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21-4 敵国から密輸で買い込む新技術(2.4k)

 【勝利終戦号】との別れの四日後の夜。俺達はエスタンシア帝国の東海岸線沿い上空を【ジェット☆ブースター】で【八咫烏やたがらす・改】を引いて飛行している。


 【密輸第一便】だ。

 【八咫烏やたがらす・改】に搭乗するのは、腹黒男レイマンと、ウェーバ社長とリオ主任。

 往路の積み荷はトーマスが渇望していた穀物だ。


「11時方向。着陸斜面見えた。ちょい左」

「了解」


 トーマスメタル社の倉庫は山の地下にある。

 その山の南向きの斜面が【八咫烏やたがらす】用の滑走路にするのに丁度いい勾配だったので、前回【逮捕】されたときの不法入国で斜面の整地を依頼しておいたのだ。


「針路ヨーソロー」

「照明まだ?」

「照明少し待て」


 【八咫烏やたがらす・改】を夜間着陸させるには照明が必要。

 しかし、この場所はエスタンシア帝国の首都カランリアに近い。

 あんまり早い段階で点灯させると目立つ。


 【密輸】目的の【密入国】なのでなるべく目立たないように着陸したい。


 国内での戦略物資輸送任務を解かれた【八咫烏やたがらす】は、この【密輸】任務用に改造を施した。

 大きな改造ポイントは降着装置だ。


 元の八本組の降着脚をリオ主任開発の不整地対応降着装置【パーフェクトギヤ】に換装することで、地上での自在な移動と急造の斜面滑走路での離着陸を可能にした。


 この【パーフェクトギヤ】は、俺の前世世界でいうところの自在キャスターを大きくして緩衝装置をくっつけたような感じだ。これがコンテナ下に八本付いてる。


「照明、今」

「了解」


 ジェット嬢の火魔法応用による照明が滑走路を照らす。

 【ジェット☆ブースター】は推力を落として減速しながら滑走路に侵入。

 【八咫烏やたがらす・改】の着陸操作はあの三人任せだ。


 軽い衝撃と共に上り斜面に【八咫烏やたがらす・改】が着陸。

 減速しながら斜面を駆け上り、頂上の平地で停止。


 ワイヤーで繋がれた【ジェット☆ブースター】も機体前方の平地に着陸。

 そこでジェット嬢の火魔法による照明を一旦消す。


 斜面の陰からランプの灯が多数灯り、二十名ぐらいの男達が【八咫烏やたがらす・改】に歩み寄って来る。

 その先頭には社長のトーマス。


「えー、お久しぶりです。時間丁度ですね」

「久しぶりだなトーマス。なんか、余計に痩せてないか?」


「えぇ、食糧事情は悪化の一途ですからねぇ。そんな中でこの斜面の整地をしていたので社員一同痩せてしまいましたよ」

「無理言ってすまんな。だが、約束の品は持ってきた。今日はたらふく食えるぞ」


「えぇ、ありがとうございます。でも、玄麦はそのままじゃ食べられませんからね。これからパン屋行って、ごちそうは明日ですよ」


 シュバッ


「そこはちゃんと考えてあるわ。作業前に食事ができるようにパンや軽食も積んできたの。みんなで食べて頂戴。人数分はあるはずよ」

「えー、それはありがたいです。さすが女性は気配りが違いますね」

「どういたしまして」


 女性らしさを褒められてジェット嬢は嬉しそうだ。


 【八咫烏やたがらす・改】の操縦台から腹黒男レイマンが降りてきて俺達のところに来た。


「トーマスさんでしたっけ。初めましてレイマンです」

「えー、トーマスです。初めまして。よろしくお願いします。ちなみに、レイマンさんは諜報ちょうほうの方でしょうか」

「分かりますか。肩書は諜報ちょうほうでは無いんですが、まぁ、結果的にそんな仕事になってしまってます」


 【軍人】であるレイマンが【密輸】や【密入国】をするのは本来タブーであるが、そこは腹黒。どうやって帳尻合わせているか分からないがこの作戦は彼の指揮下で行っている。確かに、【諜報ちょうほう】に近い仕事になってしまってはいる。


「えぇ、私は商売上手としていろんな人に会うので、なんとなく風貌や仕草から職業分かったりするんですよ」

「前から思ってたけど、トーマスさんの天職は他にある気がするわ」

「そうだな、少なくとも商売上手ではないな」


 双方の顔合わせが済んだ後、積み荷の交換。

 まずは持ってきた穀物を降ろす。


 力仕事は俺も手伝いたかったが、【ジェット☆ブースター】に組み込まれて【八咫烏やたがらす・改】にワイヤーで繋がれているため、俺とジェット嬢は身動きが取れない。


 背中に張り付くジェット嬢とコーヒーを飲みながら、軽食食べながら、作業が終わるのを待つ。


 積み荷を降ろしたところで【八咫烏やたがらす・改】を集まった人数全員で押して、機首を斜面滑走路に向ける。

 【ジェット☆ブースター】として【八咫烏・改】の前方にワイヤーで繋がれている俺達は、回頭する機首を追いかけて歩く。


 向きを変えたところでブレーキをかけて、【注文の品】の積載。


 ウェーバ社長とリオ主任の指示で、トーマス社長の部下達が次々と【八咫烏やたがらす・改】に荷物を運び込んで中で固定していく。


 開戦を目前とした敵国国民同士の共同作業。

 お互い現状は把握しつつも彼等に戦意や敵意は全くない。

 普通の人間同士だ。


 作業が終わり、持ってきた食事を皆で食べながらしばし歓談。

 身動き取れない俺達の近くにわざわざ集まってくれたことに感謝。


 ウェーバ社長はトーマス社長と意気投合したようだ。

 次の便での追加注文の話までしている。

 技術書籍も手配可能ということだったのでそれも頼んだとか。


 この【密輸】はあと二往復計画がある。

 開戦前に積載量いっぱいに買い込むつもりらしい。


 往路の貨物は再び穀物。

 【八咫烏やたがらす】は、空荷ではバランスが悪くて飛べないという制約があるため、物々交換のこの【密輸】には逆に適している。


 貨物と機体の最終点検後、離陸準備へ。


八咫烏やたがらす・改】に三人搭乗、【ジェット☆ブースター】も【八咫烏やたがらす・改】の前で垂直離陸。


 微速前進しワイヤーを張る。


「全員並んで、手を振って見送ってくれているわ」


 後ろが見えるジェット嬢がトーマスメタル社の社員の状況を教えてくれる。


「いい人達だったな。次来るのが楽しみだ」

「そうね。予定では二日後ね。次はもっと多めに軽食用意するわ」


 【八咫烏やたがらす・改】の操縦台で【機長】役の腹黒男レイマンが離陸合図の旗を振る。

 それを確認したジェット嬢が【ジェット☆ブースター】の推力を上げ【八咫烏やたがらす・改】を引く。


 下り坂の勾配も利用して、加速。そして、離陸。

 俺達は帰路に付いた。

 敵国から購入した新技術を満載して。

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