特別編 第二部プロローグ(総合評価ポイント一万越え記念)
お久しぶりです。
遅ればせながら総合評価が一万ポイントを越えました。
これもひとえに皆様の応援のおかげです。
そこで、一種のお礼企画として、執筆中の第二部OPを掲載します。
――ぶっちゃけ、これ以降は、ほぼ真っ白ですけどね!
気長に待っていただけると幸いです。
0-1 終焉から始まる物語
西暦二XXX年、八月十五日。東京。
突如大都市の上空に現れたその化け物は、巨大な口で吸い込むようにして、文字通り世界を喰らい始めた。
いや、厳密に言えば、東京だけではない。
世界中の至る都市で、その化け物は同時に存在している――より正確には、現在、世界中の都市が、歪んだ時空によって隣接しているのだ。
空を見上げれば、逆さまになったニューヨークの摩天楼や、パリのエッフェル塔がぶら下がっている。
おそらく、あちらからすれば、逆さまの東京タワーとスカイツリーが空に浮かんでいるかのごとく見えるのだろう。
天も地も、壊れ、喰われ、崩壊していく。
あまりにも非常識すぎて、眺めているだけで狂気に頭がおかしくなりそうな光景。
そして、世界を呑みこむ、その化け物の冒涜的で悍ましい姿。
それはまるで、ぐにゃぐにゃに捻じれて仰向けになった巨大な人間の屍みたいな、あるいは自らを締め上げる巨大な機械仕掛けの大蛇のような――周囲に浮かぶ骨でできた歯車のような円環が、天球儀のように複雑に絡まって、ガチン、ガチンと恐ろしい音を立てながら、規則的に崩壊へのカウントダウンを刻んでいく。
その不気味な機構は、なんとなく機械式時計を連想させた。
世界各国の軍は、とりあえずその謎の怪物に攻撃を仕掛けた。しかし、それらはすべて失敗に終わっていた。
戦闘機もミサイルも、何もかもがその怪物の餌にしかならなかった。
いったい何が起こっているのか、人類の誰もが理解できなかった。
ただ一つ、その化け物が現在進行形で世界を終わらせている事実だけは、辛うじて理解できた。
「なんなんだよ、あれ……?」
夏期講習の帰り、学生服に身を包んだ御霊シキは、小高い坂の上から茫然と世界の終わりを見つめていた。
逃げようにも、いったい何処に安全な場所なんてあるだろうか……必死で頭を働かせるものの、最適解は見つからず、少年は幼馴染の前に立って庇うことしかできなかった。
「シキ……怖いよ。私たち、どうなっちゃうの……?」
彼の背中にギュッとしがみ付く、学生服の少女。
いつもの勝気な態度と打って変わって、幼馴染の花咲メグルが小さく体を震わせる。その様子は普段の頼りになる彼女の姿とはかけ離れた、年相応の少女みたいだった。
「シキ! 早く逃げよう! このままじゃ私たちも……!」
「……逃げるって、どこにだよ?」
後ろを振り返れば、ピラミッドとスフィンクス――時空が歪んでいるせいで、エジプトの町並みが隣町であるかのように見えているのだ――が、今まさにバラバラに崩壊して、怪物の口らしき穴の中へと呑みこまれた瞬間だった。
世界中どこにも逃げ場がないことを理解するには、それだけで十分だった。
「……逆巻く刻の果てに座す、終端の邪帝――その一部を取って、『カルヴァニヴ』。私たちの世界では嘗て、そう呼ばれていました」
透き通ったような女の人の声がした。
二人が声のほうへ振り向くと、さっきまで誰も居なかったはずの場所に一人の女性が立っていた。
「奴は、数多の世界を喰らい尽くした邪悪なる神。しかし遥か未来、異世界での戦いにて追い詰められ、こちらの世界へと逃げてきたのです」
この場にそぐわない、青系の色を基調とした踊り子のような衣装に身を包んだ少女。
濃い藍色から明るい蒼にグラデーションする髪は夜明け前の空のようで、その瞳は星屑を散りばめたようにキラキラ輝いている――まさに、満天の星空を擬人化したような美しい少女だった。
「邪神だなんて呼ばれて調子に乗り、長い間ずっと好き勝手してきた怪物……それなのに、やっていることと言えば、強者から逃げて、天敵の居ない世界で弱い者いじめ。本当に無様ですよね~。貴方たちもそう思いません?」
「あ、あんたは……?」
「おっと、自己紹介が遅れてしまいましたか? では、改めまして――私はステラ・ラピス。こことは異なる世界にて、『星詠みの魔女』と呼ばれています。」
少女はくるりとその場で回り、衣装をふわりと翻す。その姿はまさに、舞台で観客を魅了する踊り子のようであった。
「せっかくですから、気軽に『ステラちゃん』って呼んでくださいね♪」
そう名乗った少女は、軽い口調なのに、どこかミステリアスな雰囲気であった。
「――ちょっと待って!?」
何かに気が付いた花咲メグルが、叫ぶような声をあげる。
「異世界の戦いで追い詰められてここに来たって……要するに、アナタたちの所為で、こんなことになってるの!?」
