22-2 八咫烏特攻作戦と帰り際にしたいらんこと(1.8k)
俺達が【戦争】と隣り合わせの日常を取り戻した四日後の午後。
俺達は【ジェット☆ブースター】で有翼貨物コンテナ【八咫烏】を引いて、エスタンシア帝国首都カランリアの上空を旋回飛行していた。
今日の昼食後に腹黒男に呼び出されて、【機動推進機試験所】にて【お着換え】し、【西方航空機株式会社】の格納庫に集合。
そこで【八咫烏】とワイヤーで連結し、滑走路から離陸。
【八咫烏】は、【密輸】の時に使用した【パーフェクトギヤ】は取り外され、元の降着装置に戻されていた。
また、機体前後と主翼両側に何かの文字が大きく書かれている。
出発前の打ち合わせにて、今回の作戦概要を聞いた。
作戦名は【八咫烏特攻作戦】。
穀物を満載した【八咫烏】にユグドラシル王国の【軍人】三名を乗せて、エスタンシア帝国の首相官邸前広場に強行着陸。終戦交渉の突破口とするそうな。
翼に描かれた文字はユグドラシル王国の国名。
相手国国民に対して継戦意思が無いことのアピールをするために、あえて大きく描いたとのこと。
そして、搭乗する【軍人】は、作戦発案者の腹黒男レイマンとその部下二名。
敵軍捕虜となるために敵地に飛び込む決死の任務だ。
「強行着陸決行よ」
【八咫烏】上の腹黒男からの旗による指示を見たジェット嬢が声を上げる。
「了解だ。って言っても俺あんまりすること無いけどな」
「そうでもないでしょ。今回は着陸場所狭いんだから、前をちゃんと見ていて頂戴」
「了解」
首相官邸前広場はそこそこ広いが、滑走路ではない。
当然、飛行機が着陸できるような整地もされていない。
そこに【八咫烏】を胴体着陸させるのだ。
【八咫烏】本体は破壊前提だが、積み荷への影響を最小限に抑えるためと、搭乗員の安全のために、障害物がなるべく少ない進入路を選ぶ必要がある。
上空から着陸予定場所の首相官邸前広場を見下ろすと、移動可能な障害物は撤去されており、【八咫烏】のコンテナの二倍ぐらいの幅でカラーコーンのような目印が並べられていた。
敷地の隅で二十人ぐらいがこちらに向かって手を振っている。
「トーマス達が着陸滑走場所まで準備してくれていたぞ」
「気が利くわね。助かるわ」
腹黒男はトーマス達にあらかじめ作戦概要を伝えてあったとか。
決行日は未確定だったので、開戦期日以降トーマス達はカランリア首相官邸近くの宿泊施設に待機し、【八咫烏】飛来を確認したら首相官邸前広場から人払いをする手筈だったそうだ。
そして、ついでに片付けと着陸滑走場所の目印までしてくれた。
樹木はどかせないので着陸時に主翼は破損するが、【八咫烏】の飛行はこれで最後だ。コンテナが無事ならいい。
トーマス達が用意してくれた着陸滑走場所目指して侵入。
「進入経路ヨーソロー」
「ワイヤー切り離されたわ」
「【ジェット☆ブースター】離脱。水平姿勢で上昇してから減速して避けよう」
「了解」
【ジェット☆ブースター】は後続の【八咫烏】に推進噴流を当てないように注意しながら水平姿勢のまま上昇し減速。
推進機を切り離した【八咫烏】が眼下で俺達を追い越して首相官邸前広場の着陸場所に突っ込んでいくのを見送る。
追い越される瞬間、操縦台上の腹黒男と目線を交わす。
どうかご無事で。
轟音を立てながら首相官邸前広場に胴体着陸する【八咫烏】。
主翼は木にぶつかって折れたが、コンテナは形を保ったまま停止することに成功。
操縦台上から白旗が上がる。
同時に、トーマス達がコンテナ近くまでトラックを走らせる。
【ジェット☆ブースター】にて上空からそれを見届けた後、俺達は帰路に付いた。
サロンフランクフルトに着陸するわけにはいかないので、反斜面陣地跡に一旦着陸し、トロッコ鉄道でサロンフランクフルトに運ばれて、そこから【木箱梱包】で帰る予定だ。
首相官邸の窓から【八咫烏】を見ていた男が居たので、帰り際に少々いらんことをしてしまったが。
まぁ、大して困ったことにはならんだろう。
あとは、二国間の終戦交渉。
ここに俺達の出番は無い。もう葛藤する日々は終わりだ。
俺は軍人じゃない。技術者だ。
本業に戻ろう。
ジェット嬢も一緒だ。
次は、何作ろうかな。
大型飛行機もいいな。
乗用車もいいな。
どちらにしろ空気入りタイヤ欲しいな。
エスタンシア帝国から買えるかな。
タイヤが無いなら、鉄道もいいかもな。
トロッコ鉄道ならあるし……。
無線通信技術に再挑戦もいいな。
平和な日常が戻ってくるのが楽しみだ。
●次号予告(笑)●
連絡手段さえ確立して、お互いの誤解さえ解ければ利害が一致するようにも思える二国。終戦交渉は簡単と思えたが、思わぬ障害が……。
【第二部:退役聖女の逆襲】 に続く。




