表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/166

1-1 魔王討伐一周年記念祝賀会(2.3k)

 40代の開発職サラリーマンだった俺が、剣と魔法の世界といえるこの異世界に転生してから今日でちょうど一年。あの戦いから約四カ月が経過していた。


 エスタンシア帝国との休戦状態は続いているが、終戦交渉が難航しているのか、終戦や講和は成立していない。

 それでも商取引は始まったらしく、反斜面陣地まで伸びたトロッコ鉄道を国境沿いにあった都市の跡地まで延長。それを使って連日穀物をエスタンシア帝国に向けて運んでいる。


 俺達はと言えば、わりと早い段階で捕虜の大半が帰還したため、行動制限も解除されて自由な生活を取り戻していた。

 領空侵犯は禁止だが、ユグドラシル王国領空なら自由に飛べるようになったのだ。


 そして、俺が転生して丁度一周年の昼下がり。

 俺達は王宮主催の【魔王討伐一週年記念祝賀会】に参加している。


 王宮建屋三階の催事場のような場所で、百人規模ぐらいの立食パーティ。

 参加者は王国重鎮や、元魔王討伐隊の功労者の方々。


 それに呼ばれた俺達は、【ウィルバーウイング】を使って今朝サロンフランクフルトから首都の王宮までやってきた。


 ジェット嬢は珍しく脚付きのドレス姿だ。

 俺は、俺専用に仕立てたスーツを着ている。

 どちらも、例のおんぶ紐的ハーネスは服の内側に着用している。

 何かあった時にすぐにいつもの背中合わせになれるように。


 俺はこの光景を見て前世世界の忘年会を思い出していた。

 前世の俺は40代の開発職サラリーマンだった。そして、俺の所属部署は百人規模の大所帯だったので、全体で集まるときは、地元のホテルの催事場を借り切って行うしかなかった。

 そんな宴会もそれはそれで楽しかったが、料理に集中すると会話ができず、話し込んでばかりいると料理が食べられずという葛藤が発生してしまう難儀な宴会でもあった。

 やっぱり話しながらゆっくり飲みたいなら、チーム三人で居酒屋とかがいいなぁ。とか。


 だが、ここは前世世界とは違う。

 俺が恐れている懸案事項についてジェット嬢に聞いてみよう。


「ジェット嬢よ。この立食パーティで、音楽が鳴ったら男女組んで踊りだすとかそんな変な展開はあるのか?」

「無いわね。そういうのもあるけどこの祝賀会は違うわ」


 あるんだ。

 でも今日は違うんだ。

 それを聞いて安心した。


 ファンタスティック世界でありがちな、催事場的な場所で男女組んで踊りだすとかいうアレ。

 俺は人生経験豊富な40代のオッサンであるが、あのノリに放り込まれたら辛すぎると密かに恐れていた。

 でも今日はそのノリじゃないなら安心だ。


「ジェット嬢よ、この王宮の一般常識として聞くが、こういう立食パーティは王宮ではよくあるのか?」


 質問の時には注意が必要だ。

 ジェット嬢と王宮の関係は【滅殺案件】に含まれる可能性があるからだ。


「魔王討伐作戦を実行中に何度かあったわ。大作戦成功のときに計画遂行の節目を祝って士気を上げたり、功労者を表彰したりとか、そんな目的よ」


 なるほど。所謂いわゆる【ガス抜き】というやつか。

 世界が変わっても、宴会の開催目的はあんまり変わらないんだな。


 会場の奥にある壇上に国王が立つ。

 その壇の近くには、イェーガ第二王子と、キャスリンも居る。

 人が多い中で立っていると分かるけど、国王や第二王子もわりと長身だな。

 185cmぐらいの普通の長身だな。


 壇上で国王がスピーチを始めた。

 魔王討伐計画参加者への感謝や、今後の国の発展の展望について語った。そして、先のエスタンシア帝国との戦闘についても、作戦関係者への感謝と講和の見通しや、両国協調しての発展の未来について語った。


 実際、終戦と講和さえ成立すれば、この国の発展の余地は大きいと俺は思っている。

 開戦準備目的で作った東海岸沿いの【東海道】と、国土を斜めに横断する【中央道】の道路インフラ。そして、戦時量産体制で生産し、休戦後に民間に払い下げられた多数のトラクター。これらにより国内の物流網は急速に発達した。


 情報伝達もそれにより加速している。国土西側のインフラ整備は遅れているが、それも計画中の【山陽道】が完成すればすぐに追いつく。

 俺達がサロンフランクフルトで実用化した数々の技術も、開戦準備を通じて全国各地に広がり、今まさに生活の中に普及しようとしている。

 急速な経済成長につきものの【公害】も、この国に元からある厳しい環境規制を守って発展していけば、予防できる可能性が高い。


 国王の挨拶が終わって、歓談タイム。

 別段語りたい知り合いの居ない俺は、ジェット嬢の傍にいる。


「この国。終戦さえできれば普通に未来が明るいんじゃないか」

「そうね」


 今回初めて知ったが、義足装着のジェット嬢は足が遅い。

 義足は飾りとまでは言わないが、歩くのがやっとの物だった。


 だから義足装着後の移動の大半は俺の片腕にぶら下がってきた。

 端から見るとエスコートしているようにも見えて違和感が無いそうだ。


 ジェット嬢は、こちらにやってきたキャスリンと話を始めた。

 ガールズトークかな。


 キャスリンは今回は普通のドレス姿だ。

 色は黒じゃなくて薄い緑色。

 やっぱりドレスで黒は難しいよね。


 そして、この二人が並ぶと分かる。

 身長170cmと150cmぐらいといったところか。

 やはり、ジェット嬢は女性にしては大柄だ。


 それ以上に大柄な俺は、仲良く会話する女子二人を上から見下ろして気分をなごませる。

 だが、キャスリンの胸元に上から視線を送るのは非常に危険だ。

 この世界では【セクハラ】や【不道徳行為】に【死刑】が適用される危険性がある。


 自らの視線による身の危険を避けるため周りを見渡す。


 会場の隅で国王が俺の方を見て手招きしている。

 国王の隣にいる白衣の男は医者か? そして、俺か? 俺を呼んでるのか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