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第7話 クレイジーエンジニアと新生活(8.8k)

 40代の開発職サラリーマンだった俺が、剣と魔法の世界といえるこの異世界に転生してから一年と三十四日目。ジェット嬢が首都王宮に【お礼参り】をした日の午後。俺達は【カッコ悪い飛び方】で【魔王城】に到着した。


 石畳で舗装された【魔王城】入口前の広場に着陸し、背中合わせで【魔王城】を見上げて感想。


「【魔王城】ね」

「【魔王城】だな」


 外壁が多少汚れているが、まぁそこそこ綺麗な城だ。外観はどちらかというと体育館に近い。塔とかそういう物は無い。

 さきほど首都で【墓標】にされた城を見たところなので、この【魔王城】が余計に【イイお城】に見えてしまう。


 結局ジェット嬢は、【お礼参り】の名目で首都の王城区画内を破壊した。

 王城区画内は瓦礫がれきの山となり、外装をはぎ取られて無残な姿にされた塔だけが【墓標】のように残された。

 病院は標的から外したし、死人は出ないようにしたと言うので、俺はもう気にしないことにした。


 ジェット嬢が手ぶらで【お礼参り】から帰って【バー・ワリャーグ】屋上飛行場で俺に着陸したら、荷物を持って【カッコ悪い飛び方】ですぐに離陸し首都を後にした。

 後始末はウラジィさんに丸投げだ。

 ごめん。よろしく。


「ここにイイ思い出は無いはずなのに、不思議と嫌な感じがしないわ」

「それはよかった。これから二人でイイ思い出を作っていこうぜ」

「……そうね」

「とりあえず荷物を置いて、食料の確認だ。一カ月近く留守にしていたけど、生協さんが保存食を配達してくれているはずだ」


 【魔王城】に入り、エントランスの状態を確認。ウラジィさんと出発した時のままだ。座敷の上のちゃぶ台にいくつか紙が置いてあるが、納品伝票だろうか。

 幅広の階段の左側にあるドアを開けると、生協さんの配達してくれたものと思われる箱が四箱あった。とりあえずそれを座敷の近くに運ぶ。


 背中に張り付くジェット嬢がそれを見て一言。


「あんなところにドアがあったなんて知らなかったわ」

「正面から見たら分からないからな。俺もウラジィさんに案内されてびっくりした」

「あの奥が居住区画になってるのね。どうなっているのか気になるわ」

「あとで案内するよ。と言っても、俺もまだ入ったことが無い場所が多いんだ。この階より下に降りる階段の先は俺もウラジィさんも未確認だ」

「下の階もあるのね」

「そういえば、最初にここに来るときに【絵】が気になるって言ってなかったか」

「そうだったわ。たしかあっちの方にあったはず」


 ジェット嬢が指差した先は、船や飛行機の絵がある壁とは反対側。確かに額縁が沢山あるけど、そっち側には大して珍しいものは無かったような気がする。

 とりあえず、ジェット嬢が指差す先に来てみた。


 ジェット嬢にも絵が見えるように壁沿いをゆっくり歩く。


「あった。これよ」

「コレか……。珍しいか?」


しゃけを咥えたくま


「コレが何なのか分からなくて気になってたのよ」

しゃけを咥えたくまにしか見えんが」

「シャケとクマって何?」

しゃけは魚だ。くまは大型の肉食動物だ。くまはこっちの世界には居ないのか? 俺の前世世界では山の中に住んでいて、たまに人間を襲う恐ろしい動物だった」

「このクマは魚を食べるの?」

「実際に見たことは無いからあんまり知らんが、前世世界の一般常識では、雑食で木の実も魚も獣も食べるそうだ。まぁ、食べ物は人間に近いかな」

「えっ。じゃぁ魚って人間も食べられるの?」


 そういえばこっち来てから魚料理を食べたことが無い。

 この世界では魚食文化が無いのか?


