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3-1 転生者達は自分の葬式をするようです(1.5k)

 40代の開発職サラリーマンだった俺が、剣と魔法の世界といえるこの異世界に転生してから一年と七日目の夕方。


 【魔王城】の生活が快適だったので、ついジェット嬢に捨てられたことを忘れようとしてしまった俺にウラジィさんが容赦ない一言を放った。


 泣き崩れて玉座の前でぺしゃんこになった俺に、ウラジィさんの手厳しい追撃。


「若造。泣かせた女を忘れるために、勝手に無かったことにする奴を何て言うか教えてやろうか」

「ハイ……」


「【男のくず】と言う。国や世界が変わってもそれは変わらん」


「デモ、ジェット嬢は、自分から離れていきましたし……」

「言い訳するな若造。離れる女は追うものではないが、泣かせた落とし前はつけるものだ」


「申し訳ありません。でも、俺は妻帯者。なんかこう。許されないような気もするんです」

「謝る相手はわしじゃない。まだ前世の妻を言い訳に使うか。本当にくずだな。お前は死んだんだ。死んだなら、ちゃんと死別しろ」


「思い出してしまうんです。残した家族が心配で……」

「忘れろとは言わん。だが、前世のお前はもう死んだ。どんなに心配したって、前世の世界に対してはなんにもできん。だからきちんと【死別】しろ。わしも同じだ」


「俺は、何もかも途中だったんだ……」


「40代という一番重要な役割を持つ年代での突然死。受け入れがたいのは分かる。その点では70代まで生きたわしより辛いだろう。だが、現実からは逃げられん。死ぬっていうのは絶対的な別れだ。受け入れるしかないんだ。若造にだってわかるだろ」

「ハイ…………」


わしも付き合ってやる。今夜は【葬式】をやるぞ」

「【葬式】? 誰の?」


「若造と、わしのだ」


…………


 夕焼けも消えて外が暗くなった頃。

 エントランスに置いた座敷で、ランプの明かりを囲んで酒を飲む【転生者】。中身オッサン見た目若者【魔王】と爺さん【副魔王】。


「これが、わし達の【葬式】だ。飲んで、呑んで、前世とちゃんと【死別】しろ」


 そうか。ウラジィさんも【転生者】だから、前世にいろいろ残して突然死しているんだ。

 だから、【男のくず】の俺に、こんなに親身になってくれるんだ。


「ありがとう。ウラジィさん」

「若造。前世では妻帯者だったんだろうが、その肩書とはここで【死別】だ。この世界では独り身だ。前世を思い出して懐かしむのはいい。前世の経験を活かして前に進むのもいい。だが、前世を理由に女を泣かすようなことはもうするな」


「俺がんばるよ」

「そして、あの女をモノにしろ。再び捕まえることができたらわしにも紹介してくれ。遠目で見たけどかなり上物だ。楽しみにしてるぞ」


 ウラジィさん。なんか楽しんでないか。いいけどさ。

 そして、ウラジィさんも一緒に【葬式】したということは、やっぱり、【死別】したい何かを残してきたのかな。


「ウラジィさんにも【死別】したい未練があったのか?」

「あぁ、70代まで生きたから若造ほど未練は無いが、やり残したことはあった」


「ちなみに何をしたかったんだ?」

「あのコメディアンあがりを一発ぶん殴りたかった」


 これはスルー一択だな。

 だけど、ちょっと気になるキーワードが出てきた。

 ちゃぶ台の下から卓上鏡を出して自分の顔を見る。


「【殴る】といえば、俺のこの顔。ジェット嬢を探しに行くにも、このままじゃマズイ気もするな」

「いいじゃねぇか。わしの地元のイケメン風だ」


「なんとなく、ジェット嬢が怒った理由にこの顔も含まれているような気がする」

わしにできることなら協力するぞ」


「ウラジィさん。スポーツ得意だよな。腕力あるよな」

わし、柔道やってた。サンボも得意よ。テコンドーは微妙よ。腕力あるよ」


「頼みがある」

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