3-2 文字が読めなくても買い物はできる(1.6k)
【副魔王】のウラジィさんと【魔王】の俺の前世の【葬式】をして、力業で俺の顔面を修正してもらった翌朝。
俺達は弁当と水筒を持って【魔王城】を出発した。
最初の目的地は首都。
ジェット嬢の行先は分からないが、探しに行くにしてもあの時怒った原因を確認してからの方がいいという考えで行先を決めた。
【魔王城】から首都まではジェット嬢と飛んだらすぐであるが、歩くと十日ぐらいかかる距離だ。
【魔王城】から最寄りの村に向かう道をウラジィさんと雑談しながら歩く。
「ウラジィさん。玉座の後ろの旗を外したのは何か意味があるのか? あと、その旗一体何なんだ」
ウラジィさんの出身国の国旗と同じ配色だけど、わざわざ作ったのかな。
「ああ、これは儂の居場所の目印だ。城にあったものを材料に頑張って作った。外して持ってきたのは、生協さんに不在を伝えるためだ」
「なるほど。不在の場合は、荷物を持って帰ってもらうってことか」
「そうだ。今回はいつまで城を空けるか分からんからな。旗が無かった場合は、日持ちしないものは持ち帰りで、保存食はドアの内側に入れてもらうように頼んである」
「準備がいいんだな」
「ケータイ世代の若造には分からんかもしれんが、儂の若い頃は連絡取り合う手段が限られてたからこういう工夫は日常だった」
「俺もケータイ世代というわけではないんだが、でも確かに、電話とかメールとか前世ではいつでも連絡つくのが当たり前になってたな。その分やりとりが場当たり的になっていたかもしれない」
「便利なことがいいことばかりじゃない。こうやって生活の中で工夫して、先のことまで考えて人とやりとりするのも楽しいもんだ」
年寄りみたいなことを言う実際年寄りなウラジィさんだけど、歩くのは結構速い。
ビッグマッチョの俺と違和感なく一緒に歩ける。
…………
歩き続けて夕方。最寄りの村に到着。
そこで今夜の宿を取ろうと思いちょっと気になったことがあったのでウラジィさんに確認。
「ウラジィさん。俺はこの世界の文字が読み書きできないんだが、ウラジィさんはこの世界の文字は読めるのか?」
「読めん」
「じゃぁ、買い物とか宿泊とかどうするんだ」
「何を言っている若造。言葉が通じるんだ。何とでもなるだろ」
「値札とかメニューとか読めないと、買い物とかどうにもならないような気がするけど」
「若造。お前がコンビニ店員だとして、文字が読めない客が来たら追い返すか?」
「うーん。前世でコンビニ店員はやったことないけど、言葉が通じるなら代わりに読むぐらいはするかな」
「そういうことだ。字が読めなくても、言葉が通じなくても、通じ合おうという意思があれば人間同士通じ合えるもんだ。それに金貨ならたくさんある。買い物に不自由は無い」
「それもそうか」
前世で波乱万丈な人生を70代まで生きたウラジィさん。
異世界でもすごく頼りになる爺さんだ。
「前世で儂は職業柄いろんな国の人間と関わった。国が違っても言葉が通じなくても話は通じることは良く知っとる。言葉が通じても話が通じないあのコメディアン上りみたいなどうしようもない奴も居たが、そんな奴は稀だ」
そんなウラジィさんでも前世で手に負えない相手は居たんだな。
そして相当根に持ってるんだな。
でもそこはスルーだ。
その村はヴァルハラ平野開拓で広げた農地を耕作する人達が作った村だった。
農夫が集まり、商店が集まり、飲食店、宿屋が集まりとそんな感じで短期間で発展したようだ。
二人ともボロボロになったスーツ姿だったので、その村の衣料品店で衣類の補充もした。
ウラジィさんは既製品の農作業用の作業服に着替えた。
規格外ビックマッチョの俺の服は仕立てるしかないのが常だったが、なぜかちょうどいい服が数着【在庫処分品】として売っていたので買い占めた。
街の仕立て屋が放出したものらしい。
騎士用の服だったが、旅をするにはスーツよりマシだったのでそれに着替えた。
ゆったりと宿泊して、旅支度を整えて、再度出発。
首都を目指した【魔王】と【副魔王】の珍道中は続く。




