4-1 首都に到着 尾行を気にせず街歩き
40代の開発職サラリーマンだった俺が、剣と魔法の世界といえるこの異世界に転生してから一年と十九日目。ジェット嬢を探すために【魔王城】から首都に向かった珍道中の十二日目の昼頃、首都に到着。
農夫姿の爺さん【副魔王】と、騎士服姿の中身オッサン見た目若者【魔王】と、キャリアウーマン志望を微妙に修正した自称【新聞記者】のエレノアさんの三人組が街を行く。
ウラジィさん曰く、首都の城壁都市に入ってから尾行されているとのこと。
俺とウラジィさんが気付いたことに気付かれないように注意しながら街を歩いていると、事情を知らないエレノアさんが一言。
「尾行されてますねー」
「オイ!」
台無し感が半端ない。
だが、そこで俺も気付いた。
「そういえば、俺達が尾行されて困ること別に無いな」
「言われてみれば確かにそうだな。前世の癖でつい警戒してしまったが、今の儂らが尾行を警戒する理由は無いな」
「あ、でも私は尾行されるのは普通に怖いですよ」
「そうか。じゃぁ、とりあえずエレノアさんを安全な場所に送ってから次の行動考えるか」
「それがいいな。尾行の標的は多分若造だろうからな」
「では申し訳ありませんが、【西方良書出版株式会社】の本社までお願いします」
「おう」
そういうわけで、【西方良書出版株式会社】の本社までエレノアさんを送った。エレノアさんは本社で取材ノートを整理して編集作業を始めるとか。
せっかくだからフォードにも会いたかったけど、尾行されている状態であんまり人に会うのも良くないので用事を済ませたら早めに離れた。
尾行している三人は狙い通り、俺達を追っているとか。エレノアさんが無事に標的から外れたのは一安心だ。
「若造。尾行される心当たりは無いか」
「多分、王宮関係者かなと」
「どうするよ」
「どちらかというと、俺は王宮関係者に接触したい。そして、ジェット嬢があの時怒った理由を確認したい」
「だったら、王城区画近くの宿屋に入って接触を待つか。尾行するってことは、相手もそれを狙ってるんだろう」
「そうだな。じゃぁ、昼食もそこで食べるか」
「儂はガッツリ肉料理の気分だ」
「俺もだ」
城壁都市の中を王城区画近くの宿屋を目指して歩く。
高台にある王城区画を中心とした、ファンタスティック世界風の綺麗な城下町。別れる前にエレノアさんに聞いた話だと、王城区画に立つ城の塔がこの国のシンボルとのこと。
エレノアさんを安全な場所に送った後なので、尾行されている事はあんまり気にせず堂々と街中を歩いた。ウラジィさんもこの街並みを気に入ったようだ。
「【魔王城】もいいが、この街もいいな。できるなら儂はこの街に住みたい」
「いいんじゃないかな。この街に【魔王城】の支部でも作ってみるか」
「それはいいな。【不動産屋】はこの街にはあるかな」
「尾行の件をなんとかしたら、二人で探してみよう。【貸事務所】みたいな物件があったらいいな」
「そうだな」
【魔王城】から持ち出した金貨は残っているけど、長く住むなら収入も欲しい。何か仕事ができればいいんだけど、そのへんはフォードにでも相談してみるか。
ウラジィさんならこの世界の文字の読み書きができなくても何かできる仕事があるだろう。
王宮近くのちょっと高級な宿屋にチェックインして、ウラジィさんと肉料理をがっつり食べた後、俺はロビーのテーブルで新聞を読むフリをしながら来客を待った。
ウラジィさんは離れた場所から様子を伺う。
…………
待つことおよそ一時間。
来客だ。作業着姿で帽子を深くかぶって、サングラスを付けた大柄な男。
後ろには見覚えのある男三人。
元【黒部隊】の三人だ。
作業服姿の大男が話しかけてくる。
「久しぶりだな。ここは場所が悪い。ちょっとついてきてくれ」
声でわかる。国王陛下だ。
その恰好は変装のつもりか。
お忍びで来たのか?




