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赤い髪の門番

 翌日、ショーマは行動を開始した。

〈人が命を奪われて、悲しみに包まれるのはもうたくさんだ!〉

 黒いズボンに乗馬ブーツ、白いシャツにエルヴィン家伝統の青いベスト、腰に剣を差す。

 そして愛馬・エルマーに乗り、単身で北部を目指して走る。

 ジョセフ国軍のクラウス将軍からは、部隊を伴っての行軍を提案された。

 しかしショーマはそれを断り、単身での行動を申し出た。

〈最初から戦うのではなく、まずは話をしたい〉

 それがショーマの願いだった。


 エルマーは快調に走る。

 ふどう畑が広がる農業地帯、美しい花が咲く運河を抜ける。

 さらに木々が茂る森の間の道を縫っていく。


 まだ日が高くなりきる前に、目指す北部の門が見えてきた。

 石造りの大きな灰色の壁に、こげ茶色の頑丈な扉。

 その前に門番の兵士が一人、立っている。

 赤い髪に角ばったごつい顔、鋭い目つき、大きな体。

 身に着けているのは、ボナパルト帝国のしるしともいえる黒色の金属の甲冑。

 大きな刀を腰に差しており、すでに戦闘態勢だ。


 ショーマはエルマーから降り、手綱を近くの木につないだ。

 そして門番の兵士を挑発しないよう、ゆっくりと歩み寄る。


 しかしその赤髪の男は刀を抜き、ショーマに突進してきた。

 上段に振りかぶり、ショーマに切りかかる。

 鋭い金属音が響き渡る。

 ショーマが自らの刀で、男の剣を受け止めた。

 男はすぐに太刀筋を切り替える。

 ショーマの胴部を狙い、斜めに振り下ろす。

 この攻撃も刀で振り払う。

 赤髪の男は執拗に攻撃を仕掛ける。

 しかし、その刀は空を切り、ショーマの刀で防がれ続ける。


 赤髪の男の息遣いが荒くなってきた。

 刀を合わせたままの鍔迫り合い。

 そのまま膠着状態になったところで、赤髪の男が言う。

「おまえ、やるな」

 ショーマも答える。

「あなたこそ実力者ですね」

 実際、赤髪の男の剣技はニコラ中将に匹敵するものだった。

 ショーマが続ける。

「俺は戦いに来たのではない。話し合いに来たんです」

 すると男は言う。

「なるほど。だから君は自分から攻撃してこないのか。しかも息ひとつ乱れていない」

 男が剣の力を抜き、さやに収める。

 ショーマも自分の剣を仕舞いながら言う。

「俺はジョセフ国軍のエルヴィン・ド・ショーマです」

「私はボナパルト帝国のハーラルト大佐だ。で、ショーマの階級は?」

「少将です」

「承知した。話というのは何だ?」

「バルナバス中将と話し合いがしたい」

 するとハーラルド大佐が言い放つ。

「申し訳ないが、それは絶対に出来ない」

「なぜです?」

「ショーマが私より強いとわかった以上、より、ここを通すわけにはいかない」

「聞くだけでも聞いてみてはいただけませんか」

「どうしても行きたいのならば、私を殺してから行け」

 ハーラルド大佐の口調は強かったが、怒気は感じられない。

 むしろ覚悟の思いが感じ取られるものだった。

 ショーマが言う。

「最初にも言いましたが、戦うつもりはない。手紙を預けるので、バルナバス中将に渡していただきたい。手紙には、お話したかったことが書かれています」

「わかった」

 ハーラルド大佐が答える。

 ショーマが続ける。

「いま私たちは、ボナパルト帝国から、マリエッタ姫を第2妃に差し出すよう要求されています。でも、それには応じられない。何か代わりにできることはないか、手紙にはそう記しています」

「なぜ、中身を私などに話すのだ。秘密の内容だろう」

「ハーラルド大佐も含めての、私からのお願いだからです」

 ハーラルド大佐は、大きな溜め息をついた。そして言う。

「確かに約束しよう」

「ありがとうございます」

 ショーマは大佐に手紙を渡した。

 そして、こうたずねた。

「ところで、ボナパルト帝国の兵士は、みな、あなたほど強いのですか?」

「いや、そうではない。実は私はモラヴィア国の出身なのだ」

「モラヴィア国と言えば、ボナパルト帝国に滅ぼされた国じゃないですか?」

「そうだ。国で最強のロタリンギア流剣技で腕を磨いてきた」

「なぜ今はボナパルト帝国の兵士に?」

「私はモラヴィア国のため懸命に戦い、数えきれない敵を倒した。しかし最後は国が滅ぼされ、私も生け捕りにされた」

 うつむいて語るハーラルド大佐。さらにこう続ける。

「ボナパルト帝国が私を生け捕りにしたのは、私を戦力として活用するためだった。家族を人質に取られ、私は帝国軍の幹部になることを約束させられた」

「そうだったんですか」

「余計なことを話してしまったな」

「私も同じで、いっぱいおしゃべりしてしまいました」

 2人は顔を見合わせて笑った。

「しかしショーマとは敵同士。戦場で会ったら、また全力で倒しに行く」

「できるならお会いしたくないですね」

「手紙のことは任せてくれ」

「よろしくお願いします」

 ショーマはハーラルド大佐に一礼する。

 そして愛馬エルマーのもとに向かおうとすると、目の前にウィンドウが浮かんだ。

【剣撃・格闘術熟練 LV 18】

〈できたら戦いを続けたくはないんだけど……〉

 ショーマはためいきをつく。

 そんな思いをなぐさめるように、エルマーはショーマに顔を寄せてきた。

「よせよ、エルマー」

 と言いながら、笑顔を浮かべるショーマ。

 エルヴィン邸への帰途に就く。

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