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 ジョセフ国城を陥落しようと怒濤のように押し寄せるボナパルト帝国兵。

 ついに西門が破壊された。


 門の1階から2階への階段。

 そこに駆け上がってきたのは異様な雰囲気を放つ帝国兵だ。

 大柄な体にスキンヘッド。

 甲冑の上からも隆々とした筋肉の盛り上がりが確認できる。

 その男の後ろから帝国兵が続々と侵入する。

 50人はいるだろう。


 スキンヘッドの男は部隊のリーダーのようだ。

「お前、ショーマだな!」

 眼光鋭くにらみつけながら野太い声を飛ばす。

「そうだ」

 ショーマが答える。

 男が仲間たちに呼びかける。

「野郎ども、こいつがショーマだ、首を取って帰るぞ!」

「オゥーッ!」

 地鳴りのような声で答える帝国兵たち。


 スキンヘッド男を追い越し、次々と向かってくる。

 名刀ブラン・パトリックを構えるショーマ。

 まずは先頭の帝国兵の上段斬り。

 大きなモーションは踏み込み前からショーマに見切られている。

 剣筋を交わすと、ショーマは横から刀を一閃。

 帝国兵の首が吹き飛ぶ。


 続いて左右から2人がショーマに斬りかかる。

 刃の軌道を半身でかわす。

 ショーマは左の男の胴を斬りつける。

 続いて右の男の背中を斬る。

 男たちの体から血しぶきが噴き出す。


 休む間もなく襲い掛かる帝国兵。

 その刃を自らの剣で受け止めて防ぐ。

 鋭く大きな金属音が響き渡る。

 横から別の帝国兵が襲ってくる。

 ショーマは強烈な蹴りを見舞う。

 相手は階段を転げ落ちていく。


 ショーマの名刀ブラン・パトリックにエンジンがかかってくる。

 階段を下りながら、敵兵を次々と斬り飛ばす。

 相手の腕、脚、首を次々と吹っ飛ばしていく。

 ショーマに斬られ、階段を転げ落ちていく敵兵たち。 

 全員を倒し、階段を下りきる。

 だが、さすがのショーマも肩で息をし始めていた。


 1階に降りて待っていたのは、スキンヘッドの男だった。

「よくも俺の部隊を……許さん!」

 刀をショーマに向ける。

 その構え。

 他の兵に比べて隙が無い。

 力量はニコラ少将レベルであろう。

 いつものショーマであれば問題なく勝てる相手だ。

 しかし今のショーマは疲れ切っていた。

 脚には疲れにより乳酸が溜まり鉛のように重い。

 敵の剣を防ぎ続けた腕は衝撃を受け続けて完全に痺れている。

 体が熱い。

 呼吸もまったく整わない。

 スキンヘッド男の剣が、かすんで見える。

〈ヤバいな……〉

 ショーマがあとずさりする。

 それを見てスキンヘッド男がジリジリと距離を詰めてくる。

 男が叫ぶ。

「大将軍ショーマの首を獲るのは俺だ!」

 刀をショーマに向かって振り下ろす。

 ショーマは身をかがめながら、自分の剣で受ける。

 耳をつんざく鋭い音が響き渡る。

 ショーマの顔がゆがむ。

 それを見てニヤリとする男。

「これでもらった!」

 真横から鋭く斬りつける。

 これも剣で防ぐショーマ。

 しかし態勢が崩れ、体が傾く。

「もう動けまい! ここだっ!!」

 ジャンプして斬りかかる男。

 確信を持って剣を振り下ろす。

 わずかな接触音。

 布切れが宙に舞う。

 ショーマの軍服の布地だ。

 次の瞬間、ショーマがスキンヘッド男の背中を取っていた。

 男が力んでジャンプした瞬間を見逃さず、高速で回り込んだのだ。

 目を見開く男。

 ショーマが彼の背中に刀を振り下ろす。

 激しく鮮血が飛び散る。

 スキンヘッド男の体が崩れ落ちる。

 その口が、わずかに動く。

「なぜオマエはそんなに強いのだ…」

 横目で身ながらショーマが刀をさやに収める。

 そしてつぶやく。

「あなたも強かったよ」

 右腕の軍服がわずかに切り落とされ、地肌がのぞいている。

 そこから鮮血がにじんでいる。

 かすり傷ではある。

 しかし異世界に来たショーマにとって、初めて付けられた傷だった。

〈わずかな傷なのに、焼け付くように痛い…〉

 そして汗だくの体。

 足取りも明らかに重い。

 体がもう、動いてくれない。


 そこに次々と飛び込んでくる偵察兵。

「東門が突破されました!」

「裏門も陥落しました! 続々と帝国兵が乗り込んで来ます!!」

 天を仰ぐショーマ。

 戦える兵は、もうわずかだ。

〈もはや、これまでか……〉

 鉛のように重く、痛みが走る体。

