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【このラノ3位!】魔術漁りは選び取る  作者: らむなべ
第十三部 無尽■■国家トラウリヒ

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328.不審者(知り合い)

「トラウリヒはスターレイほど広いわけじゃないし、道の整備が進んでるから首都には三日で到着するわよ! 今日は早く寝て明日に備えなさいね!」


 流石にというべきか当たり前というべきか、部屋は男女で区画が分けられている。

 カナタ達と別れる間際、道の分かれる渡り廊下でエイミーはカナタ達に向けてびしっと人差し指を向けた。

 トラウリヒに着いてからというもののエイミーはずっとテンションが高いままだ。


「そういえばやけに道が綺麗だったというか、がたがたが少なかったねたね」

「デルフィ教の信徒が各地を巡礼しやすいよう、国全体で道の整備に力を入れていらっしゃるんですよね」

「おー、ルミナ様物知りだわだわ」

「ふふ、ありがとうございますキュアモさん。でもこれは学院にいた頃にエイミーに教えてもらったんですよ」

「そうそう! よく覚えてるじゃないルミナってば!」


 そんなエイミーのテンションに乗せられてか、女性陣も少し浮かれているようで。

 旅行だから当たり前といえば当たり前なのだが、カナタとエメトは微妙についていけていない。

 特にエメトは眩しそうに目を細めていた。


「それじゃあおやすみ! また明日ね!」

「おやすみなさーい」

「おやすみなさいカナタ」

「はい、おやすみなさい」


 ルミナが笑顔で手を振ってくるのに釣られてカナタも手を振る。

 それを見たルミナは満足そうに、エイミーと一緒に女性用の部屋へと歩いていった。

 ルミナ、エイミー、キュアモの三人が楽し気に館に入っていくのを見送って、エメトがぼそっとつぶやく。


「……たまーに、女のああいうテンションってついてけねえよなって思うわ」

「エメトさん……そういうの言わないほうがいいですよ」

「聖女様も聖女様らしくねえっつうか……おっと」


 隣にフィッツがいたのを思い出して、エメトは自分の口を慌てて塞ぐ。

 エイミーはトラウリヒ神国において偶像(アイドル)的人気を誇るのは昼に見たばかり。

 聖女を聖女らしくない、などと言っては気分を害すだろうと思ったが……フィッツは予想外にも笑っていた。


「いや本当に仰る通りですな。今日のエイミー様は昔よりも柔らかくお笑いになっておられました」

「いや、わりいな。悪気があったわけじゃないんだぜフィッツさん」

「わかっていますとも。エイミー様の聖女らしからぬ親しみやすさに私達も救われていますから」


 フィッツはそう言って、二人を今日泊る部屋に案内してくれる。

 一般的な宿屋よりも綺麗ではあるが、貴族が宿泊するような豪華さなはない。

 あくまで素朴に整っており、フィッツの清貧さを示すかのような部屋だった。


「留学するまでのエイミー様は、少し傲慢さが見えるようなお育ちになられておりました。それこそ、大聖堂でふんぞり返っている少数の偉い方々のように」

「おいおい、いいのかいフィッツさん。大聖堂ってのはあんたにとっちゃ宗教の総本山だろ?」

「人が多くいれば、どんなに素晴らしい信仰が集う場所でも腐る人間はいるものです」

「……まぁ、そりゃそうだな」


 同じデルフィ教の信徒だから正しく、崇高である。

 そのような偏った考えをフィッツは持たないようだった。

 自分の信仰しているものは素晴らしいが、そこに集まる人間が素晴らしいものだとは限らない。しっかりと現実と信仰どちらにも向き合う姿は正しく敬虔な姿と言えるだろう。


「エイミー様は根が純粋な方でしたから、多少傲慢のように聞こえても親しみやすい範疇でしたが……これからが不安になるような偏った言動もちらほら聞こえるようになっていたのです。ですが、留学から帰ってきてからは、どこか柔らかく、視野が広がったような印象を受けました」


 フィッツは部屋の前で話を聞くカナタに笑いかける。


「エイミー様がアオフ祭に外国で作られたお友達を招待するのも、あなた達の姿を見るまで私には信じがたいことでした。ですが、今日あなた方と会えて本当にいい方々とお知り合いになられたのだと」


 トラウリヒには三年に一度、デルフィ神に捧げるアオフ祭が国を挙げて開催される。

 エイミー曰く、デルフィ教徒以外も楽しめるということで、今回カナタ達がエイミーに招かれたのも、このお祭りがきっかけだ。

 聖女としてエイミーもこのお祭りで重要な役目があるらしく、カナタとルミナの婚前旅行としてそれを見てもらいたいと誘われている。

 デルフィ教徒のお祭りだが、デルフィ教徒でなくてもお祭りとして楽しめるとのことらしい。


「ですから、今日の料理にも気合いが入りましたとも。お酒がないのは申し訳ありません。私は下戸なものですから、ここには置いてないのです」

「あん? 他には置いてあんのか? デルフィ教徒は酒飲まねえってさっき……」


 エメトが怪訝そうに聞くと、フィッツはにやりと口角をあげた。


「ええ、お酒は飲みません。ですが、我が国には“デルフィの雫”と呼ばれる聖水がございます。この国に来た外国の方々はこれを大層嬉しそうに買っていかれるとか……そういうことですね」


