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幕間 退役聖女の門出(5.0k)

 【金色こんじきの滅殺破壊魔神】という物騒な異名を持っていた私だが、さきほどやらかした【滅殺破壊大災害】によりその異名が【しん金色こんじきの滅殺破壊魔神】とさらに物騒になってしまった。


 元はと言えば全部あのアホのせいではあるが、今回ばかりは私も派手にやらかしてしまった自覚はある。


 派手にやらかして、あのアホに抱かれて食堂棟に帰還したのがさきほど。

 ずぶ濡れになった服を着替えて、今は医務室兼取調室のいつものベッドの上。

 きわめてやばいオーラを放つメアリからの尋問を受けている。


「まず、あの男と王宮のパーティに出かけたはずの貴女あなたが、なぜ池に落ちていたのか聞かせてもらえるかしら」


 墜落したあの日、私は裏山のため池に墜落して沈んだところを、オリバーにより引き上げられてここに搬送されてきたという。

 墜落前に何をしていたのか。なぜ墜落したのか。

 どこから説明すればいいのか。

 墜落の原因として心当たりのあるのはあのへんか。


「王宮であの男の顔面が復元されちゃったんですね。もう見ることが無いと思っていたあの顔を見ちゃったんですよ」


 あの顔を再び見たこともショックだったが、王や王子が当たり前のようにそれをしたこともショックだった。

「!!!!」

 メアリが絶句している。


「このままじゃ帰る場所がなくなると思って、動転して、つい王宮からあの男を連れ出して【魔王城】に行ったんですね」


「…………」


「そしたらあの男まで、私を地獄に突き落とすような言葉を口にするわけですよ」


 本当に地獄に突き落とされた。

 絶対に言って欲しくなかった言葉を、絶対に言ってほしくない顔で言われた。

 それだけは言わないと信じていたのを、裏切られた。


「………………」


「そうなると、ベストプレイスと思っていたあの場所が、えらく気持ちの悪い場所に思えてしまって、つい一人で飛んじゃったわけでして」


 一人で飛んだのは初めてだったけど飛ぶこと自体は楽だったので、なんかえらく広範囲を飛んだ気がする。


「……………………」


「でも、一人じゃ着陸もできないし、もうこの世界に降りたい場所もないしと、いっそ全部焼き払ってやろうかとよさげな目標物探してあちこち飛び回っていたら、結局ここに来てしまいまして」


「!!」


「もう全部あの男のせいだと思って、まずはここを溶岩の海にして、【中央道】沿いに首都まで連発でだだだだーっと溶岩つなげてみたら気分晴れないかなと思って、裏山見たら、裏山のため池のほとりにオリバーが居たわけですよ」


「!!!!!」


「なんか脱力したので、とりあえずオリバーのところに行ったら、なんか両腕出して受け止めようとしてくれたので、案外着陸できるかもと思ってそっち行ったんですね」


「…………」


「でも近づいたら推進噴流でオリバー吹っ飛んじゃいまして、なんかもうどうでもよくなっちゃって、池の上に飛びあがって推力止めてみました」


 うろ覚えだけど、吹っ飛んだオリバーが池に沈んだ私をボートの上に引き上げて搬送してくれたなぁと。


「……つまり、あの男が世界滅亡の危機を作り出したということね」

「まぁ、そうとも言えなくもないです。ハイ」


 ガタッ 


貴女あなたよりも先に、あの男を正す必要がありそうね」


 それはそうかもしれない。でもそれは正直困る。

 あのアホが立てなくなると私は動けないのだ。


「スミマセンが、そこは私の仕事と役割なので、今回は置いといていただけないでしょうか」


 ストン


「そうね。確かにそこは、貴女あなたがするべきことね」


 あのアホはこの私を軽々と池に放り込んで、私を長年縛っていた【呪い】から解き放った。

 あのアホのおかげで、私は目を覚ますことができた。


 でも、それはそれ。

 私を地獄に突き落とした責任は取ってもらわなくてはいけない。

 余生の全てをかけて。


 沈黙。少し間が空いた。


貴女あなた、この街から出ていきなさい」


 母親代わりのメアリから、突然の追放宣告。


「えっ。何故でしょうか。私もう、ここで余生を過ごす気満々でしたが」


 メアリが引きつった顔で口を開く。

「自覚がないなら、理由を教えてあげましょう。貴女あなたがここに搬送されてきてからここ三週間、サロンフランクフルトを中心にヘンリー領全体で異常現象が続いていたのよ」


