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2-4 副魔王に泣かされた日(2.5k)

 転生者仲間のウラジィさんと情報交換と物騒な魔法ごっこをしてから三日後の午前中。

 引き続き、【魔王城】での二人暮らし。


 保存食ばかりの食事に飽きてきたなと思いながら、【魔王城】エントランスの掃除をしていると入口から来客。


「ちわーっす。ユグドラシル生活協同組合でーす。【副魔王】様の注文の品配送に参りましたー」

「生協さんかよ! あるのかよ!」

「そりゃあるよ。街もあるし人も住んでるんだから」


 ウラジィさんはエントランスに置いた座敷の上でくつろいでいた。

 この座敷は、俺の寝室にした部屋にあった座敷を明るくて広いエントランスに移動したものだ。


 体育館のように広いエントランスにちゃぶ台を置いた座敷。

 そしてそこに配送に来る生協さん。

 生活感てんこもりの【魔王城】だ。


 配送のお兄さんが置いて行った荷物を俺が座敷のところまで運び、ウラジィさんがそれぞれ開梱して中身をちゃぶ台の上に並べていく。


 保存食がメインだけどパンもある。

 お酒もあるようだ。


「日持ちしない物から食べるぞ」

「そうだな。って、いつ入会したんだ。あと、何処から来ているんだ」


「ここに来たすぐ後ぐらいだな。近くの村に事務所があったから、そこで入会した。この城にあった金貨で先払いしたら喜ばれた。配送は十日に一回ぐらい。トラクターで来る」


 【西方運搬機械株式会社】のトラクターか。配送車としても活躍してたのか。


 何の違和感もなく配送のお兄さんは出入りしていたが、そういえば、俺がここに来た時に見た【ガーゴイル】的な何かは出てこなかった。

 アレが一体何なのかちょっと気になって聞いてみる。


「ウラジィさん【案内役】に指示を受けたって言ってたけど、【案内役】って何なんだ?」

「だから、わしに聞くな」


「すまん。聞き方が悪かった。ウラジィさんは【案内役】にどんな指示を受けたんだ?」


「【案内役】は、わしが玉座で目覚めた時に目の前に居た。わしに【副魔王】をしろと。そして、ここで次の【魔王】の到着を待てと。買い物行くのはいいけどあんまり留守にするなと。あと、簡単にこの城の説明を受けたな。アレを見たのは一回だけだった」


「他に何か言われたことは無いか?」


「【魔王】が来るまで、城を綺麗にしておけと言われた。だから、できる範囲で掃除と片付けをした。【魔王】が来てからは好きにしていいとも言ってた」

「ああ、だからエントランスと【謁見の間】が綺麗に片付いてたのか」


「あの【ヴォジャノーイ】の奴、年寄りに無茶をさせよる」

「【ヴォジャノーイ】だと? 俺には【ガーゴイル】に見えたが」


「まぁ、見る相手によって形が変わるんだろう。立体映像みたいなものだったからな」

「立体映像? そうだったのか。ウラジィさんよく気付いたな」


「足跡が無かったからな。わしが来た時は床にほこりが積もってたからすぐわかった。掃除大変だった」

「そうか、来るなり大変だったな」


 俺は転生直後に【腹ばい女】を放置して、【魔物】に襲われて、その後【腹ばい女】に髪を焼かれてしこたま殴られただけだったけど、ウラジィさんはこの大きな城の掃除をしてたのか。

 そう考えると掃除のほうが楽な気もしてきたが、まぁいいや。


「若造。逆に聞くが、魔法の中でアレに近い物はないか」

「闇魔法で立体映像的なものなら見たことはある」


 【踊るキャスリン】を一回見たことがあるけど、あれは無人で自動で起動するようなものじゃなさそうな気がする。


「ここはなかなか面白い世界だな。わしも外に出ていろいろ見てみたくなった」


◇◇


 【魔王城】で【転生者】仲間のウラジィさんと暮らし始めて七日目。

 生協さんから荷物を受け取った二日後の夕方。


 【謁見の間】の掃除をしていると、玉座でくつろぐウラジィさんから突然話を切り出される。


「若造。いつまでもここに居ていいのか」

「【魔王城】に【魔王】が住んでるんだから、いいんじゃないかな」


「あの女。どうするんだ」

「あの女ってジェット嬢のことか。って、何で知ってるんだよ!」


「若造、そこから城の入口見てみろ」

「あ。入口見える。そうか、ウラジィさんが玉座によじ登ったら、入口見えるんだ。もしかしてウラジィさんあの時全部見てたのか?」


「ああ、ダメ男が女に捨てられるところ全部見てた。笑った」

「うわぁぁぁぁぁぁ!」


「言っておくが、わしは引き留めてはないからな。ちゃんと自分で考えて行動しろよ」


 そうだった。俺は一年間行動を共にしたジェット嬢を、絶対に言ってはいけない言葉で傷つけてしまい、捨てられたんだった。

 あれからジェット嬢は俺のところに戻ってこない。ということは、単独では着陸ができないとは言ってはいたが、何か即席で方法を考えて何処かに降りているに違いない。

 着陸方法さえあれば、ジェット嬢は一人でもわりと自由に行動できる。


 ジェット嬢には俺以外にも他に仲のいい男はいる。

 フォードとかな。


 ヨセフタウン住民は皆彼女の知り合いだ。

 生活に不自由は無いだろう。


 それに対して、俺は40代のオッサン。

 前世では既婚で子持ちのオッサンだった。


 いつまでも【娘】のような年齢の女を背中に張り付けているわけにもいかないとは思っていた。

 ジェット嬢が自分の意思で飛び去ったんだから、そろそろ潮時かなとも思う。


 そう。それだ。


 それに、【魔王】呼ばわりされた俺が元魔王討伐隊のジェット嬢と一緒に居るのも不自然だ。

 ジェット嬢が再度【魔王討伐】をしようとしたら秒殺される。

 近くに居ない方がいい。


 【魔王城】は暮らしやすいし、【転生者】仲間もいるし、俺もうここで隠居でいいんじゃないかな。


「うーん。今まで半分忘れてたけど、俺は前世で既婚者だからなぁ。前世の妻の事を考えると、いつまでもジェット嬢背負っているわけにもいかないかなと」


 ウラジィさんはため息をつきながらつぶやく。


「若造の前世の奥さんも気の毒になぁ」

「そうなんだよ。育ち盛りの子供二人残して夫が死亡とか、ちょっと人生ハードすぎるだろ。まぁ、今更どうにもならないけどな」


「先立った夫が逝った先の異世界で女泣かせてその言い訳に使われる。一年近く忘れられた挙句、思い出された途端にその扱い。本当にいたたまれんわ」


 俺は、泣いた。

●次号予告(笑)●

 今まで若者を導くことを生きがいとしていた40代のオッサンは、70代の爺さんに若造呼ばわりされながら手厳しい叱責を受ける。


【四十にして惑わず】

 頼る立場から、頼られる立場になって、そして、また頼る立場に向かう。人生の折り返し地点。まだまだ、人生学ぶことが多い。


 【転生者】仲間同士、二人で前世の自分の【葬式】を行い、未練を断ち切る。

 そして、旅立ち。


 旅は道連れ世は情け。オッサン【魔王】と爺さん【副魔王】の凸凹でこぼこな珍道中が始まる。


次号:クレイジーエンジニアと珍道中

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