血闘
黒く不気味に輝くボナパルト帝国の軍事要塞。
そこに、単身で乗り込むショーマ。
5人の帝国兵が飛び出してきた。
しかしショーマは最初の3人を名刀「ブラン・パトリック」で斬り捨てた。
目の前にいるのは、残りの槍兵2人だ。
槍先ををショーマに向け、狙いを定める。
一人目の槍兵がステップを刻みながら槍先を突き立ててきた。
ショーマは体をのけぞらせてかわす。
二人目の槍兵が横から攻撃する。
ショーマはフットワークを使ってよける。
最初の槍兵の穂先がショーマの足元を襲う。
ジャンプしてかわすショーマ。
当たらない攻撃。
それに焦った槍兵の一人は、
「ウォーッ!」
と叫びながら突撃してきた。
その槍を刀で一閃するショーマ。
槍は真っ二つに斬られた。
棒を手に呆然とする兵士。
ショーマが斬りかかる。
槍兵が血しぶきを上げてのけぞり、仰向けに倒れる。
ショーマが最後の一人を見やると、背中を向けて全力で逃げ去ろうとしている。
槍は地面に放り出し、乗ってきた馬に飛び乗り、近くの森へ逃げ込んでいく。
ショーマは深追いはしない。
さらにボナパルト帝国の軍事要塞へと歩みを進める。
すると再び、軍事要塞の門が空いた。
要請を受けて出動したボナパルト帝国の迎撃隊だ。
甲冑に身を包み、刀や槍を手にした騎兵たちが次々と現れる。
数えきれないほどの人数だ。
帝国軍の兵士たちは、余裕たっぷりに話を交わしながら進んでくる。
「相手は誰なんだ?」
「たった一人だとよ」
「ハハハ、すぐに終わるな」
そんな言葉が飛び交っている。
その数、50人はいるだろうか。
と同時にロングボウを携えた弓矢の軍団が一気に出てきた。
横一列に広がって発射準備を始める。
ショーマは構わず歩き続ける。
弓兵たちが一斉に矢を放つ。
雨あられのように向かって来る数十本の弓矢。
その半分ほどがショーマの身体をとらえた。
石と金属が激突する鋭い衝撃音があたりに響き渡った。
しかし矢は、ショーマの体に突き刺ささらない。
虹色に光る甲冑に押し戻されるように、すべて跳ね返された。
「なんだと!」
「なんだ、あの虹色の鎧は!?」
ボナパルト帝国の弓兵たちの間に動揺が走る。
一方、こちらはボナパルト帝国軍事基地の指令室。
おもむろにドアを開けて入って来たものがいる。
物音に驚いたシュルツ大佐が振り向く。
そこには、ナタリー姫がいた。
「騒がしいわね。何が起きているの?」
シュルツ大佐が敬礼で迎えて、こう言う。
「何者かが軍事要塞に攻撃を始めております!」
最初は完全に油断していた帝国軍の迎撃隊。
しかしロングボウをすべて跳ね返されると顔つきが変わった。
一気に緊張感が高まっている。
騎兵隊の隊長が号令をかける。
「総員、突撃せよ!」
帝国軍の騎士たち数十人が、一斉に馬をスタートさせた。
目指すはショーマの首だ。
ショーマはそれを見て、手のひらをボナパルト帝国の迎撃隊に向けた。
そして力強く詠唱をかけた。
「ファイアーストーム!」。
するとおびただしい量の炎の柱が天に向かって噴き出した。
渦を巻くように、あたり一面に広がる。
向かってきたボナパルト帝国の騎兵隊は、あっと言う間に巻き込まれる。
ものずごい火炎の勢いに包まれ、その姿は消えていく。
ボナパルト帝国軍の指令室。
シュルツ大佐が頭を抱える。
「恐ろしい攻撃力だ! 奴の正体はいったい誰だ!?」
いまだ仮面に包まれたままの、謎の男に戦慄している。
するとナタリーが不気味な笑みを浮かべながら言う。
「あれはショーマよ」
シュルツ大佐が驚いて聞く。
「ジョセフ国軍から追放された、あの男ですか?」
ナタリーはうなずく。
「ええ、帰ってきたのよ」
そしてこう言う。
「面白いくなってきたわ。ソイルコマンダーとフラッディを出動させて」
「承知しました、姫様」
シュルツ大佐が敬礼する。
ナタリーが言う。
「私はレティシアを連れて外に出るわ。ショーマの最期を目の前でを見せてあげたいから」
その間にもショーマの「ファイアーストーム」は猛威を放っていた。
そして横一列に広がっていた帝国軍の弓兵に襲いかかる。
阿鼻叫喚の悲鳴が上がる。
猛り狂う炎は最後に、後ろに待機していた歩兵たちへと向かう。
約50人を飲み込んで、そのまま焼き尽くしていく。
ショーマが放浪の中身につけた「ファイヤーストーム」。
想像以上の攻撃力で敵を焼き尽くす。
ボナパルト帝国の迎撃隊を、あっという間に黒い炭と灰に変えてしまった。