「俺の前世世界では普通に食べてたぞ。まぁ、国によるがな」

「なんとなく、食べてみたい気もするわね」

「食べることはできるのかもしれんが、食べてないってことは何か理由があるのかもしれん。俺の前世世界でも食べていい魚と食べちゃいけない魚があったからな」

「そうね。食べようとするまえに安全かどうかは調べたほうがよさそうね」

くまだけどな、コレちょっと【魔物】に似てないか?」

「似てないわよ。【魔物】はこんなにかわいくないわ」

「そうか。くまがかわいいか」


 かわいいいといえばかわいいのかもしれん。俺はどちらかと言うと恐いがな。

 でもまぁ、ジェット嬢と比べればくまぐらいはかわいいものか。


 ひどいかな。


「この【絵】外せるかしら。持って帰りたいわ」

「どこに持って帰るつもりだ。俺達二人でここに住むんだろ」

「……そうだったわね」



 【魔王城】到着の翌日。エントランスに置いた座敷の上で、あのちゃぶ台の対面に座る俺とジェット嬢。保存食の干し肉をつまみながら今日の予定を話し合う。


 【魔王城】は住みやすい城であるが、脚の無いジェット嬢が住むには多少課題もある。これからここで暮らすのだから、そういう部分も早めに改善しておく必要があるのだ。


「昨夜は結局同じ部屋で雑魚寝状態になったな」

「ここでアンタと離れると私は身動き取れないんだから仕方ないじゃない」

「とりあえず、必要最小限のバリアフリー工事は必要だな」

「そうね。あと、車いすも欲しいわ」

「食事も、保存食もいいけど、長く住むなら調理設備も動くようにしたい」

「アンタ料理できるの?」

「できなくはないと思うが、直火での調理は経験が乏しいし、火魔法とかも使えないからな。ジェット嬢はできるのか?」

「料理はできるけど、今の身体だとあの調理場での作業は難しいわね。やっぱり車いすが欲しいわ。あと、木炭とかの燃料も欲しいわね」

「ジェット嬢の料理か、一度食べてみたいな」


「……調理場を使えるようになれば作るわよ」

「まぁ、一個一個片づけるか。バリアフリー工事だな。材料はウラジィさんが買ってあるものでとりあえずできるところまで。そして、それが終わったら食事も兼ねて近くの村まで行って、車いすを手配しよう」

「そうね」


 一通り食べ終わったら、いつもの背中合わせ状態になり二人で居住区画のバリアフリー工事。部屋と廊下の必要最小限の場所に手すりを設置。

 ねじ止め用の穴あけはジェット嬢が何らかの魔法で行い、俺はそこに手すりの支持金具を固定して金属パイプの手すりを固定していく。


 材料がなくなるところまで工事が終わったら、買い出し。【カッコ悪い飛び方】で近くの村まで行って、そこで昼食を食べた後で夕食用の食料を買い込む。

 【お惣菜】というやつだな。車いすは、もうちょっと離れた街まで行かないとなさそうなので、それは後日にした。


 夜になり、また俺とジェット嬢は同じ部屋で寝た。でも問題点は少し改善した。

 【魔王城】の倉庫らしき部屋に一辺1mぐらいの直方体の木箱があったので、ジェット嬢はその中に座布団や布団や着替えを入れて、自分の【寝室】とした。

 脚が無いのでその中で着替えて寝ることができるそうだ。

 その箱は俺の寝床の脇に置いてある。中に居る時に無断で開けたら【滅殺】される【滅殺☆ジェット箱】だ。


◇◇


 【魔王城】の必要最小限のバリアフリー化工事と、ジェット嬢の寝室である【滅殺☆ジェット箱】ができてから二日後。車いすが欲しいので【カッコ悪い飛び方】で最寄りの街までやってきた。


 やっぱり新品を注文すると時間がかかると言われて困っていたが、その街の大きい病院で中古の車いすを一台譲ってもらうことができた。

 魔王討伐完了以降、車いすが必要になるほどの大怪我をする人はほとんどいなくなっていたので余っていたそうだ。

 その車いすを早速使って、大衆食堂にて食事を摂る俺達。テーブルに対面で座って、ラーメン的なものを食べる。


「車いすが手に入ってよかったな」

「そうね。やっぱりコレが無いと日常生活ちょっと不便だったのよ」

「そういえば、ジェット嬢はサロンフランクフルトでよく医務室使ってたよな。そう考えると、【魔王城】にも医務室が欲しいな」

「医務室として使ったことはあんまり多くないけど、確かにそれに相当する部屋は欲しいわね。ウラジィさんは首都に住むつもりらしいから、ウラジィさんが使ってた部屋を医務室にしましょうか」

