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幕間 退役聖女のお礼参り(9.2k)

 王宮で【魔王討伐一周年記念祝賀会】を開催してから約一カ月後のある日の昼食時間。国王と宰相と第二王子の三人は城の塔の上層階にある小部屋に集まり、仕出し弁当を食べていた。


 王城区画の排水処理設備が昨晩未明に故障して異臭が発生。

 排水処理ができなくなったことにより王城区画内に大人数が留まることができなくなった。


 そのため、警備等の必要最小限の人数を残して職員は王城区画内から退避。居住棟も機能不全となったため、王城区画内居住者も城下町の宿泊施設に避難。


 必要最小限の業務は王城区画外側の宿泊施設を借り切って継続することにし、緊急性の低い業務や王城区画内の設備維持業務については臨時休業として大半の王宮職員は帰宅。


 王宮食堂の調理場も使用不可になったが、王宮専属料理人有志の発案で今日使用予定だった食材を城下町の複数の飲食店街に移し、【王宮食フードフェスティバル】を臨時開催していた。


「外は祭りなのに、我々が塔に幽閉とはな」


 弁当を食べながらの国王のぼやきに宰相が応える。

「分かっていると思いますが、警備の都合もあり我々は迂闊うかつに外出できません。あと、区画内の警備も少人数なので、経路が少なくて警備がしやすく、かつ、異臭の影響が比較的少ないこの部屋を選んでます」

「そうだったな。まぁ、たまにはこんなのも悪くないか。弁当も美味いし」


 第二王子が弁当を食べながら話しかける。

「それにしても、王宮を臨時休業にしてしまうとは、父上も大胆ですね」

「まぁ、城の一階二階は異臭の影響がひどくて長居はできないし、最近エスタンシア帝国との外交交渉に関連して各部署に負担をかけていたからな。休みにするにはちょうどいいかと思ったのだ」


 宰相も続ける。

「排水処理設備の方は【西方環境開発株式会社】の整備員を呼びに行ってるので、午後には復旧作業が開始できると思いますが、復旧には時間がかかるかと。しかし国王。排水処理設備の故障の影響がこれほど大きいとは盲点でしたね」


「そうだな。あの設備のおかげで排水問題を解決できたのはよかったが、故障に備えて以前の自然放流用の流路を残しておくべきだったかもしれん。排水ができないだけで、その区画で大人数が動けない。考えればわかりそうなことだった」


 全員食べ終わり、第二王子が全員分の弁当箱を部屋の隅に片づける。

 三人でなんとなく塔の窓から外を見る。

 城下町がにぎわっているのが見える。


「イェーガよ。なんか、飲食店街だけでなく公園にも人だかりができているように見えるが、あそこでも祭りをしているのか?」

「はい。今朝の折り込みチラシによると【王城写生大会】をしているようです」

「あぁ、先月城の外壁掃除をしたからか。綺麗になった王城の絵を描いてくれるのか。それはいいな。主催は何処だ」


「主催は【西方良書出版株式会社】ですね。応募された作品の展示会で人気投票を行い、得票が多かった絵の作者には賞金も出るとか。あと、力作は絵画集としてまとめて出版するそうです。描く場所は自由とのことなので、城が良く見える公園に集まっている人が多いとか」

「それは楽しみだ。あの出版社は新しいだけあって、いつも斬新な企画で楽しませてくれるな」

「王宮内の【絵画愛好会】も今日はメンバーが臨時休業なので参加するようです」

「王宮画家達も描いてくれるのか。彼等はレベルが高いからそれは楽しみだな。絵画集が発売されたら国中の図書館に配ろう」


 外を眺めた後で、三人とも室内中央のテーブル席に着席しそれぞれ水筒のコーヒーを飲みだした。

 普段は忙しい三人だがこの状況下で暇になり、今の状況をいろいろ考えだす。


 しばしの沈黙の後、第二王子が話を切り出す。

「父上、先日の【魔王討伐一周年記念祝賀会】の時、あれはイヨ嬢にとってはこくだったんじゃないでしょうか」

「あの件については密会したあの男に散々説教されたよ。今思うと確かにそうだった。エスタンシア帝国との外交交渉に加えるだけなら、顔面を修復する必然性は無かった。それをさせてしまったのは、結局、死んだユーリの顔をもう一度顔を見たいと思ってしまった私の弱さだ」


