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世界一の暗殺者

 翌日、ジョセフ国の幹部の間に秘密裏にニュースが駆け巡った。

 スパイらしき人物が何者かに殺害された、というものだ。

 

 ショーマはリベリー中将から呼ばれて事情を聞かれた。

「何も知りません」

 とショーマは答えた。

「ふむ、よかろう」

 と返事したリベリー中将だが、

「何かわかっていたら私に一番先に知らせなさい。一番先にな!」

 と威圧的な視線をショーマにぶつけた。

「はい」

 と表情を変えないように返事したショーマ。

 だが内心は、かなり動揺していた。 


 夜は約束通り、エルマーに乗ってセリアンの森を訪れる。

 そこにはコレットがいた。

 コレットは肩に、鷹にもトカゲにも見えるような、二本足の小動物を載せている。

「コレット、その生き物は?」

「竜よ」

「竜って、ドラゴン? あの伝説の生き物のこと?」

「何言ってるの? めったに現れないけど、竜はこの世にいるわ」

 ショーマは竜をまじまじと見る。

 恐竜のような顔、肩に生えている大きな翼、身を覆う堅固なウロコ、二本足での直立。

 確かにドラゴンである。

 すると竜がしゃべった。

「おまえ、この世界の者じゃないだろ?」

「え〜っ? 竜さんってしゃべれるの?」

 ショーマが驚く。

 コレットも、竜の発言はそっちのけで言う。

「ショーマ、竜の言葉がわかるの? 話せるのは私だけだと思ってたのに」

 コレットは竜の頭をなでながら言う。

「この子はファヴィアンって言うの」

 コレットは竜と仲良くなった経緯を話してくれた。

 彼女は女の子だが、爬虫類が大好きだった。

 いつも庭や森の中で出会ったトカゲやヘビをかわいがっていた。

 そしてある日、剣術練習の夜、ファヴィアンと出会った。


 ファヴィアンは森の木立の中で翼に枝が引っ掛かり、動けなくなっていた。

 これを助けたのがファヴィアンだった。

 ファヴィアンはしばらく何も食べてなかったので、とても腹を空かせていた。

 コレットは持ち合わせていた干し肉や卵焼きを食べさせた。

 これが縁で、ファヴィアンは時々、コレットのもとを訪れるようになった。


「ファヴィアンの本当の姿は巨大なの」

 普段は目立ちすぎるから小さなサイズで行動している。

 いざ戦いとなれば、口から超熱波や超冷波を発射することもできるという。

「でも普段は温厚で、とても可愛いのよ」

「可愛いってのはやめろよ。オレは強いんだぞ」

 とファヴィアンは腕組みをしてコレットをにらむ。

「ごめんごめん。とても強いファヴィアンのこと、頼りにしてるね」

 それを聞いたファヴィアンは笑顔になり、ショーマに言う。

「そこのお前、名はなんという?」

「ショーマです」

「何かあったら言ってくるがよい。オレが助けてやろう」

「……ありがとうございます」

 しやべる竜に呆気に取られつつ、ショーマは言葉を絞り出した。


 ファヴィアンの見ている前で、ショーマとコレットは剣術訓練を行った。

 コレットの太刀筋は昨日よりも滑らかだ。

 動きに無駄がなくなり始め、手応えのある攻撃を繰り出す。

 筋が良いのだろう。 

 訓練の場さえあれば、非常に進歩が速い。


 ひととおり訓練が終わると、ファヴィアンが言う。

「ショーマ、なかなか強いな」

「ありがとうございます」

「お前の敵は誰なんだ?」

「ボナパルト帝国のディータ皇帝です」

「やっかいなのを相手にしてるな。まぁ、頑張ってな」


 コレットは訓練が終わると、差し入れをみんなに振る舞った。

 竜に干し肉と卵焼き。

 エルマーにはニンジン。

 そしてショーマと2人でサンドウィッチを食べる。

 そして今夜も楽しい時間が流れた。

 

