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死の予感

 ボナパルト帝国軍の反撃は100人ほどから始まった。

 北部の海岸から再上陸しての侵攻。

 その強さは恐ろしいものだった。

 魔術師フラッディの津波魔術。

 サンタナ騎馬隊はその威力に一瞬で全滅した。

 残りのジョセフ国軍は一斉に逃亡する。


 帝国軍は勢いのまま、ジョセフ国の内部に攻め込む。

 上陸部隊に人数も、日に日に数を増す。

 そして千人近くにふくれ上がった。

 手薄な防衛隊は次々と突破される。

 そしてジョセフ国の北部は再び帝国軍に制圧された。

 

 ジョセフ国軍は軍事会議を行う。

 国王も臨席。

 しかし将校は、かつての半分にも満たない。

 がらんとした大広間。


 ベルント国王が自分のあごひげを撫でながらぼやく。

「本当に大丈夫なのか?」

 ショーマは席から立ちあがり、作戦ボードの前に立つ。

「残りの軍勢は少ないですが、作戦を練って敵に対抗します」

 そこにはジョセフ国の地図が描かれている。

 ショーマは北部海岸沿いの都市・ザレンビーを指す。

「ボナパルト帝国軍は今、ここに拠点を構えています」

 ベルント国王が尋ねる。

「ザレンビーは北部でも小さな都市だ。なぜ奴らはそこを拠点にしているのだ?」

 ショーマが答える。

「サンタナ騎馬隊を全滅させた水の魔法師・フラッディの津波攻撃が、そこで最も威力を発揮できるからです。ここで戦う限り、彼らは最強です」

「なるほど。しかしショーマは敵の動向を、どうやってつかんでいるのだ?」

 国王が聞く。

 ショーマが答える。

「竜のファヴィアンの情報網に教えてもらっています」

「そんな情報網を持っているのか!?」

 目を見開いて言うベルント国王。 

 ショーマは続ける。

「逆に、彼らの兵力が集中しているザレンビーを叩けば、我々に活路が出てきます」

「勝算はあるのか?」

「残存兵力が連携すればチャンスが生まれるはずです」

 ショーマは国王と幹部に、作戦を説明する。


 竜のファヴィアンが空から敵の陣容を偵察。

 ジョセフ国の攻撃の主力はオーレル中佐の騎馬隊300人。

 敵の魔術師・フラッディは津波攻撃「メガ・アトランス」を仕掛けてくるだろう。

 そこでマリエッタが空間移動魔術を発動。

 騎馬隊を瞬時にワープさせて「メガ・アトランス」の津波をかわす。

 と同時にファビアンの翼で竜巻を起こし、コレットの風魔法で増幅させる。

 その威力で「メガ・アトランス」の津波をボナパルト帝国軍の拠点へ飛ばし全滅させる。


 国王はようやく希望を見出したように、幹部たちに言う。

「よし、全員の力を合わせ、作戦を成功させよう!」

 幹部たちからも

「やりましょう!」

「いけるぞ!」

 大きな声が次々にあがった。


 ショーマは騎馬隊200人を集め、オーレル中佐の騎馬隊300人とともに出発した。

 行き先はザレンビー。

 コレットとマリエッタも馬に乗って同行している。

 コレットには騎馬隊200人の指揮も頼んだ。

 そして竜のファヴィアンは一足先に、空を飛んで敵の動向を探っていた。

 