「見事なお手並みね、ショーマ」
その声に振り返ると、ナタリー姫がいた。
帝国軍基地の門から、外に出てきている。
傍らには、手をひもで縛られ、さるぐつわをされたレティシアを連れていた。
ナタリーが続ける。
「でも活躍はここまでよ。この場をあなたの墓場にしてあげる」
そしてナタリーは呼びかける。
「フラッディ、出番よ!」
「了解しました、ナタリー姫様」
フラッディは軍事要塞の門の外、ルベーヌ湖に近い位置に立っていた。
もちろん水の魔術師・最強の武器を生かすためだ。
フラッディはショーマに力強く手のひらを伸ばした。
そして確信を持って詠唱した。
「メガ・アトランス!」
ルベーヌ個の湖畔が大きく揺れ、巨大な津波が巻き起こった。
ものすごい量の水が天に昇っていく。
そしてショーマに向かって襲い掛かる。
あたり一面を水の渦が覆い尽くす。
ショーマを深く飲み込んだ水の渦は、恐ろしいスピードで逆流。
ルベーヌ湖の奥深くへと戻っていく。
「見たでしょ、ショーマの最期を」
ナタリーがレティシアにささやく。
「もうあいつは、この世にいないの。あなたを愛するのは、私だけよ」
さるぐつわをされたレティシア。
瞳から大粒の涙がこぼれる。
そのとき、空から大きな魔術詠唱が響いてきた。
「ファイアーアロー」
ショーマの声だ。
全員が、空を見上げる。
竜のファビアンが大きな翼を広げて宙に浮いていた。
その足先はショーマをがっちりとつかんでいる。
詠唱ともに、恐ろしい勢いの炎がフラッディに向かっている。
赤く燃え盛る炎が矢のように宙を飛ぶ。
気づいた時にはもう、その業火がはフラッディの体を貫いていた。
フラッディの苦悶の声。
それさえ消し去るように荒れ狂う炎。
男の体を一気に焼き尽した。
いったい何が起きたのか――。
津波に呑み込まれる寸前。
ファヴィアンが超高速で飛来してショーマをつかみ、空へ急上昇していたのだ。
ショーマはファヴィアンに地上に降ろしてもらい、礼を言う。
ナタリーは目を吊り上げ、鬼のような表情になっていた。
「ソイルコマンダー! ショーマを消して!!」
すると
「承知した」
との声と共に、土の魔法師・ソイルコマンダーが要塞の前に現れた。
ショーマを射程距離にとらえている。
ソイルコマンダーがショーマに言う。
「地上に降りるなんて、油断したなショーマ」
「なんだと!?」
「俺の魔法には下にも上にも逃げ場はない! 竜にも救えないさ!!」
と言うや、ソイルコマンダーは
「アーセンウォール!」
と詠唱する。
ショーマの上方を覆うように空中に広大な土の板が現れる。
と同時にショーマの足元が崩れる。
地盤落下だ。
ショーマを地下に突き落とし、天からの地盤を落下させる。
これでショーマを圧死させる構えだ。
絶体絶命!
その瞬間、ショーマの体が左へと飛翔した。
まるで鳥のように舞い上がり、横へ空中移動している。
「なぜ飛んでいるんだ! 翼もないのに!!」
目を血走らせて叫ぶソイルコマンダー。
その声を尻目に、横へ横へと空中浮遊するショーマ。
元にいた場所は地底へと落下し、巨大な地盤がそこに落ちる。
大きな地震が起きる。
しかし犠牲者はいない。
ショーマは空中から落下しながら詠唱する。
「ファイアーブラスト!」
照準の先はソイルコマンダーだ。
地獄のような業火が彼を直撃。
断末魔の声を上げるソイルコマンダー。
その体が焼き尽くされて消えてゆく。
なぜショーマの体が空中移動したのか――。
それはファビアンの強力な羽ばたきによる風圧だった。
激しい羽ばたきによる嵐がショーマの体を左上方に吹き飛ばしていたのだ。
しかしショーマは空中高くから落下している。
その体を落とさないよう、ファヴィアンが高速で飛来して背中で受け止めた。
ファビアンは再びショーマを地上にそっと降ろす。
「命の恩人だよ」
頭を下げるショーマにファヴィアンは、
「貸しにしておいてやるよ」
と親指を立てる。
ショーマが続ける。
「それだけじゃない。もらった竜のウロコで鎧と兜も作らせてもらったしね」
「虹色に輝いて最高だったろ!」
「ああ、矢を全部跳ね返したよ。貴重な素材をありがとう」
「脱皮の時期にいつも貯まるから大丈夫だよ」
ファビアンがウィンクする。
収まらないのはナタリーだ。
「おのれショーマ! 私の可愛い部下を2人も!!」
怒りが頂点に達している。
「私がかたきを取る!」




