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3-6 孫に愛されて死にたい(2.9k)

 新時代のキャリアウーマンを目指すと豪語していたエレノアさんが、最終出社日の帰宅後を想像してバーのカウンター席で絶叫。


 店内のお客様が一斉に注目するが、ウラジィさんがすかさず【気にするな】のジェスチャーでフォロー。店内の雰囲気を戻す。

 さすが年の功。フォローが速くて助かるぜ。


「家に帰っても誰も居ない! なんにもないわ!」


 エレノアさんが青ざめた顔でカウンター席で叫ぶ。

 そんな彼女に俺は容赦なく追い討ち。


「会社にも何にも残ってないぞ。二十年三十年勤めようが、退職者のデスクなんて半日で片づけられる。そして、遅くても数日あれば居ないのが当たり前で仕事は回りだすからな」

「いや、同世代の女子の友達とか居るし、貯金も貯まってると思うから、一緒に旅行とかね。仕事終わった後にいろいろ楽しみあると思うの」


「同世代の女子なら、お子さんやお孫さんのお世話に忙しいんじゃないかな」


「ニャギャァァァァァァァァァァ!」


 再びエレノアさんが絶叫。

 すかさずウラジィさんが後ろをフォロー。


「も、もしかして、友達のところ遊びに行ったらお子さんとお孫さんがいて、既に親になっているお子さんに【今度来るときはお子さんの顔も見せて】とか言われちゃうの? そして、その直後に友達がお子さんに部屋の外で耳打ちして、お子さんに気まずそうに謝られたりするの?」


 えらく想像がリアルだけど、想像を超えて残酷な現実を教えてやろう。


「さらにそこのお孫さんの心無い一言でとどめ刺されて心が折れるパターンだな」


れる! 確実に心がれる! 子供も孫も居ないのに【おばあちゃん】呼ばわりされるなんて残酷すぎる。友達の家にも遊びに行けない。その子供達孫達と一緒に旅行とかも無理」


 そうなんだよ。

 結婚せずに家族を持たずにキャリアを選んでしまうと、仕事を終えた時にこうなるんだ。


「私には何にも残らない? 仕事がんばっても、仕事終わったら【孤独老婆こどくろうば虚無感余生きょむかんよせい劇場】なの?」


「いや、そんなタイトルつけるほどひどくないかと思うけど、本当にそこを目指したいかどうかはよーく考えたほうがいいと思うぞ。まぁ同じ立場の人が増えれば仲間も増えるかもしれんし」

「イヤ! そんな残念すぎる痛い人間で集まりたくない! 【脱線人生だっせんじんせい老婆団ろうばだん】なんて嫌!」


「いやいやいや、自分でそこ目指してたんだろ! 言い方がひどい!」

「はっ! 男だって皆同じ。定年過ぎたら【人生終末じんせいしゅうまつ孤独爺集団こどくじいしゅうだん】だわ」


「タイトルひどいけど、間違ってないな。でも、解釈がちょっと違う」

「どう違うの? 男女条件は同じはずよ」


「男はどう頑張ってもそれしかできないからな」

「どういうこと?」


「男がどんなに育児をがんばっても、仕事と家庭の両立で苦労しても、子供は【母親】に執着するんだ。男は仕事しか選べない。【人生終末じんせいしゅうまつ孤独爺集団こどくじいしゅうだん】の結末しか選べないんだよ」

「じゃぁ、男は独身でも結婚しても変わらないってこと?」


「そうでもないかな。結婚して家庭を持って、守る物ができた男は強くなれる。男の人生の意味を理解し全うできる心が整ったら最強にもなれる。俺はそれを【輝く魂の力】と呼んでいるがな。端から見れば【人生終末じんせいしゅうまつ孤独爺集団こどくじいしゅうだん】に違いは無いかもしれんが、結婚して家庭を持った方が充実した人生を送れるはずだ」