 日が一番高くなる前に、海が見えてきた。

 美しい景色、青い空。

 ザレンビーへの道のりは不思議なほど平穏で順調だった。

 かえってショーマは胸騒ぎがする。

 死の予感だ。


 ファヴィアンの手引きで、ジョセフ国軍は海沿いの小高い丘に陣取った。

 騎士500人を抱える十分な広さがあり、そこから敵の軍事基地も確認できる。

 ボナパルト帝国軍の基地は海岸から200メートルほど離れた高台にあった。

 3棟ほどの大きな兵舎に、軍事倉庫が併設されている。 


 ショーマはオーレル中佐の騎馬隊を丘から降ろし、砂浜へ横並びに整列させる。

「オーレル中佐騎馬隊、突撃!」

 ショーマは指令を下した。


 300人の騎兵隊が、一斉に帝国軍の軍事基地に向かう。

 ショーマは丘の上に戻り、その様子を緊張しながら見つめる。

 けたたましい馬の叫びとともに、(ひづめ)が立てる重低音が地面と空気を震わせる。

 しかしなぜか、敵の兵舎から迎撃する兵士は出てこない。

 弓矢一本さえ飛んでこない。

 騎兵隊が基地へと進むと、再び、あの青い髪と瞳の男が兵舎から出てきた。

「私は、海とアクアを司る者・フラッディ」

 男は大騎馬隊の前に立ち、両手を前に突き出した。

 手のひらに青白い光が灯る。


「今だ! マリエッタ」

 ショーマが叫ぶと、すぐさま、

「テレポートフラッシュ!」

 マリエッタが詠唱する。

 すると騎兵隊300人の姿はそこから消えていく。

 しかしフラッディの手から青い閃光が消えている。

 詠唱もない。

「なんだと!?」

 驚きを隠せないショーマ。

「メガ・アトランスが発射されていない!」

 青ざめた顔で叫ぶ。


 消えたオーレルの騎馬隊300人の姿が、再び砂浜に現れた。

 元にいた位置だ。


 そこに待ち構えている男がいた。

 逆立つように尖らせた茶色の髪、吊り上がった茶色の瞳。

「俺は、土と石と砂を司る者・ソイルコマンダー」

 ボナパルト帝国の土魔法の戦士だ。

 騎馬隊に対して両手を突き出した。

「フォールバスター!」 

 すると騎兵隊が立つ砂浜が急落下。

 300人の姿が一斉に地底へと落ちていく。

 次の瞬間、彼らの頭上に巨大な板のような砂のかたまりが現れる。

 すぐさま地響きを立てて落下。

 全員を生き埋めにしてしまった。


「まずい! 俺たちの作戦がすべて敵に読まれている!!」

 ショーマが叫ぶ。

 絶体絶命の危機。

 このままでは全滅する。

 それを察知したマリエッタ。

 機転を利かせて、

「テレポートフラッシュ!」

 と詠唱する。

 丘の上に残っていた残りのジョセフ国軍。

 その姿が一斉に消えていく。


「あら、逃がしちゃったわね」

 とつぶやくのは帝国軍・皇帝の娘ナタリー。

 ソイルコマンダーの背後から、レティシアを連れて様子を見ていた。

 レティシアはナタリーに手錠をかけられている。

 その顔はやつれ、憔悴しきっていた。

 ナタリーの目は異様な光に満ちている。

 そしてレティシアにささやくようにつぶやく。

「ショーマ、今度会ったときは必ず、レティシアに惨めな最期(さいご)を見せてあげるからね」


 マリエッタの瞬間移動によって、ジョセフ国軍はザレンビーの内陸部まで戻っていた。

 なんとか全滅の危機は免れた。


 しかしジョセフ国軍は壊滅的な打撃を受けた。

 それはボナパルト帝国軍が、ショーマの作戦に対し、すべて先回りしたからだ。

 まるで事前にわかっていたかのように。


 ショーマは、非業の最後を遂げたニコラ少将の言葉を思い出した。

________________________________

「ジョセフ王国軍の情報がボナパルト帝国に渡っているようだ」

「えっ!?」

「私は、軍の伝令、通信記録、城を出入りする者、細かく調べていた。すると一人の人物が浮かび上がった」

________________________________

 ニコラ少将は裏切者に気づき、その証拠をつかもうとしていた。

 そのさなかに惨殺されてしまった。

〈やはり、ジョセフ国軍の幹部に内通者がいる!〉



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