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宿命

 ショーマから将軍の座を奪い返したクラウス将軍。

 リベンジに燃えて全てを賭けた勝負に挑む。

「ボナパルト帝国軍を叩き潰す!」

 そして新兵器・アーマーレングス砲の隊員に司令を下す。

「敵の魔術師・フラッディとソイルコマンダー、2人ごと吹き飛ばすぞ!」

 アーマーレングス砲は”魔術以上”のスピードと威力を誇る。

 クラウス将軍はこう続ける。

「連射だ! 魔術師が防げない砲弾を連射するんだ!!」

 砲兵たちが慌ただしく動き出す。

 発射レバーが引かれ、合計4発の砲弾が続けざまに放たれた。


 対岸の帝国軍・水の魔術師・フラッディ。

 飛んできた4発の砲弾を見て、ソイルコマンダーに向かって言う。

「こっちの2発は引き受けた。そちらの2発は頼む」

「任せとけ!」

 土の魔術師ソイルコマンダーも威勢よく返事する。

 そして両手を最初の砲弾に向ける。

「アーセンウォール!」

 すぐに二つ目に向かって、

「アーセンウォール!!」

 と続けざまに詠唱。

 すると巨大な土の壁がふたつ現れ、砲弾に立ちふさがる。

 一方のフラッディも、それぞれの砲弾に両手を向けて、

「アクアウォール!」

 と続けざまに2度叫ぶ。

 すると大きな津波がふたつ現れ、砲弾の前に立ちふさがる。


 巨大な閃光と爆発音が4度に渡り、空気と地面を大きく震わせた。

 炎と煙であたりは何も見えなくなる。

 爆炎の間から、次第に帝国軍の軍事基地の姿が見えてくる。


 最強の威力を誇るアーマーストレングス砲弾。 

 しかし帝国軍の基地には傷一つ付いていない。


 クラウス将軍は鬼のような顔になっている。

「ええい、どんどん撃って撃って撃ちまくれ!」

 将軍の指示通り、アームレングス砲を連射していくジョセフ国軍の砲兵。

 しかし帝国軍の魔術師2人が、すべて基地の手前で爆破する。


 帝国軍の水の魔術師フラッディ。

 額の汗をぬぐいながら。土の魔術師ソイルコマンダーに言う。

「こうなったら、我慢比べだな」

「ああ、奴らの砲弾の音ががなくなるか、我々の魔力が尽きるか」

 とソイルコマンダー。こう顔をしかめる。

「面倒くさいことに巻き込まれたものだ」


 弾薬も200発に近づいてくる。

 魔術師が作る津波と壁。

 そこにも次第に疲れが見え始める。

 フラッディの津波は迫力を失い、ソイルコマンダーの壁もサイズが怪しくなってきた。


 そしてまた、二つの砲弾が飛んできた。

「アクアウォール!」

 フラッディが詠唱する。

 しかし閃光が走らない。

「魔力切れだ! もう魔術が発動しない!!」


 ジョセフ国軍のアーマーレングス砲弾が、ついに帝国軍基地を直撃する。


 そう思った寸前、

「アーセンショット! アーセンショット!!」

 とソイルコマンダーが叫ぶ。


 岩の防壁が二回に渡り発動する。

 着弾寸前のアーマーレングス砲2発をとらえた。

 空中で大爆発させて、基地はなんとか無傷のままだ。


 一方のジョセフ国軍・クラウス将軍は膠着した戦況に焦っていた。

「おい、連射はどうした!?」

 アーマーレングス砲隊に向かって怒鳴る。

 隊長が言う。

「弾が尽きました。合計200発、使い切りました」

「うぬぬ……」

 声にならない、うめきを漏らすクラウス将軍。


 するとロシュトー少将がクラウス将軍に言う。