「あの時イヨ嬢怒って飛んで行ってしまいましたが、キャスリンが言うには【かなりヤバイ】そうです。一度謝罪したほうが良いかと思います」

「そうだな。おそらく実家に帰っているだろうから、近いうちに、ヨセフタウンに謝罪に行くか。キャスリンに連絡役を頼めるか? そういえば最近キャスリンの姿を見ないな」


「最近キャスリンは王宮に居ません。ボルタ卿の邸宅を活動拠点にして、国内を飛び回ってます」

「一体どうしたというのだ。連絡役や【一方通信】による放送とか、いろいろ便利だから、なるべく王宮に居てほしいのだが」


「父上、いつも言ってますが、キャスリンを便利アイテムにしないでください。キャスリン曰く、王宮に居るとひどい目に遭いそうだし、【試作2号機】を壊されたくないからしばらく帰らないとのことです」

「そうか。キャスリンはイヨ嬢と仲良かったからな。それで怒らせてしまったところもあるのかもしれんな」


「実際、あの時かなり怒ってましたね。会場をあっというまに滅茶苦茶にされました。女性目線だと我々が思う以上にアレはひどかったのかもしれません」


 宰相が口を挟む。

「国王。イヨ様に謝罪に行くなら早いほうが良いかと思います。なにか、嫌な予感がします。ウラジィ氏の力で休戦協定は成立したので、我々に他に急務はありません。例の【戦車】の設計資料の件もありますし、あそこなら、まだ軍人が多く常駐しているので警備を連れていく必要もありません。明日にでも【軍用1号機】でヨセフタウンに出張しましょう」