 フィッツが何を言いたいのか察したエメトは満面の笑みを浮かべる。

 それでこそだ、と言わんばかりにフィッツの背中をばんばんと叩いた。


「おいおいおい! 案外話がわかるじゃねえかデルフィ教! あんがとなフィッツさん!」

「デルフィ教は懐が深いのです。それこそデルフィ神のおわす海のように」

「だよなあ! それでこそ神さんだ! 今日だけは祈るぜデルフィ神とあんたによ!」

「エイミー様は昔から純粋な方でいらっしゃいますから、あのようにまだ思われているのです。真実を知るのはもう少し後になるでしょう」


 歳も離れ、性格も正反対のように見えるエメトとフィッツだが、案外相性がいいのか二人は意気投合している。酒は飲まないが、好きなものを欲しがる気持ちはわかると言ったところだろうか。

 二人の会話の内容はさておき、言葉の節々から感じ取った印象をカナタは素直に口にした。


「フィッツ司教はエイミーのことをよく見ていらっしゃるんですね」


 フィッツはそう言われると、にこりとカナタに微笑み返す。


「デルフィ教徒にとってエイミー様はありがたく、そして大切な御方ですから。」

「町の人達にも愛されていましたもんね」

「はい。エイミー様がずっと楽しそうにしていらしているのもきっと、あなた方がいるからでしょう。この国では同年代の友人などできないでしょうから。私などがデルフィ教徒を代表するのは差し出がましいですが……デルフィ教徒としてお礼を言わせてください。ありがとうございます」


 そう言って、フィッツはカナタとエメトに向かって深々と頭を下げる。


「フィッツさん……」

「おいよせって……俺とか何もしてねえよ」

「そうですよ。私達もエイミーさんが好きなんですから」


 そこで、カナタとエメトではない声がもう一つあることに気付く。


「あれ?」

「……ん?」


 カナタとエメトは同時に背後を振り返る。

 そこにはカナタの一歩後ろこそが我が居場所と言わんばかりに、堂々と立っているルイがいた。

 エメトはすかさず突然現れた不審者(ルイ)の頭を反射的にわしづかみにする。


「なんでてめえが男部屋のほうに来てんだごらあ!? 思い返せば確かにあの三人と一緒に行ってなかったなてめえ!」

「愚門ですねエメトさん。私はカナタ様の専属使用人! 性別を超越してお世話する者! カナタ様いるところに私あり! つまり! 私あるところにカナタ様がいなきゃいけないんですよ!!」

「なんもつまってねえんだよボケぇ! 大人しくあっちの館にいけやあ!」

「私を動かせるのは魔術でも暴力でも権力でもなく、カナタ様のお声のみ! それに私がいなくて誰が朝のカナタ様のお世話をするというのですか! 譲ってたまるかあの寝顔!!」

「このいかれ女……!」


 エメトに頭を掴まれ、情けない状態になってもなお胸を張り続けるルイ。

 一歩も退かないルイの姿にエメトがドン引きしてる中、カナタはルイの裾をちょん、っと引っ張った。


「ルイ、駄目だよ。ちゃんと女性用の部屋に行って」

「うわ、かわい……じゃなくて……はい! カナタ様! ご命令通りに!」

「朝になったら起こしに来ていいから……いいですよねフィッツさん?」

「え、ええ……一夜を過ごさないのなら……」

「わーい! じゃあまた朝に来ますね!」


 ルイはエメトの手を頭から外して、カナタ達に一礼する。


「それでは、おやすみなさーい!」

「うん、おやすみルイ」


 カナタが言いながら手を振ると、ルイは上機嫌な様子で女性用の館のほうへと。

 エメトとフィッツはぽかん、とルイの後姿を見送るしかなかった。

 ルイが見えなくなって、エメトは深いため息とともにその場にしゃがみこむ。


「女とか性別じゃなくて、あいつだけはまじでわかんねえ……!」

「騒がせてすみませんフィッツさん。ちょっと世話焼きな子なんです」

「え、ええ……大丈夫、ですよ……」

「世話焼きですませるお前もお前なんだよなあほんと!」

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― 新着の感想 ―
ルイとエメトさんのコンビ結構好きです。素行の悪いチンピラ上がりが主人狂いのメイドさんと絡むと勢いに押されてちょっとまともになるの好き。ルイ可愛い。
中ほどに文章が途中になってる行がありますがあれは・・・
この小説面白いんだけど、ルイのキャラだけは何か別世界の住人みたいで、読んでて馴染まない…
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