 帰宅して湯を浴び、疲れ切った体をベッドに横たえたショーマ。

 睡魔はすぐにやってきた。

 しばらく眠っただろう。

 だが静かな時間は打ち破られた。


 ガラスが割れる大きな音。

 ショーマはとび起きた。

 全身黒づくめの細身の人物が、窓を破って部屋に侵入してきた。


〈間違いなく、暗殺者だ!〉


 ショーマは瞬時に相手を観察する。

 セミロングの黒髪、黒い仮面からのぞく長いまつ毛の目、おそらく女だ。 

 体のラインも柔らかくバストも豊か、やはり女性だと確信できる。

 両手にはスローイングナイフを持っている。

 これが暗殺用の武器だろう。


 聞くまでもない、この前、スパイを殺された、お礼参りだ。

 どうしてショーマがここにいるか、わかったのは謎だが…。

 いずれにしても、こんなに早く狙われるなんて、想定だにしていなかった。

〈俺の負けだ…〉


 女は両手に持ったナイフをショーマに向けて放つ。

 右手と左手の同時投げ、どちらに逃げても急所を射抜く技術だ。

 さすがはボナパルト王国、最高の技術を持つ暗殺者を送り込んできた。 

〈刺される!〉

 とショーマは覚悟する。


 投げられたナイフは高速でショーマの心臓に向かう。

 鋭利で冷徹な刃の輝きがショーマを仕留めにかかる。

 しかし2本の凶器は、なぜか空を切って、床に落ちる金属音が響いた。


 ショーマはバックステップで女のナイフの軌道から逃れていた。

 なぜ逃れられたのか。

 それはショーマと暗殺者の身体能力の差にあった。

 女の動きには無駄がなかった。

 投げる動作も迅速なはずだった。

 しかしショーマにはそれが、なぜかゆっくりに見える。

 女のモーションの予備動作から軌道を予測し、瞬時にステップを踏む。

 そしていち早くナイフの軌道から逃れていたのだ。


 女は信じられないといった表情だ。

 そして両方の太ももに仕込んだナイフを右手と左手に握る。

 ショーマをにらみつけ、狙いを定める。

 そして今度は左手でショーマの心臓へと投げつけた。

 ショーマは左にかわす。

 しかしそれは罠だった。

 女はショーマの動きを予測していた。

 そして動いた先の心臓部分へ、女はナイフを放った。


 今度こそ仕留めたと確信した女は〈してやったり〉の表情だ。


 しかしショーマは体を仰向けに寝かせてかわした。

「いくら投げても、俺には当たらないよ」

 と女に語りかけるショーマ。


 女の目に怒りの色が浮かぶ。

 そして2本のアーミーナイフを背中から抜き出す。

 刃渡りが手の平以上に長い大型のナイフだ。

 両方の手に持ち、ショーマにじりじりと寄っていく。

 投げてダメなら、直接に刺そうというのだろう。

「ボナパルト王国・ディーター皇帝からの勅命だ、覚悟しなさい! 絶対に仕留める!!」

 聞いてもいないのにターゲツトに対して依頼元を話してしまうとは、よほど白兵戦に自信があるのか、それとも怒りに我を忘れているのだろうか。


 女はアーミーナイフを小刻みに動かして牽制しながらステップを踏む。

 そしてショーマを壁際に追いやっていく。

 後方へ逃がさないようにするためである。

 ショーマは壁際に追い込まれた。

 女は狙いを定めて、右腕でショーマの心臓へナイフを突く。

 と思いきや、女の動きが途中で止まった。

 ショーマを確実に仕留めるためのフェイントだ。

 すぐさま左からの踏み込みで逆からナイフを刺しにかかる。

 しかしこれも瞬時に止める。

 ダブルのフェイントだ。

 2回の体重移動でショーマの足の動きが完全に止まった。


 女は確信の表情で右腕のアーミーナイフをショーマの心臓に勢いよく突き出した。


 その瞬間、アーミーナイフが宙に舞った。

 何が起こったのか。

 女は信じられない表情だ。


 実はショーマが女の油断を誘い込んでいた。

 壁に追い込まれ、フェイントをかけられ、絶体絶命の状況。

 ここで必ず、暗殺者はとどめを刺しに、右腕のナイフを突き刺しに来る。

 そのタイミングを狙い、ショーマは左腕の上腕部を上に突き上げる。

 女が突き出した右腕が下からの打撃を受け、上方に飛ばされる。

 アーミーナイフが宙に舞う。


 この白兵戦のテクニックをショーマはニコラ少将に習って習得していた。

 馬術をはじめ、教えを請いにくるショーマ。

 ニコラ少将は彼を息子のように可愛がってくれていた。

 そして訓練外でも、さまざまなことを教えてくれていたのだ。

 ショーマは心の中で、ニコラ少将に深く感謝した。


 ショーマは女の右腕を上にはじくとともに、自分の左腕を巻き付けてロックした。

 アームロックで関節を決められ、女の腕に激痛が走る。

 同時にショーマは女の左腕にも、肘を取ってアームロックをかけて、上方に絞り上げる。

 両腕を折られそうな激痛に女の表情が浮かぶ。

 ショーマが女に聞く。

「ボナパルト帝国・ディータ王からの勅命だと言っていたな。なぜ俺が狙われたのか、事情を知ってのことか?」

「細かいことはわからない。だけどオマエが危険人物だといわれている」

「なぜ暗殺者をやってるんだ?」

「私の家族はジョセフ国軍に殺された。祖母も祖父も、父も母も、兄も姉も妹も、皆殺しにされた。私は一人ぼっちで、ずっと泣きながら生きてきた。その恨みを晴らすためだ」

 女の目からは大粒の涙がこぼれていた。

 ショーマは、女の腕を静かにほどいた。


 そして女に言った。

「じゃあ、俺を殺していいよ」

 女は驚きのあまり呆然としている。

 彼女は、なんとか言葉を絞り出す。

「何を言ってるの……」

 ショーマは、床に落ちたアーミーナイフを拾い上げ、女に握らせて、再び言う。

「俺を殺していいよ」


 それを聞いた女の表情が変わっていく。そして、

「なぜあなたは、そんなことを言うの?」

 とたずねる。

 ショーマが言う。

「君の人生と、俺の命を君の命を比べたら、君の人生のほうが重いよ」

 女が目頭を抑えながら言う。

「無抵抗の方はもはや戦闘員ではありません。ただの市民です。市民の方は、もはやターゲットではありません。私は無抵抗の市民を殺す使命は帯びておりません」

 女の目は涙で潤み、体からは力が抜けていた。


〈アトリビュート〉

 自動音声のような声が流れ、ショーマの眼の前に数値が浮かび上がる。

【剣撃・格闘術熟練 LV 15】

〈能力が上がった、ということか? それにしてもLVが15って、高いな…〉

 ここでショーマは気がついた。

 この世界ではもともと、彼の白兵戦での戦闘力は高い。

〈これは俺の強みだ。最大限まで高めていこう〉

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