】は心を重ねて叫ぶ。
「「【尻】を落とせ!」」
昇降舵上げ舵、方向舵右いっぱい。
機体の回転が止まり、尾翼を落とすような形で機首が水平姿勢に近づく。
傷付いた主翼が再び風を掴み揚力を生み出す。
その瞬間、大荷重。
【機長】の全身の骨が軋む。
頭骸骨内で眼球の重さを感じる。
意識が再び飛びそうになる。
【乗機】の骨組みも軋む。
主翼の翼桁がAE波で悲鳴を上げる。
再び心を重ねて叫ぶ!!
「「耐えろ!!」」
機体の姿勢を左向きで水平に立て直すが、傷ついた翼の揚力だけではその質量を支えきれない。
機体は水平姿勢のまま緩降下を続ける。
「「推力!」」
操縦席中央の電動機出力操作レバーを一気に引き上げる。
両翼の電動機後ろの魔力電池が赤く輝く。
フロギストンから変換した莫大な電気エネルギーを高出力電動機に叩き込む。
再び【機長】と【乗機】の心の叫びが同期する。
「「増速!」」
大出力電動機は歓喜の咆哮を上げ、電機子反作用による火花を輝かせながらプロペラに強力な回転力を送る。
力を得たプロペラが風を掴み、緩降下する機体に推進力を与え機体は加速する。
だが、地表まであと僅か。緩降下は止まらない。
「「地面効果!」」
プロペラ後流が麦畑の土を撒きあげるまで降下したところで、地面効果による揚力増大で降下が止まる。
双発葉巻号は水平姿勢で麦畑を走るように飛び加速する。
「【地面効果】は私のモノだぁぁぁぁ!」
麦畑を削りながら巡航速度まで加速。
尻もちをつかないように僅かに機首上げ、そして上昇。
陸上突撃機【双発葉巻号】は傷ついた翼で大空へと還る。
…………
こうして私は、陸上突撃機【双発葉巻号】の【機長】となった。
だが、何を【護衛】すればいいのかはわからない。




