炸裂
決戦の日がやってきた。
ショーマとリベリー元帥は、首都セントアンのジョセフ国城で指揮を執る。
敵のボナパルト帝国には軍勢の数で劣っている。
しかし秘策があった。
セリアンの森に隠れるアーマーレングス砲隊と、騎馬隊だ。
彼らが奇襲をかけて戦力差をひっくり返す。
兵士たちの意気も大いに上がっている。
しかしそこに、偵察兵が青ざめた顔で駆け込んできた。
「ボナパルト帝国がとんでもない数の軍勢で来襲しています」
戦前の予想は敵軍5千人。
リベリー元帥がつかんだ情報をもとにした予想だ。
しかし偵察兵の報告は、
「1万人はゆうに超えています!」
ショーマは頭を抱えた。
セリアンの森にひそむ攻撃隊では対応しきれない。
アーマーレングス砲の数は20台のみ。
騎馬隊の数も千人にも満たない。
彼らはショーマからの攻撃の指示を待っている。
だがショーマは攻撃指令を出すことができない。
リベリー元帥が言う。
「あまりに戦力差が大きいな」
「そうですね」
ショーマが腕組みをする。
「攻撃の指示を、ためらっているのか?」
「ええ……」
そう言って、うつむくショーマ。
突然大きなドアの音が響いた。
偵察兵が飛び込んできた。
青ざめた声で告げる。
「セリアンの森にも帝国軍が来襲しました」
「なんだと!?」
「敵軍は5千人はいます!」
ショーマが目を見開く。
偵察兵が言う。
「アーマーレングス砲隊と、騎馬隊が潜伏しているのを見破られてしまったようです」
肩を落とすショーマ。
言葉もない。
リベリーが言う。
「もう潮時かもしれんな。我々の負けだ。ジョセフ国城を明け渡して撤退しよう」
ショーマがうなずく。
そして偵察兵に言う。
「全軍に伝えてください。南部のサンジェ基地まで全軍撤退!」
一方のボナパルト帝国軍。
勢いのままジョセフ国首都・セントアンへ堂々と進軍する。
市民たちは怯えて逃げ惑う。
黒い甲冑を身にまとった兵士たちの不気味な行進は続く。
街を彼らの黒い影が覆い尽くし始めた。
華やかだった首都セントアンの街の美しさはすっかりよどんでしまった。
ショーマたちが完全撤退して、ジョセフ国城も全くの無人になった。
帝国軍は足並みをそろえて進軍していく。
ジョセフ城の門をこじ開け、中へと行進していく。
1万人の大軍勢が続々とジョセフ国城を埋め尽くしていく。
軍勢の先頭が天守閣の最上階へと昇る。
そのとき、大爆発が最上階で起きた。
爆発の連鎖は城の各階で次々と起きて帝国軍の兵士を巻き込んでいく。
同時に城内の全域で次々と大量の爆発が起きる。
時限爆弾が各所に仕掛けられていたのだ。
ボナパルト帝国軍の大軍勢が次々と巻き込まれていく。
ジョセフ国城は炎と黒煙に包まれた。
しばらくすると爆発を逃れた帝国軍の兵士たちの姿が見えてきた。
彼らは城を脱出しようと、門に向かって集まってくる。
するとそこに向かって砲弾が飛んできた。
帝国軍の兵士を大爆発で吹き飛ばす。
その圧倒的な威力はジョセフ国のアーマーレングス砲に間違いなかった。
飛んできた方角は彼らが隠れていたはずのセリアンの森ではない。
そこから遠く離れたルーベルの森林からである。
なぜジョセフ国軍のアーマーレングスがそこから放たれたのか――?
