3-2 外科医ゴダードとロケット脚サイボーグ(2,5k)
昼食後、食堂棟のテーブル席にて、俺とドクターゴダードとジェット嬢で今後の治療方針と義足の設計について打ち合わせをした。
切断部分は膝関節より上。
大腿切断だ。
服の上から見てそうではないかと思っていたが、診断が確定するとやはりショックだ。
あの時の自らの【失言】の罪深さに頭をかかえていると、ジェット嬢がとんでもないことを言い出した。
義足はいらないから、その代わりに空の旅で使った魔力ロケットエンジンを自分の両脚に組み込みたいと。
女の子がサイボーグになりたいとか言い出すんじゃありません。
俺とドクターは当然猛反対した。
でも、ジェット嬢がテーブルにあった金属製のコップで例の魔力噴進弾を軽く実演したら、ゴダードは興味を示したようでうなりながら考え出した。
ドクターゴダードも風魔法が使えるようで、ジェット嬢からやり方を聞いて、練習を始めた。
俺は再びポチになった。
テーブルから食堂内のあちらこちらにコップを飛ばすジェット嬢とドクター。
飛ばされて散らばるコップを拾い集める俺。
飛ばされて落ちるたびにボコボコになっていく可哀そうなコップたち。
申し訳ない気分になりながら、それらを再度ジェット嬢とドクターの机に戻す。
そんなことを繰り返していたら調理場で片づけをしていたメアリが出てきて、食堂にオカンにシメられるボウズが再度顕現した。
オカン係はメアリに交代。
俺が叱られる。
俺だけが叱られる。
怒るメアリはマジ怖かった。
さすがにコップ飛ばしは終了。
義足の件に話を戻そうと俺も机に戻ったら、すでに机の上には脚に装着するロケットのイメージ図を描いたA3ぐらいの紙があった。
開発コードネーム【魔力推進脚】。
コップを飛ばしつつも、ジェット嬢とドクターで描いていたそうな。
ドクター、アンタ医者じゃねぇ。
【マッドサイエンティスト】だ。
こんな非人道的なもの作らせてたまるかとイメージ図を見る。
俺はこの世界の文字は読めないが、図なら読める。
その図を見て、設計上の問題点を次々指摘していく。
ノズル外径設計の考え方について語る。
図上の設計ではノズル外径が大きすぎる。
ロケットボートで使った魔力ロケットエンジンのサイズに合わせたらしいが、外せない形で脚に直結するんだから普段の生活のことも考えろと。
大股開きで日常生活したいのか。
ジェット嬢もそれを聞いて気づいたらしく、ノズル外径を縮小する形で図を修正しだした。
最大推力の考え方についても語る。
ノズルが大きいほうが推力は出しやすいが、脚に直結なのでその力を大腿骨と骨盤で受けることになる。
そこをよく考えて最大推力の設計が必要と説明すると、ドクターは、ジェット嬢の体格の場合の安全荷重をおおよそで計算し、その計算結果をもとに許容される最大推力を試算。
二個あるからな、脚は二本あるんだ。そこ間違えるなよ。
装着時の脚長さの設計要件についても語る。
これを装着した状態で大腿骨が折れると取り返しがつかないので、推進時に大腿骨にかかるモーメントをなるべく小さくすべきだ。
その考えの下、ノズル込みでの脚の長さはなるべく短くする方向となった。
それにより、魔力推進脚の先端は、切断前の元の膝関節位置よりも上側、短い側の位置に持ってくることとした、こうしておけば魔力推進脚に義足を接続することで形を人型にすることもできる。
両足大腿切断だから物理的に義足をつけても再び歩くのは難しいのかもしれんが、そこは魔力で義足を動かすとかできれば何とかなるだろう。
さらに、拡張性についても語る。
魔力推進脚の噴射口の外径形状を工夫し、端部に拡張ノズルを取り付けできるようにという考え方だ。拡張ノズル側に推進力を受ける構造があれば、大推力を発生してもジェット嬢の身体はジェット嬢の自重を支えるだけで済む。
つまり、ジェット嬢にノズルを追加するのではなく、大型の飛行体に増設ノズルを固定し、そこにジェット嬢をエンジンとして接続する構成だ。
媒体に触れてさえいればロケットエンジン級のフロギストン変換空気生成はできるのだから、この設計は成立するはず。
この場合の最大ノズル径は、接続時にジェット嬢があんまり大股開きにならないようなサイズに制限されるので400mm~500mmぐらいになるかなと予測している。
そして、スロート形状の設計についても語る。
ノズル内側のスロート形状はジェット嬢が考えたほうがいい。
ロケットエンジンの場合は、燃焼室から出た音速のガスを超音速まで加速するためのものだが、この魔力推進脚の場合はフロギストン物質変換による空気生成とその噴射を行うためのものだ。
原理が違うので、最適形状が俺にはさっぱりわからない。そう言ったらジェット嬢は紙に図を描いた。
俺の知っているスロート形状からは離れていたが、ジェット嬢がそれがいいというならそれがいいんだろう。ドクターも製作可能と言っている。
このように、各種問題点の洗い出しと解決策の検討を進めて、同時進行で設計構想図を描いていく。
ノズル外径はφ140程度。
端部位置は元の体格の膝関節よりおよそ100mm上側。
太腿の筋肉内にノズル構造を埋め込み、体内で大腿骨と強固に結合する。
こうして書きあがった構想図は、非人道的なサイボーグ改造を体現したとんでもないものだった。
設計構想がまとまり、ドクターゴダード改めマッドサイエンティストゴダードは構想図や検討資料を嬉しそうに持ち帰っていった。
ヨセフタウンは国内でも鍛冶屋、つまり冶金や精錬、金属加工等の技術が発達しており、幾つかの鍛冶屋が協力すればこのノズル部品は製作可能とのことだった。
早速製作についての相談に移るとか。
ねぇ、本当にやるの? 改造人間ですよ。
非人道的ですよ。
止めるつもりだったのに、完成の道筋が立ってしまった。
なぜだ。
俺か。
俺が原因か。
俺のダメ行動が原因なのか。
何がダメだった。
再び頭を抱える。
ジェット嬢は嬉しそうにしている。
オマエ人間捨てるんだぞ。
サイボーグになるんだぞ。
バケモノだぞ。
本当にそれでいいのか? と思ったところで、例のオーバキル大火力魔法を思い出して気づく。
ああ、もとよりある意味バケモノだったな。
俺、酷いかな。