「おや、信じてくださるのですか? 説明する手間が省けたのは助かりますが……なんてひどい言いがかり。ステラちゃんは、とても悲しいです」
「はぐらかさないで、答えなさい!」
怒気を孕む少女の声。彼女の八つ当たりにも近い質問に、異世界の魔女は少し悩むような表情で答える。
「……まあ、確かに、完全に否定きれないところもありますね……ただ、あくまでも悪いのはあの邪神であって、ステラちゃんたちじゃありません♪」
自称魔女は明確に否定をすることをしなかった。しかし、そこに反省や謝罪はおろか、悪びれた様子や、後ろめたく思う態度すら見られない。
そんな彼女に、メグルは目を三角にして掴みかかろうとした。
「アンタねえ……! アンタのせいで、あの化け物が……!」
「よせ、メグル!」
「シキ!? なんで止めるの!?」
「落ち着けって! その人を殴ったって、何も解決しない! えっと、ステラさん……でいいのかな? あなたの言葉が真実だとして、どうしてそれを俺たちに?」
幼馴染を止める御霊シキ。そして努めて冷静に、自称魔女へと問いかける。
すると、尋ねられた星詠みの魔女は、にっこりと微笑んだ。
「いいですね、話が早くて助かります♪ 私がこの世界に来た理由は、他でもありません――この結末を、変えたいと思いませんか?」
尋ね返されて、困惑する二人。しかし、御霊シキのほうは、星詠みの魔女の話に興味を持った。
「まさか。あの化け物を、どうにかできるって言うのか?」
「はい♪ とはいえ、それは貴方たち……より正確には、貴方の頑張り次第です♪」
彼女の星空のような瞳は、御霊シキを見据える。
「ちょっと、それはどういうことよ?」
まだ怒りの収まらないメグルが、突っかかるように問いかけた。シキはそんな幼馴染をなだめながら、星詠みの魔女に話の続きを促す。
「それで? 俺は、どうすればいいんだ?」
「お二人はこれから、異世界へ召喚されます。その先の世界で、あなた方は運命に抗う力を得るでしょう――」
「し、しょうかん……?」
それと似た話を、最近アニメでやっていた気がする。
残念なことにシキはそういった類のアニメを見ることはほとんどなかったが、友人がハマっていたのでなんとなく知っていた。
「え? ちょ、召喚て、そんなファンタジー小説みたいなこと、本気で言ってんの?」
「なんで驚いているのです? ぶっちゃけ、それ以上の超常現象が、現在進行形で繰り広げられていますよね?」
星詠みの魔女が指さした先では、例の怪物が世界をどんどんと喰らっていた。
「では、そろそろ――始めますか」
その瞬間、二人の足元が輝きだし、何やら複雑な図形が――召喚のための魔法陣が輝きだす。
「もっとも、始めるのはステラちゃんじゃなくて、貴方たちなんですけれど♪」
その輝きに反応したのか、気が付けば世界を喰らっている怪物がこちらを、さっきまでは無かったはずの巨大な目で、ぎょろりと見つめていた。
「ヒッ!?」
悲鳴を押し殺すメグル。しかし、星詠みの魔女は邪神なんか構わず、自分の話を続ける。
「さて、あちらの世界でお二人は、勇者として祭り上げられるでしょう。しかし、運命に流されてはいけません――えーっと、お名前は確か、『御霊シキ』で良かったですよね?」
「あ、ハイ!」
突然フルネームを呼ばれ、少年は反射的に返事した。
「それでは、シキ。貴方はあちらの世界で、四つの季節を――『春』・『夏』・『秋』・『冬』のそれぞれを統べる、四柱の王に会ってください」
「四柱の、季節の王……?」
シキが言葉を反芻すると、星詠みの魔女はにっこりと笑う。
「はい、その通りです! そして、もし真実にたどり着くことができたなら――その時こそ、貴方はこの世界から、あの化け物を消し去ることができるでしょう♪」
告げられる予言。
迷っている時間はない。物語が動き出す。
「さあて、心の準備はできましたか?」
その瞬間、二人の足元にある魔法陣が輝きを増した。
誰が見ても明らかに、召喚とやらの魔法が発動しようとしていた。
「ちょ、ちょっと待って! まだ行くって決めたわけじゃ……」
「でも、悩んでいる時間は、もうありませんよ? 心の準備ができてないなら――お気の毒です♪」
直後、怪物が何かまばゆい光を放ち、それが空から迫って来る。その正体は明確な殺意を持った、空に浮かぶ邪神からの攻撃だ。
シキとメグルは、迫り来る閃光に、『死』を幻視した。
「それでは、グッドラック♪」
しかし間一髪、邪神の攻撃が大地を抉る直前に、二人の学生たちはこの世界から消えていたのだった。
――強靭不死身の魔獣王、第二部。
『勇者ごっこはノーサンキュー』編。
公開予定未定!
プロットすら完成してないので、公開予定はまだまだ先です(すみません)。
あまり期待せず、ユルい気持ちでお待ちください。