「もう魔術師の魔力は尽きているはずです。今なら彼らの大技は発動しません」

 クラウス将軍がうなずく。

 ロシュトー少将が続ける。

「白兵戦であれば我々が有利です。私の部隊に突撃させてください」

 クラウス将軍が言う。

「わかった。君に最後の望みをつなげる」

 ロシュトー少将は右手の拳を握りしめて、

「任せてください!」

 と力強く言う。

 彼も戦果なしで帰るわけにはいかないのだ。


 ロシュトー少将の部隊はボナパルト帝国軍の基地に突撃を開始した。

 陣容は騎馬隊と攻城部隊を合わせ500人。

 ルベーヌ湖を回り込んで攻め込む。


 すると敵軍基地の前に迎撃部隊が待ち構えていた。

 まるでロシュトー少将の突撃が以前からわかっていたように。

「おのれ、やはりスパイがいるのか! どこまでも卑劣な奴らめ!!」

 ロシュトー少将が怒りをあらわにする。

 そしてボナパルト軍の敵将を睨みつける。


 そこで、ロシュトー少将は気が付いた。

 帝国軍・迎撃部隊の中央にいる敵将は、魔術師ではない。

 

 それは伝説でしか聞いたことがなかった人物の姿だった。

 金髪に青く鋭い瞳、たくわえた口ひげ。

 他ならぬ帝国軍の大ボス・ディータ皇帝だった。

「敵国の皇帝が、なぜ、今、ここにいるんだ?」

 ロシュトー少将が叫ぶ。

 ディータ皇帝はうっすらと微笑みを浮かべながら言う。

「ジョセフ国は、なかなかしぶとい」

 そしてこう続ける。

「ですから。ご挨拶でもしようと思いましてね」

「なんだと!?」

「ここまで、よく頑張りました」

 そう言うと、ディータ皇帝は、ジョセフ国軍に向かって腕をいっぱいに伸ばし、

「とっておきの精神魔法をかけてあげましょう」

 と言うや、

「ハルシネーション!」

 と詠唱した。


 するとロシュトー少将が率いる部隊の動きが、ぴたりと停まった。。

 それを見て、ボナパルト帝国軍の兵士が、ジョセフ国に一気に切り込む。


 ロシュトー少佐の目には、異様な光景が映っていた。

 槍を持って向かってくるのは、自分が最も愛している妻。

〈なぜ、妻が俺を殺しに来るのか?〉

 まったくわからない。

 しかし考える前に、ロシュトー少佐は刃物で自分の胸を貫かれていた。

「夢なら覚めてくれ……」

 その言葉を言い残して。


 部隊の他の兵士たちも同様の光景を見ていた。

 自分が最も愛する者が、自分を襲って来る。

 それは大切な子供、あるいは恋人、あるいは親友。

 なのに……自分に斬りかかって来る。

 考える間もなく、殺される。


 ボナパルト帝国のディータ皇帝が操る精神魔法は恐ろしいものだった。

 目の前にいる人間が、すべて自分が最も愛情を抱く人物に見えてしまう。

 そのためジョセフ国の兵士はみな、無抵抗で殺されてしまうのだ。

 

 ルベーヌ湖の対岸。

 ジョセフ国のクラウス将軍はまさに悪夢を見ていた。

 ロシュトー少将の部隊が抵抗する術もなく全滅していく。

 朝に千人いた部隊は、もう4分の1も残っていない。

 弾薬も兵器も使い果たした。


 クラウス将軍は無言で従者たちを連れて退却する。


 その日以来、クラウス将軍の姿を見た者は誰もいない。



 翌日のジョセフ国城。

 ベルント国王は絶望的な表情だった。

 ジョセフ国軍はもはや解散状態。

 ボナパルト帝国軍の侵攻に対して抵抗する兵力はなかった。

 王室も宮廷も明日のことはわからない。

 