 かすみ始めた目。

 息切れが止まらない呼吸。


 そしてまだ千人はいるであろうボナパルト帝国兵。

 強大な魔術を持つディータ皇帝。

 それに対してジョセフ国軍の戦闘可能な兵士は300人も残っていないだろう。

〈あと少しまで力を尽くしたのに……〉

 そう思うとショーマの悔しさは止まらない。

 そして、どうしても救いたかった人がいる。

〈コレット……〉

 ショーマの目から熱いしずくがこぼれ落ちた。

 初めて味わう「悔しさ」から流れた涙だ。


〈ショーマ……〉

 頭の中に声が響いてきた。

〈ショーマ……〉

 聞き違いではなさそうだ。

 その声に、心を集中させてみる。

〈ショーマ、私です。アリスです〉

「アリス!」 

 思わず、声が出る。

「アリス、どこにいるんだ?」

「お城の庭園です」

 ショーマは言う。

「すぐに行く! 待っててくれ!!」

 と言うや、最後の力を振り絞って走り出す。

 息も絶え絶えに、庭園にたどり着く。

 そこには神々しく美しい姿のアリスがいた。

 そして彼女と同様の姿の女性たちも集まっている。。

 その数、少なくとも20人。

 アリスがショーマに歩み寄って言う。

「ここにいるのは、私の仲間のエルフたちです」

 ショーマが言う。

「俺たちのために、集まってくれたの?」

 アリスがうなずいて、言う。

「あなたたちがお城で歌を歌っていたでしょう。暖かな気持ちが溢れた美しい歌でした」

 ショーマが言う。

「あれはジョセフの国歌なんだ」

 アリスが微笑んで、言う。

「私たちの心に、その響きは確かに伝わってきました」

 アリスが続ける。

「あなたたちは愛する人たちを助けたいと、心から思っているのですね」

 ショーマが言う。

「ええ、ジョセフ国歌は愛の歌なんです」

 アリスが言う。

「私の仲間たちは、あなたたちを助けたいと言ってくれました」

 ボナパルト帝国のジョセフ国城への総攻撃。

 アリスは森の霊力を通じて、この危機をエルフの仲間に伝えた。

 すると仲間たちはジョセフ国城の庭園に集まってくれた。

「本当にありがとう」

 とショーマが感謝を伝える。

「お仲間の多くが精神攻撃魔術で心を操られています。私の加護だけでは力不足でした」

 ショーマは首を振って、

「いや、ありがとう。君の加護がなければ俺も戦えていなかった」

 と言う。

 アリスも穏やかに首を振り、柔らかな表情で、こう告げる。

「今度は集まったエルフ全員で、森からの加護を皆さんに全力でお伝えしていきます」

 そう言うとアリスは仲間たちの方に戻った。

 彼女たちは全員で丸い輪をつくる。

 そしてひざまづき、目を閉じて、祈りを捧げる。

 エルフたちの輪が柔らかく暖かい白い光に包まれていく。

 すると光は勢いを増しながら大きく強く広がる。

 やがて輝きはジョセフ国城の全域を包んでいく。


 精神攻撃魔術にかけられた大量の兵士たち。

 その多くを収容した救護室に変化が起きた。

 寝かされていた兵士たちが次々に身を起こしていく。

 うつろな表情だった彼らの目には輝きが戻っていた。

「俺たちは何をしているんだ」

 救護室の兵士たちは言う。

「みんな、戦場に戻るぞ!」

 誇りと力を取り戻した男たちが、勢いよく救護室を飛び出していく。


 裏門ではダグラス隊が戦っていた。

 激しく剣を交える音があちこちで響き渡る。

 陥落した門から300人以上のボナパルト兵が突入している。

 これを押しとどめているのは100人ほどのダグラス隊兵士。

 攻撃魔法に耐え抜いた心の強い兵士が残って戦っていた。

 しかしじりじりと戦線は後退する。

 もはや防衛線を破られるのも時間の問題だった。


「またせたな!」

「出遅れた分、取り返すぞ!!」

 口々に叫びながら、そこに屈強な男たちがなだれ込んできた。。

 精神攻撃魔術が解けたダグラス隊の兵士たち300人だ。

 戦闘中のボナパルト兵たちに突撃。

 勢いよく斬りかかっていく。

 突然の奇襲に対応できないボナパルト国兵たち。

 次々と急所を斬られ、血しぶきを上げながら倒れていく。

「おまえたち、よくぞ来てくれた!」

 ダグラス中将の顔が喜びにあふれる。

 そして部隊へ声を張り上げる。

「勝負はこれからだ! 一気にひっくりかえす!!」

 そこにいたジョセフ兵士たちも大声でこれに応え、帝国兵に襲い掛かっていく。


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