金色の光
セリアンの森。
そこに突然、現れた金色に輝く泉。
エルフのアリスの美しい姿を照らすように輝きを放つ。
それを囲むジョセフ国の全兵士。
ショーマをはじめ、全員が彼女にひざまずく。
アリスは懸命に祈りを捧げる。
すると森の木々や、泉の湖面から、細かい金色の光の粒が浮かび上がる。
光の粒子は宙を移動していく。
やがてそれらの粒は兵士たちの頭上へと集まり金色の光の塊となる。
まぶしいばかりの輝きが兵士たちを包み込む。
アリスが、
「グレースフォレス!」
と唱えると、金色の光の粒子は下に降りていく。
そして兵士たちの体の中に溶け込んでいく。
金色の粒子がすべて兵士たちの体に吸い込まれていくと、アリスは地面に崩れ落ちた。
「アリス!」
ショーマが駆け寄って彼女の細い体を支える。
「大丈夫か?」
アリスの口元に耳を当てる。
かすかだが、息遣いは聞こえる。
気を失っているだけのようだ。
ショーマは兵士たちに言う。
「アリスは俺が様子を見ます。皆さんは、明日の戦いに備えて休養を取ってください」
兵士たちは敬礼して、解散していく。
アリスは、しばらく眠っていた。
美しい寝顔だった。
やがてショーマの腕の中で目覚めるアリス。
「私、どうしていたんですか?」
「加護を与えてくれている最中に気を失ったんだ」
ここで、ショーマの腕の中にいることに気が付いたアリス。
慌てた様子になる。
「ごめんなさい。私、変なことになっていませんでしたか?」
「いいえ、美しい寝顔でしたよ」
それを聞いて顔を赤らめるアリス。
「大丈夫ですか? 顔が赤いですよ」
たずねるショーマに、アリスの顔はますます赤くなる。
「もう、大丈夫ですから!」
とアリスは恥ずかしそうに身を起こす。
「ありがとう。みんなに加護を与えてくれて」
ショーマが言うと、アリスは真顔になって聞く。
「みなさんに加護はうまくいきわたったのでしょうか?」
「……だと思いますよ。金色の光が、みんなの体に吸い込まれていきましたから」
「そうですか、よかったです」
アリスは笑顔になる。
「みんなのために力を使い果たすほど頑張ってくれて、とても嬉しかったです」
「私も皆さんのためになれて嬉しいです、それに…」
アリスが続ける。
「ボナパルト帝国の侵略で悲しい思いをする人が、これ以上、増えないように…」
「もちろんです」
ショーマがアリスを真っ直ぐに見つめる。
「アリスのためにも明日は必ず勝ちます!」
ショーマは力強く言った。
翌朝。
この日はコレットがディータ皇帝に献上される日でもあった。
しかしディータ皇帝の関心は今、そこにはなかった。
血走った目を吊り上げ、歯ぎしりをする。
激しい怒りが、ディータ皇帝の心のすべてを支配していた。
皇帝専用の食材倉庫がジョセフ国軍に破壊された。
ここには彼の命令で贅沢な品や珍しい食材が集められていた。
皇帝はそれを何よりも楽しみにしていた。
だが全てが消えた。
彼にとっては絶望的な状況だ。
今、ディータ皇帝の支配下にある軍隊は千人。
精鋭中の精鋭を集めている。
鬼の形相でディータ皇帝は兵士たちに命じた。
「ジョセフ国城に進撃せよ。奴らを皆殺しだ!」
首都セントアンのジョセフ国城。
ショーマは偵察兵とともに、自ら見張り塔に立つ。
やがてボナパルト帝国の大軍勢が望遠鏡で見えてきた。
ショーマはアーマーレングス砲隊に指示を出す。
「間もなく射程距離です。砲撃を開始してください!」
城内に轟音が響く。
第一陣の10発の砲弾が発射され、帝国軍に向かう。
大爆発が次々と起き、先頭の敵兵たちを吹き飛ばしていく。
続いて第二陣の砲弾が発射される。
後方に続く帝国兵たちに命中し、炎と白煙が巻き起こる。
砲撃はしばらく続き、帝国兵を蹴散らしていく。
だが、吹き飛ばしても吹き飛ばしても、ボナパルト帝国軍の人波は続く。
帝国兵団との距離が、かなり詰まってきた。
ショーマは接近戦に備え、弓兵隊に声をかける。
「迎撃の準備をしてください」
だがその瞬間、帝国軍の中央を更新する馬車が停まった。
そのドアから人影が現れる。
ディータ皇帝だ。
それを見たジョセフ国軍兵士たちの動きは、一瞬にして固まる。
彼らの目は凍りついている。
ディータ皇帝は全ての者に見せつけるように手の平を広げる。
精神攻撃魔術の発動だ。
そのまま両腕を真っ直ぐに伸ばす。
その標的はジョセフ国城だ。
ショーマが兵士たちに向かって絶叫する。
「みんな気をつけて!!」
怒りで目を血走らせたディータ皇帝。
力の限りの大声で唱える。
「ハルシネーション!」
時空がゆがむような衝撃。
全身が引きちぎられて、気を失いそうだ。
とてつもなく長い苦痛の時間。
ショーマは、なんとか耐え抜いた。
しかし、一緒にいる偵察兵の様子がおかしい。
「大丈夫ですか?」
偵察兵が、うつろな目をして、ショーマに言う。
「ママ、大丈夫だよ。でもなんで、こんなところにいるの?」
彼の目にはショーマが自分の母親に見えているようだ。
精神攻撃魔術にかかってしまったのだ。
〈アリスの言う通り、加護を受けても、かかってしまう者はいる〉
ショーマは偵察兵を休憩所に連れていき休ませる。
そして精神攻撃を耐えた兵士に声をかけ、見張り塔の監視を交代させた。