「えっ?」


「小規模な地震が頻発したり、夜に変な光のカーテンが空に浮かんだり、雲もないのに稲妻が光ったり。領民はいつ【滅殺破壊魔法】が暴発するんじゃないかと、日々怯えて暮らしていたのよ」


 そんなことになっているとは知らなかったけど、なんとなく私が原因な気がしなくもない。


「あ……。なんかそれは申し訳ないです。ハイ」


「ヨセフタウンの皆も貴女あなたにはずっと助けられていたから、不満を言う人は居なかったけれどね。万が一に備えて地下に避難所作ったり、溶岩防御用のシールド板を町内各所に配置したり、魔法防災部隊を編制したり、日常的に避難訓練したり、普段から外出時に溶岩の雨に備えて防災頭巾持ち歩いたりと、ここ三週間気が気でない日常を送り続けてさすがに疲弊しているのよ」


「でも、でもですよ。なんかもう大丈夫な気がするのですよ。ハイ」


 メアリの鋭い視線が刺さる。

「三週間もの間頻発する異常現象に怯えて暮らしたそのあげくに、さきほどの【滅殺破壊大災害】。コレを見て誰が大丈夫と思えますか。え?」


「あー、確かにチョット派手だったかなとは、思いますが」


「チョットだぁ? あの大噴火もひどかったけど、その後のあの謎の閃光。今までやらかした中でも最大級よ。それで被害が出なかったのはある意味スゴイと思うけど、アレ見て世界の終末を覚悟した人がどれだけいると思うの?」


 ここで、ちゃんと被害が出ないように防御しましたとか言ってはいけないのは学習済みだ。防御のためにやったアレのほうが目立ってしまったのは想定外だが、ここは謝る一択だ。


「ごめんなさい。やりすぎました」


「ついでに言うと、搬送されて着替えた後に寝落ちしてから三週間。飲まず食わずでここで寝ていた貴女あなたが、目覚めたついでにあれだけやらかして、こうやって普通に喋ってることも非常識なんだけど。まぁそれはいいわ」