「そうだな。イェーガよ。空軍のロバート少尉を呼んできてもらえんか」

「了解です父上。居住棟側に居るはずなので、護衛兵を連れてちょっと呼んできます。ついでに弁当箱を返却してきます」


 ドガーン


  第二王子が弁当箱を入れた紙袋を持って部屋から出ようとした時、塔の上の方から衝撃音が聞こえた。


「何が起きた! 敵襲か?」


 王宮防衛隊の兵士が駆け込んできて報告。

「城下町より謎の光で攻撃を受けました! 魔法と思われますが、正体不明。現時点では被害は塔の屋根の損壊のみです!」

「発射地点はどこだ。確認を急げ」


 別の兵士が駆け込んできて次の報告。

「未確認飛行物体急速接近! 赤いです。赤い奴が来ます!」


 【赤い飛行物体】


 心当たりを思い出した国王が青ざめながら叫ぶ。

「王城区画に残る職員は総員地下室に退避! 赤い奴を絶対に迎撃はするな! そいつに銃を向けるなと王宮防衛隊に緊急連絡だ!」


 兵士たちが伝令に駆け出す。と同時に、何処からともなく聞き覚えのある声が聞こえる。

 よく通る声だ。


『死んだ人間を生き返らせようとするアホはどこかなー』


「イヨ嬢だ。イヨ嬢の声だ!!」


『ワタクシ温厚なので、【最終兵器】扱いで【魔物】の中に放り込まれるぐらいは我慢しましたー』


 宰相はこれから起きることを予測してつぶやいた。

「遅かったか。とんでもない厄介者を生み出してしまった……」


 再び、よく通る声が響く。

『温厚で慈悲深いワタクシも、あの日のアレは我慢の限界を超えましたー』

「まさか、祝賀会で兄上を復活させようとした件か! アレがやっぱりまずかったのか!」

『イェーガ王子、正解ですよー。大正解デース』


 三人の恐怖ゲージはいきなりMAXに達し、思わず叫ぶ。

「「「聞こえてるのかー!」」」


 ドガン ドガン ドガン バーン ドガン ドガン ガラガラガガラ ドーン


 建屋内に衝撃音が響き、あちらこちらから何かが崩れている音が聞こえる。室内の天井から砂や内装部品がバラバラと落ちている。


 ドガン バーン ガンガンガン パリーン ガラガラガラ ドーン


 だんだん音は近くなり、建屋の振動も大きくなる。そんな生きた心地のしない時間がどれだけ続いただろうか。


 室内に風が吹き込む。


 へたり込んで震えていた三人が顔を上げると、塔の外壁が無くなっており、その外側に薄赤色のメイド服を着た黒目黒髪の女性が右手に金属パイプを持って浮いていた。

 膝丈ひざたけスカートの下に脚は無く、その代わりに薄く金色に輝く推進噴流が出ている。


 【しん金色こんじきの滅殺破壊魔神】降臨


 冷たい視線で三人を見下ろしていたが、突然振り返ると金属パイプから光弾こうだんのようなものを乱射しだした。


 ガァン ガァン ガァン ガァン ガァン ドーン ガーン ガラガラガラガラ


 光弾こうだんが命中した建屋、王宮防衛隊本部はまたたく間に瓦礫がれきの山となった。

 宙に浮いた状態で再び振り返り、三人を見下ろしながら【しん金色こんじきの滅殺破壊魔神】が口を開く。


「命令の伝達が遅いですねー。ワタクシ背後から狙われるのがすごく嫌いなので、しっかりと粉砕してしまいましたー」


 今回は普通の声で聞こえる。右手に持っている金属パイプの先端は三人に向いている。


「ワタクシの目の前でアレをして無事で済むと思っていたなら、ちょっと正気を疑いまーす。正気でやってるなら、ワタクシに甘えすぎデース」


 王国重鎮三人、横一列に並んで土下座。

「「「申し訳ありませんでした!!」」」


 ガァン ガァン ガァン ガァン ガァン ガラガラガラ・


 金属パイプから室内に光弾こうだんが撃ち込まれる。室内がめちゃくちゃになり水筒も弁当箱もバラバラになった。その後、金属パイプを右下方に向けて再び乱射。


 ガァン ガァン ガァン ガァン ガァン ガァン ドーン ドガーン バーン ガラガラ


『防衛隊の皆さーん。銃で撃たれたら死ぬワタクシに、銃口を向ける意味。本当に理解してまーすかー?』

 今度はよく通る声が響く。


 続けて左下方に向けて乱射。


 ガァン ガァン ガァン ガァン ガァン ドガーン ガラガラ ドガーン ゴゴゴゴ パリーン


『銃口を向けた相手に対しても、わざわざ死なないように配慮して反撃している意味。理解してまーすかー? このワタクシにとってはー。区画内まとめて焼き払う方がよっぽど簡単なんデースよー』


 物騒なことを言いながら、金属パイプを逆手に持ち替えて真下に向けて、再び乱射。


 ガァーン ガァーン トガーン ビリビリ ドガーン ビリビリ 


 地上に命中した衝撃なのか、建屋全体が振動する。


『このワタクシを真下から見上げるのは厳禁デース。紳士なら理由は分かりますよねー』


『ワタクシ慈悲深いのでー。殺しはしませんがー。銃口を向けた方と、下から見上げようとした方には、瀕死ひんしの重傷と楽しい臨死体験をプレゼントしまーす』


 再び、右下方に乱射。


 ガァン ガァン ガァン ドーン ドーン ドーン


『国王から攻撃禁止命令が出てるんデース。軍人なら命令守ってくださーい』


 乱射による影響なのか右手に持っている金属パイプの先端が赤熱している。それを一振りすると先端から水蒸気が噴き出した。水魔法で冷却したようだ。


 王宮施設がたやすく粉砕ふんさいされ、王宮防衛隊が軽々と蹂躙じゅうりんされている。

 施設への被害がどれほどのものかは分からないが、軽微ではないことだけは確かだ。


 こんな悪夢のような光景を王国重鎮三人が横一列に正座した状態で呆然ぼうぜんと見守っていた。


「あの日。私が脚付きで祝賀会に参加した時デースね」


 一通り暴れ終わった【しん金色こんじきの滅殺破壊魔神】が普通の声で話しかけてくる。

 話の続きのようだ。


「実は、あの男を替え玉で第一王子に仕立て上げて即位させ、私が王妃に納まるのも悪くないかなーと考えていたのデースよ」


「「「!!!!!」」」

 国王、宰相、第二王子は驚愕した。

 自分達も当初同じことを考えていた。

 実際、あの日彼女が飛び去ったりしなければ、実際そうするつもりだった。


 国王は問いかける。

「では、なぜ! なぜ逃げたんだ。あの時逃げなければ、あの男が協力してくれれば、エスタンシア帝国との交渉ももっとスムーズに」


 ガァン ガァン ガァン ドガーン 


 再び室内に光弾こうだんが撃ち込まれる。

 今度は三人が座っている床近辺に着弾。

 床に穴が開いて、下の階が見える。


「ワタクシ仕事がんばったんデース。【聖女(最終兵器)】として、痛いのやつらいのをたくさん我慢して役割果たしたんデース」


 唐突に関係なさそうなことを言い出した。

 宰相は意図に気づいて問いかける。


「討伐で負傷していたのか。そんな報告は受けていなかったぞ」


「もしかしてー。ワタクシが毎回無傷で戦っていたと本気で思ってたんデースか? 大火力魔法は使いどころが限られるので、遮蔽物の多い戦場では【魔物】相手に拳で応戦することも多かったんデースよ」


