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22-1 遠くて近い戦場(2.4k)

 40代の開発職サラリーマンだった俺が、剣と魔法の世界といえるこの異世界に転生してから二百四十九日目。エスタンシア帝国からの宣戦布告の開戦期日から三日目の朝。


 北側の空に天に向かって伸びる【魔導砲】の閃光が見えた。

 そして、その下から爆発。【勝利終戦号】の【ラストシューティング】。


 開戦の合図だ。


 サロンフランクフルト内の軍事施設内の動きが慌ただしくなる。

 反斜面陣地に向かうトロッコ鉄道に迎撃要員が搭乗し、それぞれの持ち場に向かう。

 迎撃地点はサロンフランクフルトより約20km北側の丘陵地帯。


 【戦車】【大砲】【重機関銃】の重火力で武装するエスタンシア帝国軍を、反斜面陣地の待ち伏せと奇襲で迎撃する作戦だ。


 俺達は、敵側がデタラメ魔法攻撃力を投入してきた場合に備えて【機動推進機試験所】にて待機。

 出撃指示が出たら、ここで【ジェット☆ブースター】に【お着換え】して出撃し、デタラメ魔法攻撃力を持つ奴を迎撃する手筈となっている。


 また、【降伏】となった場合も、ジェット嬢自体を【鹵獲】されるのを避けるため【ジェット☆ブースター】となって一旦首都まで退避せよと指示を受けている。

 その後の扱いは終戦交渉次第だ。


 戦闘は【軍人】の仕事。開戦後に俺達に出来ることは無い。

 指示に従い、出番が無いことをただ祈る。



 戦闘開始翌日の夜が明ける。

 俺達への指示は引き続き【待機】。


 指示があれば直ぐに動けるように仮眠を取りながら、軽食を食べながら戦況が動くのを待つ。

 【機動推進機試験所】側から軍事施設内の様子を伺うが、よくわからない。


「戦況は悪くないようだけど、負傷者は増えているようね」


 俺の背中に張り付くジェット嬢がつぶやく。


 軍事施設内では、キャスリンが【一方通信】を使って施設内全体へ指示を送っている。

 距離があるので俺には聞こえないが、ジェット嬢は受信感度が高いようで、それを傍受して断片的に情報を得ているようだ。


 犠牲者も出ているのだろう。

 そういう情報も聞こえているのだろう。

 だが、今それを俺が知る意味は無いので聞かない。


 俺は【軍人】じゃない。技術者だ。

 戦争の現実に真正面から対応するような力は無い。


 北の空の下にある戦場。

 微かに聞こえる爆発音。

 そこで、多くの兵士達がお互いの国の未来のために戦い、散っている。


 今、俺達に出来ることは無い。

 指示に従い、【待機】だ。


…………


 日没前。


「敵の【戦車】は全滅したそうよ。今夜が最終決戦らしいわ」


 【一方通信】を傍受したジェット嬢がつぶやく。


 優勢ということか。

 思っていたより早期に決着がつきそうな見通しに安堵を感じるとともに、【成形炸薬弾せいけいさくやくだん】で撃破された敵戦車の乗員達のことを思う。


 生存率は低いだろう。



 戦闘開始から二日。俺達への指示は引き続き【待機】。


 日が昇り、朝食を頂いた後の午前中。

 戦況が動いたようだ。


「敵からの攻撃は止まったらしいわ。キャスリンが降伏勧告に向かうそうよ」


…………


 昼休みの時間を過ぎた頃に【機動推進機試験所】に連絡役の兵士がやってきた。


「進撃してきたエスタンシア帝国軍が降伏を受諾しました。休戦です」

「そうか。それはよかった。俺達はどうすればいい」


「引き続き、【待機】をお願いします」

「戦闘は終わったんじゃないのか?」


「降伏を受諾したのは、地上から進撃してきた部隊です。後方から魔法攻撃部隊が来る可能性も考慮して、今しばらく待機お願いします」

「了解だ」


「あと、捕虜を軍事施設内の収容所に集めています。貴方方あなたがたの姿を見られるわけにはいかないので、別途指示があるまで、この建屋から出ないでください」

「了解だ……」


 戦闘終了で解放されるかと思ったら、逆に軟禁にされてしまった。

 だがこれも戦争。やむなし。



 進撃してきたエスタンシア帝国軍が降伏した翌日午後。

 捕虜からの情報により、エスタンシア帝国軍には魔法による攻撃を行う部隊は存在しない事が確認されたので、俺達の【待機】の指示は終了となった。


 ようやく食堂棟に帰ることができるが、【機動推進機試験所】からサロンフランクフルト食堂棟への移動は【木箱梱包】だ。

 ジェット嬢を背中に張り付けた俺がしゃがんで入れる大きな木箱に入れられて、台車に乗せられ、兵士六人に運搬される。


 軍事施設内の収容所に敵軍捕虜が多数居るので、俺達の姿を見られないようにするためとのこと。


 食堂棟に到着し【開梱】されてから、運んでくれた兵士より俺達の今後の生活について注意を受ける。


「収容施設から食堂棟は見えないので、食堂棟内では今まで通り行動していただいてかまいません。ですが、外出については制限があります。今後しばらくは食堂棟より北側には行かないでください」

「散歩もできないのね。いつまでその状態は続くの?」


「捕虜人数が多いので、見通しは立っていません。でも、東池方面は施設側から死角になるのでそちら側は自由に散歩していただいて大丈夫です」

「そっち側が散歩できるならいいわ」


「捕虜を移送する際は前もって連絡するので、その時は外出禁止です。都度指示に従ってください。あと、分かっていると思いますが、昼夜問わず絶対に飛行はしないでください。それを彼等に見られると、後が大変です」

「仕方ないわね」


 ジェット嬢はちょっと残念そうだが、確かにエスタンシア帝国軍の捕虜に俺達のデタラメな姿を見せるわけにはいかない。

 これもやむなし。


 今回の戦闘について気になっていたことがあるので、ついでに聞いてみることにした。


「戦果は結局どうなったんだ。敵兵力や、負傷者などの情報は公表されるのか?」

「戦果は、越境進撃したエスタンシア帝国軍が降伏。それだけです。戦闘の経過、双方の負傷者、犠牲者等の情報は軍事機密です。これ以上我々からお伝えできることはありません」


 それもそうか。


 梱包用木箱一式と共に兵士達は軍事施設に帰って行った。

 俺達は、外出制限付きながらも、日常生活を取り戻した。

 【戦争】と隣り合わせの日常を。

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