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4-3 お前も王にならないか(1.9k)

 国王陛下と密会し、心が痛む会話をした翌日午後。国王陛下は護衛の三人を連れて再びお忍びの姿でやってきた。昨日と同じ部屋でテーブルに対面で座り、コーヒーを飲みながら【仕事】の打ち合わせ。


 王が話を切り出す。


「お前も王にならないか」


 コーヒーを噴き出してむせる俺。


「おかしいだろ!」


 国王陛下相手には敬語で行こうと思ってたけど、それを吹っ飛ばして思わずツッコミ。


「誘い方がまずかっただろうか」

「それ以前だ! いくら第一王子似だからって、【ゾンビ】を国王にしようとするな!」


 この王。国王という職業柄堅苦しい喋り方を意識していたようだが、素では結構気楽な中年オヤジだった。

 しかも発想がちょっと残念だ。


「【ゾンビ】じゃない。【替え玉】だ」

「確かに【ゾンビ】よりかは現状に近い表現になったけど、それを国王にするのがおかしいという現実は変わらん! 何でそうなるんだ」


「わが国の国王は世襲が基本であるが、それも各領主の納得があってこそだ。軍師及び政治家として優秀で、魔王討伐計画完遂の実績があるユーリは各領主からの信頼も厚い。国内の政治の安定を考えるとお前さんをユーリの【替え玉】として即位させるのが安全なんだ。しかも外交に関しては【異世界】由来の独特の知見があってなかなか頼もしい」


「確かにこんなビッグマッチョ他にいないから、顔が少々変わったとしてもごまかせるけど、他に政治を安定させる方法無いのか? 言いにくいけど、第二王子は元気だろ」


「第二王子のイェーガも居るには居るんだが……。困ったことに夫婦揃って【王宮残念夫妻】などと呼ばれておる。王位継承権を持たせるには、各地領主にどう言われるかと思うとなぁ。まぁ、【王位継承権問題】とかそう呼ばれる問題だ」


 あぁ、それはなんかわかる気がする。

 サロンフランクフルトに来るたびに何かと残念な行動をするあの二人を見て、第一王子は何処なんだろうと何度も思ったよ。まさか俺が第一王子の【ゾンビ】だったなんて思わなかったが。


 初対面でキャスリンが俺をジロジロ見てきたり、俺を見た第二王子が胃痛を起こしたのも今思えばそういうことか。まぁ、第二王子の胃痛の原因は他にもあるのだろうが。


「イェーガのやつは、私に似てしまってなぁ……」

「自覚あるのかよ!」


「王の件はとりあえず置いといて、エスタンシア帝国との外交交渉担当の仕事はどうだろうか」

「俺は交渉苦手なんだ。そういうのは勘弁してくれ。そもそも、俺はこの世界の文字の読み書きができないから、議事録が作れない。それじゃマズいだろ」


 この日は、心が痛む話題は無かったものの、だらだらと夕方まで話してコーヒーを三杯、スイーツをいくらか頂いたあたりでお開きになった。

 明日も来るらしい。

 国王は暇なんだろうか。


◇◇◇


 国王から【お前も王にならないか】という意味不明な勧誘を受けた三日後の夜。結局毎日午後になると国王がお忍びでやってきて、夕方まで雑談するのが日課になっていた。


 気楽でちょっと残念な中年オヤジとの雑談。

 国内の地理や名産品などの事を教えてもらったり、国内の環境規制概要を教えてもらったり、王城区画内に新しく設置した【活性汚泥法】による排水処理設備のすばらしい効果を聞いたりとそれなりに楽しいが、なんかこう、やらなくてはいけないこととズレているような気はする。


 そして、俺達が宿泊しているこの宿の周辺では兵士が見張りをしており、どうやら俺をここに閉じ込めておきたいらしい。


 ウラジィさんはウラジィさんで、護衛の三人に職を求めては断られてしょんぼりしている。70代だと転生後でも再就職は厳しいらしい。

 若返りたいというのも分かる気がする。


 いつも国王と雑談をするのに使っている部屋をこっそり借りて、ウラジィさんと軽く酒盛り。


「若造。お前ここに何しに来たか覚えてるか」

「覚えてる。そしてここでの目的は果たした。ジェット嬢が怒った理由は突き止めた。そして、俺のこの身体の秘密も掴んだ」


「だったら次の事をするべきじゃないのか」

「そうとも思うが、国王は明日も来るし、外には見張りの兵士が居る。身動きが取れない」


「若造。一人で行き詰る前にもう少しひとを頼れ」

「ウラジィさん何か打開策あるのか?」


「若造。わしの前世を知ってるだろ。キナ臭い事は得意分野だ。若造は自分のやるべきことを優先しろ」

「俺はジェット嬢に会いたい。多分ヨセフタウンに居る」


わしに何をして欲しい」

「ウラジィさん。俺を首都から出してくれ」


「引き受けた。ここをいつ出る」

「明日早朝に発ちたい」


「道をあけておく。正面から堂々と出ろ。そして午前中には首都東門を通過だ」

「ありがたい」

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