 まぁ、俺途中で死んだけど。

 でも充実はしてたな。


「なるほど。仕事に人生捧げるライフプランは見直した方がよさそうね」

「切り替え早いな。でも、考える意味はあると思うぞ。仕事しているなら【終わらせ方から考える】のも得意だろ。ライフプランに当てはめてみるといい」


「うーん。人生をどう終わらせたいかということね。でもいつ死ぬかなんてわからないし」

「願望でいいんだ。人生なにもかも思い通りになるもんじゃない。だけど、全部うまくいった場合にどうしたいかを考えておくんだ」


 俺自身、途中退場になった身だからな。

 思い通りにならないのはよーくわかってる。


「ヒントになるかどうかわからんが、前世で妹に同じ問いをした時の答えがある」

「王子様は妹さん居たんですか? どんな答えなんですか?」


「俺は王子じゃないが、妹は【孫に愛されて死にたい】と嫁いでいった」


「キタァァァァァァァァ!」


 またエレノアさんが絶叫。

 そしてすかさずウラジィさんが後ろをフォロー。


「それよ。女の人生の美学を集約してるように感じるわ」


 エレノアさんは泣きながら感動している。


「女の人生は、家族に愛されてこそよね。仕事よりも家庭よね」


 本当に切り替え早いな。


「コレは、このタイトルで出版するしかないわ」


 いや、微妙に切り替わってないのか。


 エレノアさんはジョッキに残ったビールを飲み干すと、カウンター席の固定椅子の上に素早く立ち上った。

 そして、店内のお客様が注目する中で何かを始めた。



♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ 


 ♪喪女の人生の夢 ~孫に愛されて死にたい~♪


  作詞・作曲:エレノア@西方良書出版株式会社

  歌:エレノア@美声


   窓の外 夕暮れが燃えて

   置いていかれる気持ちを知る

   でも私は泣き崩れない

   恋なんて いらないから


   夢を待つだけの少女じゃない

   孤独を力に変えていく

   悔しさを燃料にして

   未来の扉を叩くんだ


   孫に愛されて死にたい――

   「おばあちゃん」って呼ばれて眠りたい

   誰かの愛にすがらなくても

   自分の力で勝ち取る明日

   弱さも痛みも すべて抱えて

   私はここに立ち続ける


   制服の背に 影が伸びて

   「普通」に届かないと知った

   でもそれが私の証だから

   恐れず 歩いてゆける


   孫に愛されて死にたい――

   小さな掌に手を包まれて

   「ありがとう」の声に報われたい

   恋じゃなく 努力と闘志で

   私は未来を掴み取る


   涙は燃えて 炎になる

   孤独を越えて 夢を抱く

   孫に愛されて死にたい――

   その祈りが 私の旗になる


♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ 


 宿屋の一階のバーに魂の籠った美声が響き、お客様は一斉に観客モードへ。

 即席の作曲とは思えないハイレベルな熱唱に、いつぞやのキャスリンを思い出す。


 歌い終わると同時に店内のお客様から歓声と拍手が上がる。


 そして、ウラジィさんが鬼の形相で俺を睨む。

 俺じゃない。俺のせいじゃない。

 許してお願い。


 歓声と拍手が鳴りやんだらエレノアさん素早く椅子に着席。

 すごい勢いで取材ノートに何かを書きだした。

 著作物の構想だろうか。


 そういえば【西方良書出版株式会社】の社員って言ってたな。


「売れるわ。コレは売れるわ。【売れっ子作家】よ」


 歌手でも売れると思うけど、作家を目指すんだ。


「あ、なんか作家業なら仕事と家庭を両立できそうな気もしてきた」


 俺の前世でもそういう人多かったな。

 子供小さいうちは両立がすごく大変だけど、その苦労のせいか育児エッセイの描写がとんでもなくリアルで俺もたくさん読んだ。


「いいんじゃないか。でも優先順位は明確にな。優先は子供だぞ」


「キター、キタわ。コレ出版して【売れっ子作家】になって、結婚して子供育てながら著作業続ける。仕事の成果も愛する家族も両方充実。【勝ち組人生美老婆】よ」


 勝ち組でも老婆は老婆なんだ。自虐なのか自覚なのかわからんな。

 でも、重要な部分が抜け落ちてる気がするので、地雷かもしれないけど踏んでみよう。


「結婚するにも、相手の男は居るのか?」


「ニャギャァァァァァァァァァァァァ!」

●オマケ解説●


「喪女の人生の夢 ~孫に愛されて死にたい~」はSUNO AIで作曲しました。

本当に曲が聞けます。痛い女、エレノアさんの美声をお楽しみください。

https://suno.com/s/eMTRErkohJvCQxEr


※エレノアさんが【喪女】かどうかは微妙です。

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