 三人とも、【魔物】がどのようなバケモノかは知っている。

 直接戦ったことは無いが、剣も盾も持たずに単身拳で応戦できるような相手ではないことぐらいは分かっている。


「討伐から帰るときは着替えてたんデース。ウェイトレスは身だしなみにも気を遣うものデース。それに、騎士団の戦意高揚のため【無敗むはい象徴しょうちょう】を演じることも求められていたんデース」


 三人とも知らなかった。

 ボロボロになって帰って来る騎士団の中で、一人だけ小奇麗にして帰って来る姿しか見ていなかった。

 騎士団を前衛として、離れた場所から大火力魔法で【魔物】を一掃しているとばかり思っていた。


「【誰に】求められたかは、聞いてはいけませんよー。それは【滅殺案件】デース。温厚で慈悲深いワタクシですが、そこだけは沸点低いデース」


 三人とも、口に出さなくても誰の指示だったかは分かる。

 そんなことができるのは一人しかいない。

 いや、一人しかいなかった。


「【魔王討伐計画】。序盤戦は平野部での戦いだったので、確かにワタクシ無傷で帰ることも多かったデース」

「でも、戦線が魔王城に近づき、戦場が山林地帯になった頃からが大変デース。山林を焼き払うわけにはいかないので、見通しが効かず、大火力魔法が使えない林の中で【魔物】の群れと戦うわけデース。戦況が悪化した時には、騎士に戦死者出さないために、ワタクシ盾になり、白いローブを真っ赤に染めるような戦い方をしてたんデース」


 三人とも聞いたことがある。

 討伐に参加した騎士達が言っていた【赤い凶星きょうせい】。

 【魔物】の返り血で赤く染まる【聖女(最終兵器)】の渾名あだな


「白いローブを真っ赤にするワタクシの姿を見て、騎士達がずいぶん失礼な渾名あだなを付けてくれましたねー。でも、赤いのは返り血じゃないデース。【魔物】を斬っても血は出ないデース。赤いのは自分の血デース。斬られて、折られて、えぐられて、それを【回復魔法】で治療しながら【魔物】と殴り合いデース」

「【魔物】に前からえぐられると一撃で心臓丸見えにされるんデースが、【回復魔法】で瞬時に塞いで殴り返したりしてたから、端から見たら不死身に見えたかもしれませーん。でも、痛かったデース」


 致命傷を負いながら、負傷を上回る速度で【回復魔法】で治療して戦い続ける。

 そんな戦い方は誰も考えたことが無かった。

 当然、それができる人間も居なかった。


「それすると、あの頑丈なローブもすぐにバラバラデース。作戦終了時には自分の血を着てるような状態デース。それで負傷した騎士達の治療をしてから、自分で掘った穴の中で水魔法で身体洗って着替えてから凱旋がいせんデース。あの【お姫様扱い】はつらかったデース」


 三人とも全く知らなかった。

 【魔王討伐計画】に従い繰り返される魔物掃討作戦。作戦成功を繰り返しての快進撃。

 大作戦が終わるたびに、凱旋がいせんと祝賀会を行っていた裏で、そのようなことになっていたなんて全く知らなかった。


「士気を維持するためにそのへんは緘口令かんこうれい出してましたからねー。【誰が】は聞いてはいけませんよー。まぁ、ワタクシも【聖女(最終兵器)】っていうのはそういう仕事と割り切っていた部分はありますが。それにしても、痛かったデース。つらかったデース」


 三人は塔の外側で宙に浮く【しん金色こんじきの滅殺破壊魔神】を驚愕きょうがくの表情で見上げる。


 【しん金色こんじきの滅殺破壊魔神】が宙に浮いたまま寂しそうに空を見上げてつぶやく。

「ワタクシ、仕事がんばったんデース。役割果たしたんデース。でも、あとちょっとのところで、欲しかったものが【お預け】デース」


「【お預け】されたとき、もうオシマイかなとも思いましたがー。生きようかと思いまして。まぁ、いろいろありましたが。安心できる場所、そこそこマトモな【お姫様扱い】。やっとたどり着いたんデース。あとはあの場所で、なにもかも忘れてのんびり暮らしたかったんデース」


