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献身

 翌日。

 ジョセフ国北部、海沿いの街・ザレンビー。 

 敵のボナパルト帝国はここに軍事基地を構えている。

 夜明け前で、まだあたりは少し薄暗い。

 沈黙があたりを支配している。

 

 突然の砲弾の音が、静寂をつんざいた。

 ボナパルト帝国軍基地の兵舎と兵器倉庫が大爆発を起こす。


 砲弾の音はさらに重なる。

 爆発は広がっていく。


「敵襲だ! 迎撃せよ!!」

 帝国軍の監視兵が叫ぶが、もう遅い。

 爆発と炎上は基地全体に広がっている。


 かろうじて難を逃れた、わずかな兵士たちが飛び出してきた。

「いったい、どこから攻撃されているんだ!?」

 兵士たちが血まなこになって、あたりを探し回る。

「向こうに敵の大砲隊がいるぞ!」

 一人の兵士が叫ぶ。

 ボナパルト兵たちは一斉にその方向を見る。

 いつも帝国軍が使っている演習用の広場だ。


 そこにいたのはショーマの戦いの秘策。

 ジョセフ国軍のアーマーレングス砲隊だった。 


 帝国兵が叫ぶ。

「なぜ俺たちの基地の中に、敵の兵団がいるんだ?」


 しかしお構いなしにアーマーレングス砲隊は大量の弾を撃ち込んでいく。


「おい、まずいぞ! ディータ皇帝の食材庫が燃やされる」

 リーダー格の帝国兵が青ざめて叫ぶ。

 他の兵士たちも騒ぎ始める。

「皇帝の大好物が保存されているあの倉庫が焼かれたら…」

「俺たちはただでは済まない」

 帝国兵団はディータ皇帝の食糧庫の消火に走る。


 しかしアーマーレングス砲隊は倉庫を狙って撃ち込まれる。

 大爆発を起こして砕け散っていくディータ皇帝の食糧倉庫。

「あああっ、これで俺たちはおしまいだ」

 帝国軍の兵士が頭を抱える。


 わずかに生き残った帝国軍の兵士は再集結する。

「このまま全滅するわけにはいかない! 奴らを攻撃するぞ!!」

 アーマーレングス隊に向かって一斉に突撃する。

 しかしそこを狙い澄ましてアーマーレングス砲が撃ち込まれた。

 帝国軍の兵士たちが大爆発に巻き込まれ、炎に包まれる。


 帝国軍基地を焼き尽くしたアーマーレングス砲隊。

 砲弾を使い果たすと、すうっとその場から、姿を消していく。


 姿を消したアーマーレングス砲隊は、ジョセフ国城の広場に姿を現した。

 

 ショーマが彼らを出迎え、こうねぎらう。

「ありがとうございます。素晴らしい活躍でした」

 敬礼するアーマーレングス砲隊員たち。

 その目は充実感と満足感であふれている。


 少し遅れて、空から飛んできた影が見えてくる。

 竜のファヴィアンだ。

 背中にマリエッタを乗せている。


 ファヴィアンとマリエッタに対して全員が敬礼する。

 マリエッタの瞬間移動魔術。

 その力がアーマーレングス砲隊を帝国軍基地の中に送り込んだ。

 そして攻撃を終えるとジョセフ国城内に全員を送り返した。

 マリエッタを乗せ、空を飛んでくれたのがファヴィアンだ。

 帝国軍の基地上空を飛行。

 マリエッタは戦況を見ながら的確に指示を送ることができた。


 ファヴィアンが地上に降り、優しくマリエッタを降ろす。

 一同から拍手が巻き起こった。

 マリエッタはショーマに駆け寄ってくる。

 彼女の瞳から涙があふれる。

 戦場で怖い思いをしてきたのだ、無理もない。 

 ショーマに思い切りしがみついてきた。

 彼女の長い髪が揺れてショーマのほおを撫でる。

 甘い花の香りがショーマの鼻をくすぐる。

 ショーマは彼女の頭に手をやさしく置いて、いたわる。

 マリエッタはショーマの胸の中で、静かに泣き続けた。


 ボナパルト帝国が占領中のジョセフ国北部。

 その主要都市・フローラル。

 ディータ皇帝は、コレットの身柄の献上を受けるため、ここに滞在していた。

 そこに伝令から、ボナパルト帝国軍の基地壊滅の知らせが入った。

 皇帝の目が激しく吊り上がる。

 すぎさま伝令に詰問する。

「私の食材倉庫は無事か?」

 伝令は申し訳なさそうに、

「残念ですが、そちらも焼けてしまいました」

 と言うと、

「なんだと!」

 ディータ皇帝は手に持っていた扇子を床に叩きつけた。

 その顔は鬼と化していた。

 伝令に怒鳴り声をあげる。

「残りの全軍に伝えよ! 戦闘準備だ!! 明日、出撃する!!!」

「進軍先はどちらですか?」

「セントアンのジョセフ国城だ! 食材を焼いた奴らを皆殺しにする!!」


 その頃ショーマは全兵士たちをセリアンの森に集めていた。

〈ディータ皇帝はすぐに攻めてくる〉

 そして精神攻撃魔術でジョセフ国兵士の殲滅を狙うだろう。

〈この攻撃に耐えるための耐性が、ジョゼフ国軍の兵士たちに必要だ〉

 いま頼れるのはエルフの森の加護だけだった。

 そのためショーマはあらかじめ、アリスに声をかけていた。

 そしてこの日、兵士たちにエルフの森の加護を与える儀式をしてもらえるよう頼んでいたのだ。


 アリスは暖かく白い光に包まれて森の中にいた。

 金髪の長い髪に青い瞳。

 白い肌がまぶしい緑色のワンピース。

 彼女は柔らかな微笑みを浮かべる。

 そして兵士たちを森の奥へと導く。

 そこには金色に輝く泉があった。


 泉のほとりでアリスはひざまずく。

 ショーマをはじめジョセフ国の全兵士。

 彼らもアリスにならい、両手を組んでひざまずく。

 そして祈るように彼女を見守る。


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