「そうだな。さっきの病院でも、医務室用の機材一式が余ってるって言ってたから、それを買い取って運ぶか」

「でも、今日は運ぶ方法が無いから、また後日ね」

「そうだな。その車いすもどうやって【魔王城】まで運ぶかな」

「さすがにこれを持って【カッコ悪い飛び方】は無理よ」


 テーブル席でジェット嬢とそんな話をしていると、いつぞやのトラクターの運転手と偶然再会。

「あっ。あの時の王子様、のそっくりさん」

「あ、あの時の運転手さん。奥さんは元気にしてるか?」

「ああ、せっかく会えたから相談したいことがあるんですが良いでしょうか」


 ジェット嬢も居るが、時間はある。なんかこう切羽詰まった感じがするので追い返すわけにもいかず。

 でも【滅殺案件】に近づかないように適当に名乗っておくか。


「俺でよければかまわんぞ。ちなみに俺は王子じゃなくて、渾名あだなで【魔王】とか呼ばれてるただのオッサンだ」

「王子のそっくりさんが【魔王】ですか。面白い【魔王】様ですね」


 ジェット嬢がしぶい顔をしているが、渾名あだなってことにしているからそんなにマズくないよな。それにしても【魔王】ってなんなんだろうね。


 それよりも気になるのは運転手さんの顔だ。

 痛々しい殴られたあざと、引っ掻き傷。


「その顔は、奥さんにされたのか」

「そうなんですよ。育児や家事が大変だってことをあの時【魔王】様に諭されて、心を入れ替えて積極的に家の事をするようになったら、逆に機嫌が悪くなってしまって。今日も仕事休んで家の掃除をしていたらついに逆上されてこんなことに」


 つい、しんみりときてしまった。運転手さんはいい奥さんをお持ちだ。

「いい奥さんじゃないか」

「なんで!? 育児家事手伝いした上に暴力沙汰でいい奥さんなんですか?」

「殴られても顔つきが変わらないなんて、優しい奥さんだ」

「ええっ!? 女の腕力で殴られて顔つきが変わるとかありえないでしょう!」

 正面に居るジェット嬢が目を逸らした。


「まぁ、それは冗談だ。でも、奥さんは自分の役割をよく理解しているということだ」

「家事とか、育児とかでしょうか」

「【夫を支える】と言うところにも自分の存在意義を見出していたんじゃないかな。だけど、旦那さんがあんまり家事育児に積極的になったから、それを見失ってしまってちょっと精神が不安定になってしまったんだろう」

「でも【魔王】様は、掃除や片付けぐらいは男が当たり前のようにするべきなんだって言ってましたよ」

「そこはバランスが大事なんだ。一緒に生きていくためには【お互いを支え合う】ことも大事だが、【お互いに必要とされている】という実感も大事なんだ。本気出して頑張ったらだいたいの家事は男の方が速い。腕力も体力あるからな。でも、家でがんばりすぎると奥さんの【必要とされている】という実感を奪ってしまう」

「頑張る加減が難しいですね」


「そうだ。そこは実際に難しい。前にも言ったが、家事育児を奥さん一人でこなすのは難しい。助けは必要だ。しかし、奥さんは家事育児をこなすことに生きがいを感じている部分もある。どこから助けて、どのぐらい手を出すべきかというバランスは夫婦固有のものだから正解は無い。今回みたいに怒られたり、殴られたりしながらお互いが最適解に近づいていくしかない。そういう意味では、今回の負傷は大きな進歩とも言えるんだ」

「そうなんですか。じゃぁ、これも進歩と考えて俺、がんばります」


「あと、これは余計なお世話かもしれないが、家事育児のために仕事を休むのは必要最小限にした方がいい。本当に大変な時は家庭を優先するのが原則だが、奥さんは旦那さんが【仕事】や【人生】を犠牲にするようなことは望んでいない。旦那さんが【仕事】も【人生】も充実させながら、家庭もしっかり助けるのが理想だ」

「身体は一つしかないから、家庭を助けながら仕事も人生も充実ってすごく難しい気がしますが」


「そうだ。これも実際にすごく難しい。だけど、頭の片隅に入れておいて欲しい。奥さんは旦那さんが充実した人生を送ることも願っているんだ。そこもちゃんと理解したうえで、人生の充実と家庭の幸せを両立できるように頑張るんだ。確かに簡単じゃない。だからこそ、家庭のために人生を犠牲にするという【考え方】は間違っていることだけは覚えておいて欲しい」

「ありがとう【魔王】様。俺、お互いを理解し合える夫婦目指してがんばります」


「いや少し解釈が違うな。理解し合うんじゃなくて、【理解し合えないことを理解する】ことが大事なんだ」

「えっ? ちょっと意味が分からないんですが」

「いいか。男と女は本当の意味で理解し合うことなんてできん。根本的に考え方が違う。求める物も、目指す物も違う。だから、理解し合うことなんて永久にできんのだ。相互理解しようとするのは無駄なんだ」