 三人は言葉が出せなかった。


 黙って見上げる三人を【しん金色こんじきの滅殺破壊魔神】が怒りの表情で睨みつける。

「そんなワタクシをわざわざここに呼び出して、みなさん一体ナニをしましたー?」

「断りもなく、相談も連絡もなく、なんの躊躇ちゅうちょもなく、いきなり【一番してほしくないこと】を【一番嫌がるやり方】でしてくれましたねー」


「私がやっとたどり着いた居場所を取り上げようとしてくれましたねー」


 【回復魔法】による第一王子の顔面の修復。

 阻止しようとする彼女を、義足で動きが不自由なのを利用して力づくで取り押さえる。

 そして、それらを、何の事前連絡もなく不意打ち的に強行。


 このような形にする必然性は無かった。


 二人を呼び出した目的は、別人になっていた第一王子を形だけでも王族に呼び戻すこと。

 そして、エスタンシア帝国との外交交渉に加えること。


 その相方の扱いは目的には含まれていなかった。

 飛んで移動するために必要なので一緒に呼び出しはしたが、何も考えていなかった。


 一人で国を滅ぼしかねない力を持つ【金色こんじきの滅殺破壊魔神】。本来なら取り扱いに注意が必要な存在。

 しかし、第一王子に対して従順であったため、誰も反逆することを想定していなかった。

 だが、第一王子が亡くなった時点で彼女が王国に従う理由は無くなっていた。


 【聖女】を退役し、退職金を受け取り、王宮とは距離を置いてサロンフランクフルトで大人しく暮らしていた。

 このままそっとしておけば、国に対する脅威にはならない存在であった。


 それをわざわざ呼び出して、無思慮な行動で怒らせてしまった。


 国王が震えながら声をかける。

「扱いが雑だったのは謝罪する。今からでもあの男と共に王宮に戻るつもりは無いか。王族の一員として国の発展に力を貸してほしい。王妃相当の待遇は用意する」


 ガァン ズドォォォォン ガラガラ

   ガァン ズドォォォン ガラガラガラ


 三人の背後に向けて光弾こうだんを発射。

 建屋が崩れる音がする。


「あちち……」 ジュバァァァァァァァ

 水蒸気の出る金属パイプを振り回している。


 金属パイプが冷えたのか、【しん金色こんじきの滅殺破壊魔神】が怒りを浮かべた表情で応える。


「ナイですねー。アレやっといて今更それはナイですねー。それに、欲しかったものはソレじゃないんですよー」


 宰相が半ば開き直って口を開く。

「何が望みだ。雑な扱いの報復として国を亡ぼすつもりか」


 【しん金色こんじきの滅殺破壊魔神】がしれっと応える。

「王国からひどい扱いを受け続けたワタクシ、王国に【慰謝料いしゃりょう】を請求しまーす」


 王国重鎮三人。そろって絶句する。

 お金で済むなら、いくらでも払いますからと。そんな表情だ。


 【しん金色こんじきの滅殺破壊魔神】がすっとぼけた口調で続ける。

「【バー・ワリャーグ】に小切手又はそれに類するものでヨロシクー。金額はお任せですがー。結果に責任を持てる額をよーく考えてくださいねー」


「あと、ワタクシに銃口向けたアホ五名を、動ける程度に治療してから引き渡しお願いしまーす。瓦礫がれきの下に生き埋めで臨死りんし体験を楽しんでいますが、【回復魔法】で治療すれば動ける程度にはすぐに回復する程度の重症デース。これも【バー・ワリャーグ】までー」


「大丈夫デースよ。殺すつもりはありませーん。帰すつもりもありませんが」


「このワタクシを下から見上げようとしたアホ二名はいらないので、そっちは連れてこないでくださーい。瀕死ひんしの重症ですが、死んではいませーん」


「おまけとして、ワタクシを厄介者呼ばわりしたそこの宰相も【バー・ワリャーグ】まで連行お願いしまーす。殺しはしませーん。帰しもしませんが」


 カーン


 王国重鎮三人が呆然ぼうぜんとしている中、【しん金色こんじきの滅殺破壊魔神】は持っていた金属パイプを滅茶苦茶になった室内に投げ込んだ。


「このパイプは威力を抑えるのに便利でしたがー、もし【次】があったとしたら必要ないのでお土産としておいていきまーす」


「【次】がないように、少しは頭を使ってくださいねー」


 そう言い残して、【しん金色こんじきの滅殺破壊魔神】は飛び去って行った。


 残された三人は呆然ぼうぜんとそれを見送った。


 見送る際に、宰相だけは気付いてしまった。

(あのむすめ、去り際に、私にだけ分かるように、ほくそ笑んでいた)


 宰相は思った。

 【慰謝料いしゃりょう】は、国家予算の数倍。それこそ、王宮に備蓄してある資産の大半を差し出すことになるだろう。

 そして、私は解任され、あのむすめに差し出される。あの状況で隙を突こうと考える勇敢な兵士五名と一緒に。

 元・教え子よ。お前は本当に【敵に回してはいけない奴】だ。


 一体何をするつもりだ。


 自分の国でも創ろうというのか。

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