いっぽう、ジョセフ国南部のサンジェ基地。
戦線から撤退した兵士たち。
ショーマは彼らを屋外の演習場へ集めた。
総勢500人ほど。
戦いを放棄しての逃亡。
兵士たちが朝に見せていた目の輝きは、すでに消えている。
皆うつむき加減だ。
ひそひそ話があちこちで聞こえ、ざわついている。
ショーマは彼らの前に出て言う。
「今日は皆さんに残念なお知らせをしなくてはならない」
兵士たちのざわつきが一瞬で消え、次の言葉を待つ。
「我々の中に裏切者がいる!」
空気が変わった。
兵士たちは一斉に背筋を伸ばし顔を上げる。
ショーマは続ける。
「作戦が筒抜けだったのはそのためだ。そのため大きな犠牲も出した」
誰もがショーマを凝視している。
「今回の戦いでも裏切者は動いた。それが誰なのか。それを確かめるため、俺は罠を掛けた」
真相が明かされるのを、兵士たちは固唾をのんで待つ。
「俺が行った第一回の作戦会議はニセモノだ」
兵士たちの間に驚きの声が上がる。
ショーマが続ける。
「その後、裏切者を外して、本当の作戦会議を行ったんだ」
ショーマは兵士たちに、今回の戦いの裏側を語り始めた。
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第一回の作戦会議はショーマの国王発表直後に行われた。
このときは幹部の全員が参加していた。
その内容は身内の「裏切者」によってボナパルト帝国に伝えられた。
ボナパルト帝国はこれに対抗する準備を行った。
首都攻撃の軍勢はジョセフ国軍の5倍を超える数を揃えた。
奇襲攻撃も事前にお見通しだった。
セリアンの森に潜伏するアーマーレングス砲隊と騎馬隊への攻撃部隊もセットした。
しかしその直後。
ショーマは信頼する幹部だけを集めた。
そして第2回の作戦会議を行った。
そこではまったく異なった作戦内容が決定された。
最初の作戦。
ジョセフ国城の籠城戦をおとりにセリアンの森から奇襲攻撃。
アーマーレングス砲隊と主力騎馬隊が一気に攻め込む。
これが全く異なったものになった。
新しい作戦。
いったん籠城するも、早々に負けを認めて城を放棄する。
当然、ボナパルト帝国軍はジョセフ国城を占拠するだろう。
それを見越してショーマは城の全域に罠をかけた。
あらゆる場所に極秘で地雷や時限爆弾を仕掛けた。
同時に、秘策である奇襲攻撃部隊も潜伏先を変更。
セリアンの森ではなくルーベルの森となった。
アーマーレングス砲隊と主力騎馬隊はそこに配置されたのである。
そして戦いは始まった。
「裏切者」は帝国軍にこう報告した。
〈圧倒的な戦力差にジョセフ国軍が恐れをなして城を捨てて逃げた〉
これを受けて帝国軍は続々とジョセフ国城を占領する。
すると城の最上階の地雷が爆発するとともに、全域の時限爆弾も起動。
帝国軍を次々と巻き込み大半を殲滅した。
帝国軍のわずかに生き残った兵士が逃亡を図る。
そこへとどめの砲撃が撃ち込まれる。
ルーベルの森に潜伏するジョセフ国のアーマーレングス砲隊だ。
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「前置きが長くなりました。だけど、あなたが一番よくがわかっているでしょう」
と言うショーマ。
横を振り向き、腕を上げて人指し指を突き出す。
「裏切者はあなただ。リベリー元帥」
険しい顔で腕組みをしていたリベリー元帥。
しかしショーマの指摘を受けると急に笑い出した。
「まさか突き止めるとは思わなかった、ショーマ」
そう言うとリベリーは懐から小さな球体を取り出し、下に叩きつけた。
大きく黒煙が巻き上がる。
「さらばだ!」
ひるんだ兵士たち。
逃げ出すリベリー。
近くの馬を駆って逃げ出しており、その影ははるか遠くなっていた。
騎士たちが馬に乗り追いかけようとする。
それをショーマは制した。
「もう追わなくていい。もう、あの人には何もできない」
そしてショーマは兵士たちに呼びかけた。
「もう裏切者はいなくなった。俺たちはひとつだ!」
ショーマが叫ぶ。
「もういちど、ジョセフ国城に戻って戦おう!」
兵士たちは拳を上げ、怒号のような歓声で応える。