「じゃぁ、どうやって一緒に生きていけばいいんでしょうか」


「だから、【理解し合えないことを理解する】という考え方が大事だ。理解できないからといって突き放したり強要したりするのではなく、【理解できない】ということをしっかりと【理解】したうえで、お互いの異なる価値観を尊重して、お互いに【必要とし合える存在】として共に生きることが大事だ」

「まだちょっとよくわからないんですど」


「今は分からなくてもいい。でも夫婦間で相互理解を目指していくと、いずれどこかで壁に突き当たる。その時のために覚えておいて欲しい。これは大事なことだ」

「ありがとうございます。この考え方は他の運転手仲間にも伝えようと思います」


 シュバッ 「うわっ!」


 運転手さんが席を立とうとしたら、ジェット嬢が車いす上で両腕を上げて存在アピール。いきなりの動きに驚く運転手さん。

 車いすに乗っているんだから、今は普通に声をかければいいんだぞジェット嬢。


「トラクターの運転手さんですよね。もしかしてトラクター乗ってきてますか?」

「ええ、仕事用のトラクターで来てますよ。小型だけど空のトレーラもいてます」

「【仕事】頼めるかしら。運んでほしいものがあるの」


 ジェット嬢は割増運賃でトラクターをチャーターした。

 運べる荷物の量が増えたので、テーブルセットを一セットと、手すりに使う金属パイプなどを追加で購入して、帰路に付いた。


 ガタガタゴトゴト ガタガタゴトゴト


 せっかくだから、俺達も荷物と一緒にトレーラの上に乗って運んでもらっている。このトラクターの速度なら、【魔王城】まで二時間半程度か。運転手さんも日没ぐらいまでには帰宅できそうだ。


 乗せてもらったトレーラの荷台の上。

 俺の背中でジェット嬢がつぶやく。


「アンタって本当に不思議ね」

「そうか」

「他人にはあそこまで言えるのに、自分は【失言】を吐くなんて」


 ズキズキッ


「本当に、【解呪】には時間がかかりそうね。見届けられるかしら」

「これから長い付き合いになるんだ。気長に頼む」

「……そうね」


◇◇◇◇◇


 俺達が【魔王城】で二人暮らしを始めてから八日後。街で偶然再会した運転手さんに頼んで車いすとテーブルセットを運び込んでから五日後。二人暮らしも楽しみながらも、二人きりだとやっぱり何かと大変で、寂しいなと思っていたそんな昼頃。


 広いエントランスを掃除していると、開きっぱなしの入口ドアから珍しく来客。

 俺と車いす搭乗のジェット嬢が出迎えると、キャスリンだった。

 いつものデタラメコーディネイトでフラッと現れた。


「ごめんくださーい」

「「いらっしゃいませー」」


 別に店というわけではないが、いつもの癖で飲食店風に応える俺とジェット嬢。

 【魔王城】の入口広場に【試作2号機】を着陸させたようだ。


 キャスリンが城の内装を眺めて感想を述べる。

「まぁ、初めて来ましたが、ステキなお城ですわね」

「まだ修理とか必要な場所多いけど、できるところから直していったら城らしくなってきたわ」


 ここ数日二人でいろいろ掃除とか補修とかしていたので、それを褒めてもらえてジェット嬢は嬉しそうだ。


「それに比べて、王と旦那が無茶苦茶してくれたおかげで首都の城は瓦礫がれきの山ですわ」

 キャスリンが遠い目で首都の王城区画の現状を語った。

 それ、ジェット嬢の仕業しわざだよな。


「まぁ、大変ねぇ」

 ジェット嬢よ。

 他人事みたいに言ってるけど、お前の仕業しわざだよな。


「有事の際の避難所として特別頑丈に建てた王宮防衛隊本部も瓦礫がれきの山ですし、新型の排水処理設備も跡形もなく粉々ですわ。残ったのは病院と図書館ぐらいで、あとは全部バラバラの粉々……」

 なんか、申し訳ない気分になってきた。


「あー、ゴメン。居住棟も粉砕しちゃったから、キャスリンの部屋もなくなっちゃったわね」

「最近はボルタ領の領主邸に居候していたのでそれは大丈夫ですの。でも、人手不足と資金難で城の再建の目途が立たなくなっておりまして。あんな無茶苦茶したうえで申し訳ないのですが、お願いしたいことがありますの」

