幕間 -痩せすぎは不安になる-
「ふんふんふーん……」
カナタの使用人ルイは自室にて鼻歌混じりに私服に着替えていた。
今日は休日ということで、仕事ではなく息抜きのために甘味巡りに繰り出す予定である。
先週、この町のお菓子の食べ比べにはまっているとルイがパスを出し、この町には色々な菓子屋がありますよね、とコーレナが話を広げ……最近ようやく積極性を出し始めたルミナがカナタに提案するという連携プレーによって四人で今日の話は決まった。
最近、第二王女との勉強会のせいでカナタと過ごす時間が減ってしまったのもあってルイは今日を楽しみにしていたのである。それはもう鼻歌を歌うくらいには。
「あれ……?」
そんな上機嫌に水を差す事態が訪れる。
お気に入りのスカートを履こうとしたのだが妙にきつい。
「いやいやいや……これはカナタ様の専属になった時のお祝い金で買ったスカート……。まだ一年くらいしか経ってないのにそんなことになるわけが……」
ぐっ、ぐっ、と力を入れて履こうとするが……きつい。
鼻歌も止まり、代わりにルイの脳内で鳴り響く危険信号。
今日は仕事抜きなので、いつもより可愛い自分をお届けしなければ、とはりきっていた乙女心を粉々に砕く。
「あ……あ……!」
ルイは急いで私服を脱ぎ捨て、いつもの使用人服を引っ張り出した。
「「太った?」」
「はい……」
女子寮前の庭に四人は集まったが、ルイは三人に背を向けてうずくまっている。
これから甘味巡りをしようという予定だったが、お気に入りのスカートが入らなかったせいで気乗りしない顔を三人に見せたくないのだろう。
仕事抜きという話だったのに使用人服を着ているのも、不参加の意思表明だろうか。
「原因は……」
「まぁ、菓子の食べ比べでしょうね。今日の予定のきっかけからして、そもそもこいつが食べ比べの話を幸せそうに語ったからですから」
「ああ……女性なら気にしてしまいますよね……元気出してくださいルイ」
「いえルミナ様、こいつの場合は……カナタ様」
「はい?」
コーレナは首を傾げていたカナタに、ルイの背中を見るよう促す。
「見てやってくださいカナタ様、これがあなたを慕う女の姿です。丸いでしょう」
「悪口だろコーレナさんごらあ!! よりによってカナタ様にぃ!!」
「このように、カナタ様にどう思われるかを気にしているんですよ」
うずくまっていたルイは立ち上がり、コーレナの胸倉を掴む。
爵位がないとはいえコーレナは貴族でルイは平民なのだが……このような関係を築けるのは日々の交流ゆえか。
コーレナによってまんまとこちらを向かされてしまったルイは、カナタの視線に気付いて、胸倉を掴んでいたコーレナを盾にするように隠れた。
「だってしょうがないじゃないですか! お菓子おいしいんですもん! ここだとお金を使える場所も限られますし!!」
「カナタ様やルミナ様は側仕えや使用人をこき使うような方々でないというのも大きいかと。普通身の回りのことは使用人に任せますが、お二人は買い物どころか買い忘れすら自分で買いに行かれようとしますし……茶会や食事に私達を同席させて同じものを食べさせてくださいますからね。
私は騎士なので鍛える時間がありますが、ルイは影響が……」
「そうですよ! お二人がこき使ってくれないから私が太っちゃったんです!! もっとこき使ってくださいよ!!」
「何か俺達のせいみたいですルミナ様」
「こんな怒られ方初めてですね……」
果たして自分で何を言っているかわかっているのか。
恥ずかしさかから滅茶苦茶なことを言い始めてしまうルイにカナタもルミナも困惑する。
しかし、その前に……とカナタは二人に確認する。
「ルミナ様とコーレナさんに聞きたいんですけど……お二人から見てルイって太ってるんですか?」
「いえ、そんなことはないかと……」
「いえ、むしろ標準では」
「やっぱりそうですよね……?」
カナタはコーレナに隠れているルイをじっと見る。
「俺はむしろ前から細いなあと思ってたので……太ったと聞いて少し安心してるくらいなんですけど……」
「え……」
「自分は昔が昔なのもあって、細すぎると不安になるんですよ……」
カナタは元々平民な上に、カレジャス傭兵団に引き取られる前は最低限の食事しか摂らされていなかった過去がある。
傭兵団に入ってからはお腹いっぱい食べさせてもらうようになったが……過度に細い体を見てしまうと、傭兵団に引き取られる前の自分を思い出してしまうのだろう。
「だから、気にしないでいいと思うよルイ?」
「ほ、本当ですか……? 慰めとかではなく……?」
「うん、だから今日は予定を少し変えてルイの服も買いに行こうよ。せっかくみんなで出掛けるんだから、今が楽しい思い出になるように、今のルイのためのものを買いにさ」
「か……かにゃたしゃまぁ……! うわあああああん!!」
「っとと……よしよし……」
自分への気遣いに感極まってか、コーレナの背中からカナタに飛び付くルイ。
カナタはその勢いごとルイを支えて、泣いているルイを撫でながら宥めていた。
その光景を羨ましく思ったのか、ルミナはコーレナの袖をちょいちょいと引っ張る。
「コーレナ……私も太れば……」
「ルミナ様、念のため言いますがカナタ様が言いたいのはそういう事ではないと思います」
「で、ですよね!」
その後、四人は予定通り町に繰り出して甘味巡りの休日を楽しんだ。
後日ルイの体重がどうなったかは言うまでもないだろう。
ルイの体重は53kgです。身長が157cmとそこそこある割には痩せてます。
お腹の肉が出始めただけです。