 そしてジョセフ国の姫であるマリエッタ姫の立場も、より悪くなってしまった。

 そもそもショーマとの遠征に帯同したことで、厳しい監視下にあった。

 より戦局が悪くなった今、いつ人質として敵に差し出されてもおかしくない身となった。


 翌日、ジョセフ国城が大騒ぎとなった。

 マリエッタ姫が忽然(こつぜん)と姿を消してしまったからだ。


 竜のファヴィアンはジョセフ国の上空を飛んでいた。

 あちこちを飛び回り、ショーマの行きそうな場所を探る。

 そしてようやく、その姿を見つけた。

 そこは見渡す限り荒れ果てた大地。

 ショーマ以外、人影は全くない。

 ボロボロの姿になっているショーマ。

 全身傷だらけ、服も汚れ切っている。

「やはりここにいたのか」

 ファヴィアンが呆れたように言い、こう続ける。

「ショーマ、どうせ修行していたんだろう?」

 ショーマが答える。

「ああ。火の魔術を極めるだけ極めていたんだ。しかし見つかるとは思わなかったな」

 するとファヴィアンが言う。

「のんきなこと言っている場合じゃないよ」

「どういうこと?」

「コレットが大変なんだ」

 それを聞いてショーマの表情が変わる。

「教えてくれ、今、コレットがどうなっているかを」

「知らなかったのか」

 とファヴィアンは呆れたように嘆く。

「コレットはラクロワ家に監禁されたよ」


 ショーマはうつむいて、言う。

「俺のせいだな……」

「彼女がショーマに会うことを禁じられていることはもちろんだ」

 ファビアンはそう言って、こう続ける。

「それどころか、ラクロワ家はコレットを敵国のボナパルト帝国に嫁がせるため、敵国にその身を渡してしまった」

「なんだって!?」

「ジョセフ国を見限って、生き残りに必死だ。もはや政略結婚というより、人身売買だよ」

 ショーマは歯ぎしりする。

「自分の娘をそんな目に……」

 ファビアンもうつむき加減で言う。

「コレットはもうしゃべることもできず、泣いてばかりだ」

 ショーマは押し黙る。

 ファヴィアンが言う。

「ショーマにひと目、会わせてあげたいよ」

 ショーマが言う。

「コレットにもファヴィアンにもそんな思いをさせて、申し訳ない」


 少し間を空けて、ファヴィアンが言う。

「報告はそれだけじゃないんだ」

「えっ!?」

 と驚くショーマ。

「私はコレットの味方だから、これを伝えるのも、どうかと思うんだが……」

 と前置きして、ファヴィアンが言う。

「マリエッタ姫が誘拐された」

「なんだって!?」

 と思わず声を上げるショーマ。。

「彼女はショーマに会うためにジョセフ国城を抜け出した」

 と言うファヴィアンがこう続ける。

「ショーマに会おうとエルヴィン邸に向かう途中、潜入していたボナパルト帝国兵に拉致された」

 すっかり青ざめるショーマ。ファヴィアンにこう尋ねる。

「彼女は無事なのか?」

「危害は加えられていないだろう。彼らにとって利用価値は高いからね」

 うなだれるショーマ。なんとか声を絞り出す。

「教えてくれてありがとう」

「礼にはおよばない」

 と言うファヴィアン。こう続ける。

「もうひとつ報告があるんだ」

 ショーマがうなずく。

 ファヴィアンが言う。

「ディータ皇帝が現れ、恐ろしい精神攻撃を仕掛けてきた」

「精神攻撃?」

 ショーマは顔を上げて聞く。

「ああ。その攻撃でロシュトー部隊が全滅。クラウス将軍が敗走した」

「どんな攻撃なんだ?」

「わずかに生き残った兵士が証言するには、目の前にいる人物がだれであろうと、最も親愛を抱く人に見えてしまうそうだ」

「たとえ戦闘中の敵でも?」

「そう。だから妻、恋人、親、子供に見えてしまい、そのまま殺されてしまう」

「そんな魔術、許されていいのか?」

 思わずつぶやくショーマ。

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