 そういえば、そんな気もする。

 普通なら餓死しそうなものだけど。まぁいいや。それよりも追い出される方が困る。


「これは、【門出かどで】よ」


 なんか聞いたことのある用語が出てきた。


「子供は成人したら、親元から離れて自立するものなの。貴女あなたにもその時が来たの」

 成人と聞いて、思い出す。

「そういえば、数えていた年齢的にはそんな歳だったような」

「そうよ。周囲からそうは見られてなかったけど、貴女あなたは子供だったの。それがやっと大人になって、自立するときが来たの」


 年齢は子供で、体格は大人。

 コレは指摘されるたびに逆上して【不祥事】を起こしていたところだけど、呪いから解き放たれた今となってはそれほど気にならない。

 それに、体格に年齢が追いついて成人となったと解釈するなら、悪い気はしない。


「成人を祝って、今回の【滅殺破壊魔法】の使用は不問とするわ。あと、それの使用の制限の約束も終わりにする。アレが必要と思ったら自由に使いなさい」

「え? いいんですか?」


 制限がなくなったからと言って別に使いたいわけではないが、つい確認してしまう。


「その代わり、その結果の責任は全部自分で取るのよ。説明できる理由もなしで使ったりしたら、何処どこに行っても間違いなく追い出されるわ」


 それはよく分かる。

 今まさにそれで追い出されようとしているのだから。

 でも、そこまで言われたなら、もうここに残るのは無理かな。

 覚悟を決めて【門出かどで】しよう。


「わかりました。これを機会に自立して【門出かどで】してみようと思います」

「そう。だったら、渡しておくものがあるわ」

 そう言って、メアリは医務室の棚の下のほうから、何か袋を取り出した。

貴女あなたを孤児院から引き取った時に、同時に預かった物よ。今渡しておくわ」


 受け取った袋を開けると、封筒が入っていた。

 封筒の宛名面を読む。


【イヨ 成人し門出かどでの時に渡すように】


 私の名前と、渡すタイミングの指定。

 中身が気にならないことも無い。

 だけど、私が必要とするようなことがこれに書いてあるとも思えない。

 実の親からの手紙だとしたら、なおのことあんまり読む気にもなれない。


 私の両親はスミスとメアリだ。


「…………」


 シュボッ


 火魔法で燃やしてしまった。


「燃えてしまいました…………」


「……そう。残念ね」


 なんだろう。

 メアリが残念に思う要素がこの手紙にあったのだろうか。


「あれほど、【約束】を守ることの大切さを教えたのに。最後の最後まで理解してもらえなかったのは残念だわ」


【食堂棟内で無許可で火魔法は使ってはいけない】


 全身から嫌な汗が吹き出し、反射的に脚の無い身体でベット上でエビのように後ろに跳ぶ。

 しかし、あっさりとメアリに抱き上げられ、いつもの処刑台、メアリの膝の上に置かれる。


 スパーン スパーン


「本当にもう! どこまで手がかかるむすめなの貴女あなたは!」

「ごめんなさい! ごめんなさい!」


 スパーン スパーン スパーン


 私は【重い】。脚が無い今の身体でも確実にメアリより【重い】。

 その私を小柄で細腕なメアリはいつもあっさりと抱き上げて処刑台に乗せる。


 スパーン スパーン スパーン スパーン


 そして、メアリの尻叩きは痛い。とにかく痛い。

 叩かれている時も痛いけど、その後も痛い。

 私は痛みには強いはずだ。

 自分で脚を切り離した痛みにも耐えた。


 スパーン スパーン スパーン スパーン スパーン


 魔王討伐計画で【魔物】と戦っている時も、斬られてえぐられて折られて潰されながらも、その痛みに耐えて【回復魔法】で治療しながら戦った。


 スパーン スパーン スパーン スパーン スパーン スパーン


 そんな私をここまで痛めつけるメアリの尻叩き。

 なにか秘密があるはずだ。そして、私には心当たりがある。


 【門出かどで】だ。

 お尻を叩かれるのも、多分これが最後だ。


 以前聞いたときは一日立てなくなったけど、今ならどちらにしろ立てない。

 思い切って聞いてしまおう。


「メアリ、この尻叩きはもしかして【闇魔法】なんでしょうか」

「……それは聞いてはいけないと、一度教えましたよね」

「……ハイ……」

「いいわ、【餞別せんべつ】として教えてあげる」

 そう言うと、メアリは既に痛い私のお尻を少し撫でた後、大きく手を振り上げる。


「コレが、答えよ!」


 スパァァァァァーーーーーーン

「ギニャァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」


 過去最大級の痛みが私のお尻を貫いた。そして、理解した。

 なんか、コレは、私にもできる気がする。


 スパーン スパーン


「本当に、最後の最後まで手がかかる……」

 お尻を叩きながらもメアリは涙声だ。


 スパーン スパーン スパーン


「長らくお世話になりました。本当に、お世話になりました」

 お尻を叩かれながら私も涙声だ。


 泣いているのは痛いからだけじゃない。

 【門出かどで】だ。痛い。痛い。そして痛い。私の【門出かどで】だ。

 泣いているのは痛いからだけじゃない。だけど、痛いのが大半だ。


 私は明日も立てない。

 どちらにしろ立てない。

 座るのも無理。


 お尻が痛くても【カッコ悪い飛び方】ならできる。

 【門出かどで】だ。もう開き直って堂々と飛ぼう。


 飛んでどこへ行けばいいか。

 それは、あのアホに考えさせよう。


 痛い。痛い。【門出かどで】。

 痛いだけではない涙の夜は更けていった。

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