3-7 魔王的男女論 イイ男は材料から育てろ(2.0k)
宿場町の宿屋一階のバーで熱唱し観客を沸かせたエレノアさん。
家庭と仕事を両立する未来像を熱く語るも、相手が居るのかと聞いたら絶叫。
ウラジィさんは疲れ切っているが、お客さんはもう慣れてる。
「イイ男が居ないのよ……。そうよ。だから仕事に生きようとしたのよ……」
トーンダウンしたエレノアさんが、げんなりしているバーテンダーにカルーアミルクを注文しながらぼやいた。
やっぱり地雷だったか。
「スゴイ【玉の輿】乗った友人は居るけど、アレはもう既定路線みたいなものだったからマネできないし。知り合いもあんまりいないし。イイ男なんてどこにも居ないし」
踏んじゃった地雷だからこの際踏み抜いてしまおう。
どうせもう逃げられない。
ダメ発言癖上等だ。
「イイ男の探し方が間違っているんじゃないのか」
「ニャギャァァァァァァァァァァァァァァ!」
やっぱりエレノアさんが絶叫。
「ナニが間違っていると! 私のドコが間違っているというの!」
カルーアミルクをグラスでイッキしたエレノアさんが激高する。
怒らせる発言だったとは思うけど怒りすぎ。
でも悪いのは俺だ。俺がんばる。
ビールを飲んで勢い付けてがんばる。
「この業界、【完成品】はおおむね【売約済み】だ。【材料】を探せ。自分用のイイ男は【材料】を確保して自分で【完成】させるんだ」
「私に分かるように説明プリーズ! ナウ!」
エレノアさんの口調がヤバイ。
カルーアミルクのグラスイッキは危険だ。
今説明して分かるかどうかは不明だが、俺も酒が入っているから突っ走るぜ。
「いいか。男は変わる。身長とか一部変えられないところはあるが、だいたいのところは変えられる。だから【材料】の視点で男を探せ。最初は完成度低くてもいい。有望な【材料】を探して、それを自分で育てて、自分好みに変えて、自分用のイイ男を作るんだ」
「それはすごく大変なんじゃないでしょうかー。【完成品】欲しいです!」
「大変だがこの方法しかない。【完成品】レベルのイイ男は誰かイイ女が完成させた既婚者だ。独身の若い男は完成度が低いのが普通なんだ。それこそ【幼稚】に見える奴も居る。だが【材料】として、作り変えてしまう前提で見れば、成長余地が大きい分魅力的だ」
「そう考えるとそれはそれで面白そう。【幼稚】な男なら沢山居たし。イイ【材料】を選んで、私好みに改造しちゃえばいいのね」
「そうだ。変えられない部分だけ見て【材料】を選び、自分好みに改造だ。男は変われるんだ。【愛】を注いで育てれば驚異的に成長するぞ」
思えば、前世の俺も結婚してからずいぶん変わったものだ。
バイクやパソコンに散在するオタだった俺が、妻の介護とワンオペ育児をしながら仕事を続けることができるぐらいになった。
男は変われるのだ。
「【売れっ子作家】が近づくわー」
エレノアさんは取材ノートにまたいろいろ書いてる。
本当に逞しいな。結婚したら相手の男をすごく鍛えそうな気がする。
そして、普通に仕事と家庭を両立しそうな気がする。
…………
飲み終わった後。
俺とエレノアさんはちょっと外の空気を吸いたくなったので、店の正面玄関からトラクター用の駐車場に出て一緒に星空を眺めた。
北東側遠方の上空に、赤いオーロラみたいな光が見えた。
「エレノアさん。あの遠くにあるカーテンみたいな光ってたまに出るんですか?」
「うーん。見たこと無いですぅ」
酔ったエレノアさんが俺の腕にしがみついてきた。
意外にグラマラスな部分に腕が埋まる感触が心地いい。
うっかりそう感じてしまった直後、オーロラの輝きの中に稲妻のような青白い閃光が見えた。
何となく背筋に冷や汗が浮かび、急に聞きたいことができた。
「例えばですが、途中まで育てた【材料】の男を横取りされたらエレノアさんならどうしますか」
「泥棒猫は火あぶりですね。火魔法でこんがりと」
即答ですか。そして、エレノアさんは火魔法が使える方でしたか。
遠くの空に輝くオーロラっぽい光を見て、なんとなくジェット嬢の【地獄の業火壁】を思い出した。
◇◇◇◇◇
【副魔王】と【魔王】の凸凹二人旅に自称新聞記者のエレノアさんが合流して、食べ歩きの幅が広がってから八日後。エレノアさんとバーで騒いでから五日後の昼頃。
あちこちで名産品を賞味しながら、エレノアさんの取材ノートを充実させながら、ついに首都到着。
王城区画を中心とした綺麗な城壁都市に入って、飲食店街目指して一直線。と思って歩いていたら、ウラジィさんがフラッと人ごみの方に行ってしまったので慌てて追いかける。
こういう動きはウラジィさんにしては珍しい。
「若造。聞こえないフリしてよく聞け」
人混みの中で追いついたらウラジィさんが小声でなんかよく分からない指示。
「城壁都市入ってから儂ら尾行されとる。分かる範囲で三人。かなりの手練れだ」
「なんだと」
「どうする若造」
●次号予告(笑)●
愛する子供を失う悲しみ。それは誰にとっても耐えがたいものである。
それは【王】であっても変わらない。
しかし、【死】は絶対的な別れ。その悲しみは乗り越えるしかない。
だが、あの日、絶対的な別れを冒涜するイレギュラーが発生した。
それから一年余り。そのイレギュラーを中心に、当事者達の意図しないところで歴史の軌道は大きく狂っていた。修正が不可能なほどに。
その真相を知った男は断言する。
「ユーリなんて男、俺は知らん」
次号:クレイジーエンジニアと勇者の影




