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愛のかたち

 レティシアの行方を追うショーマ。

 ボナパルト帝国軍の上陸部隊の、すぐそばまで接近する。

「どこにいる!? レティシア!」

 危険を顧みず、彼女の名を呼ぶ。


 すると敵軍の方から、不意に人影が現れた。

 女性だった。

 美しいブロンドヘア、大きな青い瞳の女だ。


 そして彼女の隣には、さるぐつわをされたレティシアがいる。

 手足を縛られ、身動きが取れないようだ。

 その肩を抱くように、女はレティシアの体を支えている。


 ショーマは魔術を発動しようと身構えた。

 レティシアを奪い返すには戦うしかない。


 だがブロンドの女が、薄笑いを浮かべながら言う。

「攻撃しようとしても無駄よ」

 ショーマが言う。

「なぜだ!」

「私たちの姿は幻影なの。遠くから映し出されているだけよ」

「あなたは誰なんだ?」

「私はロラン・ナタリー。レティシアは私の大切なパートナーよ」

 その名前をショーマはレティシアから聞いていた。

 ボナパルト帝国・ディータ帝王の娘。

 そして、戦争で身寄りがいなくなったレティシアを救った恩人だ。


 ショーマはこぶしを握り締めながら言う。

「あなたのことは知っている。レティシアが大切なら、どうして彼女を縛っているんだ」

「おいたが過ぎたからよ。私の大事な部下・フラッディを殺そうとしたでしょ」

 と薄笑いを浮かべるナタリー。

 しかし次の瞬間、表情を氷のように一変させた。

「しかもこの子は、私のもとを去ろうとしている」

 ナタリーがショーマを睨みつける。

「ショーマ、あなたが、この子を勾引(かどわ)かしたからよ!」

 ショーマの背筋がびくっとのけぞる。

「俺のことを知っているのか?」

 ナタリーはショーマを右手で指さして言う。

「ええ。私の大切なレティシアを拉致した、最も憎むべき男」

 その右手はこぶしを握り締め、親指だけを下に突き出した。 

「そして今や、ジョセフ国軍の大将軍。あなただけは、どんな手を使ってでも殺す」

 ナタリーはレティシアを横目で見る。

「しかも、この子の目の前でね」

 レティシアが何かを訴えようとする。

 しかし、さるぐつわが邪魔でしゃべれない。


 そんな彼女を見て、ショーマは思わず声を荒げる。

「どうしてそんなに、レティシアにこだわるんだ?」


「愛しているからよ」

「えっ!?」

 ナタリーの返答に、呆然とするショーマ。

 ナタリーが続ける。

「レティシアを、私は自分の部屋に住まわせた」

 ナタリーは彼女の髪をなでる。

「この子は愛らしく、可愛い。いつしか毎晩、愛し合うようになったわ。心も身体もね」

 レティシアの目から涙がこぼれる。 

「私にとってはレティシアがすべて。この子がいない生活は考えられない」

 ナタリーはレティシアを熱い視線で見つめ、こう続ける。

「レティシアのためなら、どんなことだってするわ」

 ショーマはナタリーの目つきをを見て、背筋が凍る。

〈どう見ても、まともじゃない……〉


 すると兵舎の奥から、こちらに駆け寄ってくる足音がする。

 見張りの兵士に見つかったようだ。


 ナタリーの言葉が確かなら、レティシアの姿は幻影に過ぎない。

 この場所にはいないのだ。


 もう立ち去るほか手はない。

 ショーマはエルマーに脚と手綱で合図を送る。

「逃げるぞ!」

 エルマーが踵を返して駆け出す。

 帝国軍の兵士たちが気づいて外に出てくる。

 しかしショーマとエルマーは、はるか遠くまで駆け出していた。


 ショーマがエルヴィン邸に戻って来ると、その手前に大きな影が舞い降りてきた。

 竜のファヴィアンだった。

 着地のため動かす翼の風圧で、ショーマとエルマーは吹き飛ばされそうになる。

 髪がぼさぼさのショーマ。

 目にかかった前髪を振り払いながら聞く。

「今日はどうした? 巨大なサイズで現れるなんて」

「お客さんを乗せて来たんだ」

 とファヴィアンは自分の背中を振り返る。

 そこから降りて来たのはコレットだった。

 いつも森で着ている剣術の練習着ではなく、青色のワンピースだった。

 コレットが言う。

「ショーマ、負けちゃったのね」

 いつも通りの明るいコレットの表情だ。


 だが、ショーマはコレットの目を見て話せない。

 負い目があるのだ。

 この前、彼女を軽率な言葉で怒らせてしまった。


 だからショーマは、

「うん」

 と答えるのが精いっぱいだ。

 うなだれたまま、二の句が告げられない。


 なぜ彼女が自分の言葉で怒ったのか、いまだにわからない。

 しかもその後の戦闘では惨めに負けている。

 ショーマは情けない自分が恥ずかしい。


 コレットはファヴィアンの背中から降りてくる。

 ショーマに近づくと、

「何をくよくよしてるの!」

 と頭を小突いた。

「何するんだよ」

 と顔を上げたショーマ。


 するとコレットは屈託のない笑顔で、

「元気出しなさいよ」

 とショーマに言う。

 そしてこう続ける。

「私なんか、戦うチャンスさえなかったのよ。ずっと閉じ込められて『殿方に気に入られる女になりなさい』って言われて」

 ショーマがようやく、コレットの目を見る。

 彼女がさらに続ける。

「フランドル平原の戦いに連れて行ってもらったこの前の戦い、私は翼をもらった気がした」

 コレットが楽しそうに言う。

「騎馬隊を率いて突撃した時、初めて生きているって実感が沸いた」

 ショーマがうなずく。

 コレットは、あらためてショーマを見つめて言う。 

「まだ、終わったわけじゃないわ。再び立ち上がるチャンスがあるんだもの」

 コレットはファヴィアンに向かって聞く。

「ファヴィアン、次の戦い、力を貸してくれる?」

 というコレットにファヴィアンは、

「もちろん。活躍してみせるよ」

 と力強く答える。

 コレットも言う。

「私も負けずに活躍するからね」


 ショーマは目を潤ませて、

「ありがとう二人とも」

 と頭を下げる。

 彼らがこれだけ協力すると言っているのだ。

 やるしかないのだろう。

 ショーマは宣言する。

「みんなのため、できることはやってみるよ」

「そう来なくっちゃ!」

 コレットの笑顔が弾ける。

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