3-3 戦後時代 男達の働き方改革(1.6k)
最初の村で服を買って着替えて、農夫姿の爺さん【副魔王】と騎士服姿の中身オッサン見た目若者【魔王】の凸凹二人旅を始めて四日後。
村や町で首都に向かう道を聞きながら、各地の名産料理を味わいながら、観光しながら首都を目指して徒歩の旅は続く。
三分の一ぐらいは来たらしく、今日の昼食は街道沿いの宿場町の食堂。
陸上輸送の主力は馬車からトラクターに移行しつつあるようで、食堂外側の駐車場にはトレーラ付きトラクターが多数停めてある。
前世世界で言うところのドライブインとか、サービスエリアとかそんな感じだ。
ウラジィさんとカウンター席でラーメン的なものを食べていると、後ろのテーブル席の運転手さん達が食べ終わったようで、会話が盛り上がりだした。
「西経路往復終わったから、久しぶりに家帰ったらなー。家の中ぐちゃぐちゃだったんよ」
「うわー。泥棒でも入ったのかー」
「いやー。泥棒じゃなくて妻居たんだけどさ。なんかこう、家の中ぐちゃぐちゃで、片付けもできてなくて、食事もなんもないのよ」
「そりゃしんどいなー。お前んとこ、奥さんとお子さんと四人暮らしだよなー」
「もうすぐ二歳になるボウズと、生まれて半年の赤子いるんだけどな。俺の仕事の都合で実家出て四人暮らし始めたはいいけど、なんもかんもぐちゃぐちゃなんよ」
「奥さん調子悪いんかー?」
「元気だけどなー。なんかよくわからんけどしんどい言って、俺は仕事で疲れて帰ってるのに、子守り替わってくれとか言い出して、部屋ぐちゃぐちゃで食事もないのに、俺休みたいんだけど勘弁してくれと説教したら泣かれて困ったー」
「たまらんなー。子守りなんて女の本業なんだから楽だろうに。ずっと家に居るんだったら家事育児ぐらいちゃんとしてもらわんと、仕事から帰って休むところ無いとかつらいわなー」
俺は途中までだが育児経験のある40代オッサン。
家族とは死別したが、知識と経験は持っている。
だからこそ、こういう男達を放置できない。
ラーメン的なものを完食し、背後のテーブルの方を向いて男達に話しかける。
「ワンオペ育児がどれだけしんどいか分からないなら、日の出から日没まで止まらずにトラクターを運転してみたまえ」
「日の出から日没まで! 止まらずに! 王子様! そりゃ無茶だ!」
「無理無理無理! 食事とかどうするんだ。休憩無いと無理! しんどい!」
運転手さん達は当然のように無理と言うが、俺は容赦しない。
「食事は運転しながらすればいい。運転なんてのは座席に座ってペダルとハンドルをたまに操作するだけだ。これのどこがしんどいか言ってみたまえ」
「王子様はトラクターの運転したことないから分からんかもしれんが、運転はそんなに楽じゃないんだよ。でこぼこ道だとハンドルしっかり持ってないと直進できないし、街道だって人が横断する事もあるし、落下物もある。ちゃんと前見て集中してないと危ないんだよ!」
「そうだよ。人にぶつけてしまったら大怪我させてしまうし、脱輪したら後が大変なんだ。荷物を壊したら荷主様に怒られる。運転は大変なんだよ。休憩なしじゃ無理なんだよ」
「そんなに無理とかしんどいとか言うなら、日没後は車止め無しで路上駐車して、トラクターの運転席で寝るがいい。そして日の出とともに日没までの連続運転再開だ。これを休みなく続けてみるがいい」
「なんで! しんどいって言ってるのに余計ハードに!」
「無理無理無理無理! 車止めしてないと転がっていって危ないよ。寝ながらブレーキペダルを踏み続けるとか、しんどい。寝れない。むしろ寝たら危ない? 無理! 休みなしとか言うけど、一日も無理!」
「これが、ワンオペ育児のしんどさだ!」
「いや、運転と育児は違うでしょ」
「うん。全然違う」
「違わん!」 クワッ
「うわっ」
物流網の発達による経済圏の拡大で、故郷を離れて働く人が増えていくのだろう。
だが、コミュニティが完成された集落を離れて育児を成し遂げるためには、男達の意識改革と働き方改革が必要だ。
前世で苦労した俺が、育児の過酷さをとことん語ってやる!