 資金難って。ヨセフタウンに向かう前に国王陛下と雑談していた時には、国の経済成長のおかげで国庫は潤沢じゅんたくと聞いたけど、一体何があったんだ。

「何? 借金とか?」

 ジェット嬢よ、なんか楽しそうだな。

「それですわ。王宮の主計課から書類預かってきたので、検討お願いしますわ。あと、【西方航空機株式会社】からの手紙もありますの」

 キャスリンはウェストポーチから封筒をいくつか取り出して、ジェット嬢に渡した。

「大型航空機の試作機が出来つつあるので、こちらにも大きめの滑走路がほしいですわね。あと、【魔王城】の職員になるメンバーがこちらに向かっていますの。三日ぐらいで到着する予定ですわ」

「そうなの。城の整備に人手が足りないからそれはありがたいわね。滑走路は私も欲しいと思っていたから、人数集まったら準備するわ」


 広いエントランスで事務的なやり取りをした後、キャスリンは【試作2号機】で飛んで行った。

 今の【魔王城】ではコーヒーを出すのもすぐにはできん。

 なんか職員が到着するらしいから、人員が到着したらいろいろ整備したい。

 どんな人が来るのか楽しみだ。


 でも、ジェット嬢いつの間に職員を集めたんだろう。



 キャスリンが遊びに来た翌日の午前中。俺達は滑走路を造る場所を決めるために、いつもの背中合わせスタイルで城の外を散策していた。


 城の西側。草木が茂っているので分かりにくかったが、よく見ると、そこそこ広い台地になっていた。【魔王城】は台地の東端に作られていたのだ。


「ジェット嬢よ。この台地の草木を刈り取って舗装すれば滑走路ができそうだが」

「うーん。【魔王城】すぐ横のこの台地はなんか別のことに使いたい気がするわ」

「そうか。じゃぁ東側の斜面下の林を伐採するか」

「ちょっと遠くなるけど将来の拡張も考えるとその方がいいわね。【試作2号機】は【魔王城】前の入口広場に着陸できるからキャスリンが来るには不便は無いと思うし」


 草をかき分けながら歩いて城の北側に来た。城の正面は南を向いているので城の裏側になる。


 そこに井戸がある。

 俺はウラジィさんと来た時からちょっとこの井戸が気になっていた。


「この井戸。なんかよくわからないけど、気になるわね」

「ジェット嬢もそう思うか。台地の端に井戸があるのも不自然だし、覗いてみると相当深い」

「ため池がすぐ近くにあるのに、井戸があるのも変よね」

「ジェット嬢よ。覗いてみるか? オマエなら底が見えるかもしれん」

「なんか怖いからまた今度にするわ」

 確かに、背中合わせで背負われた状態で井戸の底に向けられたら落ちそうで怖いな。

 ジェット嬢も怖いものあったんだな。


 次は、【カッコ悪い飛び方】で東側の斜面を山道沿いに降りて、滑走路建設候補地近くに着陸。


「まぁ、林だな」

「林ね」

 出会った直後に彷徨ったあの林だ。あの時はジェット嬢の案内で二日ほど迷子になったが、今は何度も上空から見たから位置関係が分かっている。


「ここを伐採して滑走路を作るのは大変だな」

「伐採だけなら簡単だけどね」


 サロンフランクフルト裏山のため池上空で出したアレを使うのか。

 確かにアレを使えば伐採は簡単かもしれんが。


「伐採した木の撤去とか整地工事とかを考えると、人数確保してから手順考えて着手したほうがよさそうだな」

「それもそうね」


 外を歩いたり飛んだりしながら、【魔王城】周辺の環境整備について考える。

 職員の到着が待ち遠しい。


 でも、【魔王城】って一体何なんだろうね。

 まぁ、俺達の新居ではあるんだが。

●次号予告(笑)●


 城での二人暮らしは楽しいけれどちょっと寂しい。あと、城の維持にはやっぱり人手が欲しい。

 そんなことを考えて日々暮らしていたら【魔王城】に待望の職員が到着。


 メンバーは男六名、女二名。


 その中の城の護衛役として配属された男五人は、それぞれの色を活かしてチームを組む。


「「「「「臨死戦隊★ゴエイジャー」」」」」


次号:クレイジーエンジニアと配属式

(幕間入るかも)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 40代オッサン魔王の”夫とは?妻とは?”、そして”理解し合えないことを理解する”という夫婦哲学!!が素晴らしいです。 クレイジーエンジニア様、いろんな困難を乗り越えて来られたんだろうなと勝…
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