後編③ 隙に付け込んだ秘策
「ベランドン様、レーネル様、ありがとうございました。このお2人のご相談は、教師も一緒にお聞きになっていますので、いくらでもご確認ください。このようにわたくし達は、決していじめや暴言をしていないとお分かりいただけましたか?」
サラーシャは問題児達に視線を向けると、フンッと鼻で笑った。
その調子でこの後もお願いします。
「暴力についてですが、『足を引っかけられた』ではなく『試作自演で転ばれた』ですし、『ジュースをワザとかけられた』ではなく『自分でかけた』ですので、わたくし達は何もしておりません。『階段から突き落とした』については、『嫉妬で亡き者にしようとした』という事でしょうが、わたくし達は『嫉妬』していませんのでする必要がありません。しかし、証言者と証拠物品があるのですよね? では、元王子妃候補のイライザ様、何日の何時に起こった事ですか? お答えください」
「……ぇ……ぃや……その……あの……」
ガタガタと震えて声が出ないみたい。
涙目で顔色も真っ青だし、倒れるんじゃない?
「国王陛下の前ですでに証言されていますので、お答えできないと偽証罪になりますよ?」
「……ぁ……ゃ……」
緊張に耐えかねたのかイライザはバッタリと倒れた。
「……ひぃ……あ……あの! 私達はイライザ様からお話を聞いてこの場にいるだけで、現場を見たわけではないのです!!」
「そそそそ……そうです! イイイ、イライザ様が4日前にお話しくださったので、それを聞いたからこの場に立ち会っただけです!」
元王子妃候補2人がイライザを売った。
まあ、巻沿いになりたくないんだろうけど、証言者として返事をしちゃってるからね~。
「そうですか。しかし、お2人はすでに証言者としてこの場に立っていらっしゃいますから、今更見ていないなど通用しませんよ?」
サラーシャがニコリと笑って追い打ちをかける。
言っている事は正しいはずなのに、なぜか悪役じみて見える。
元王子妃候補2人は、泣きながら膝から崩れ落ち嗚咽を漏らす。
それでも、サラーシャは口を引っ込めなかった。
「イライザ様が、いつ、どこで何時に見たとおっしゃっていましたか?」
「……っ……っ……1週間前……っの、ほっ……放課後にっ……楽器室のかいっだんのっ……ところで……」
「1週間前の放課後、楽器室の前ですね。さて、シューベルさん。貴方が聞いたのも同じ内容でしたか?」
「……っそうだ!」
「……では、フォーネルさんも同じですか?」
「あの日は! 放課後、エレナに逢っていなかった! 私達は直接見ていなかったが、確かにエレナの足には痣が出来ていた!!」
シューベルとフォーネルは必死に自己弁護する。
でもねぇ……チラとサラーシャを見ると『どうぞやっちゃって♪』とパスがやって来た。
「放課後……ですか。それはおかしいですわね。元々教育のためでしたが、転入早々、次々に問題を起こすエレナさんのご相談のために王城に頻繁に通っていましたの。ですが半年前からずっと、学校が終わるとすぐに王城に行かなければなりませんでしたわ。そう、フォーネルさん達がエレナさんと仲良くし始めた頃からです。貴方方の行動のご報告と対策を尋ねに毎日、通わなければなりませんでしたの」
「わたくし達だけではなく、フォーネルさん達の従者や、王家から付けられていた侍女もご報告に上がられていらっしゃいましたよ?」
ふふふふふと、サラーシャが餌を甚振る猫の目をして笑った。
それ怖いから控えて。
「ですから、私達が放課後、楽器室に行く暇はありませんわ。それに、サラーシャ様もおっしゃいましたが、私達には学校入学当時から王家から侍女が派遣されていますの。監視と勉強のために。ですから、その方にご確認いただければ、行ったかどうか分かりますわ」
後ろに控えていたケリガン様とサラーシャの後ろに控えていたワロン様に目配せをする。
すると、2人とも私達の横に並んだ。
「私にはケリガン様が、サラーシャ様にはワロン様が侍女兼マナーの先生としてこの3年間付いてくださいました。お2方とも主はどなたかお教えいただけますか?」
「「王妃様にございます」」
「それは、私達の味方をする事はなく、見たままを王妃様にご報告していたという事でよろしいですか?」
「「そうです」」
「では、1週間前の放課後、私達は何をしていたか覚えていらっしゃいますか?」
「サラーシャ様は魔法技術の座学が終わられますと、他家のご令嬢のご相談に10分程乗った後、馬車で王城に行かれました」
「レイティー様は魔法技術の座学が終わられますと、職員室に顔を出され魔法技術についての疑問を質問された後、馬車で王城に行かれました。ご質問時間は15分ほどでした」
「では、私達が楽器室を通ったり、近くを通りかかったりはしましたか?」
「「全くしておりません」」
「という事で、私達はエレナさんを階段から突き落とすことは出来ませんわ」
男の子たち4人は『これも嘘だったのか?!』とみるみる顔色を悪くした。
「それに、わたくし達の私物が近くに落ちていたという事でしたが、そもそもそれは本当にわたくし達の物ですか?」
首を傾げながらサラーシャが言う。
すると、騎士団団長の元子息カイルさんがこちらを睨みながら、しきりに手を懐に入れようとしていた。
「カイルさん、そこに証拠品がありますの?」
首を縦に振るので衛兵に取り出してもらった。
それは、髪を結ぶオレンジのリボン。
フォーネルの髪が金色に近い茶色で、日に透けるとオレンジだったので私達はよくオレンジのリボンを使用していた。
でも、それだけでは証拠にならない。
「はぁ~確かに私達はオレンジのリボンをよく使用していましたが、それだけでは証拠になりませんわ。しかも、私達の持ち物は悪用を防ぐためにある処理が施してありますの」
今しているリボンをシュルルと解く。
サラーシャにも目配せをして、リボンを解いてもらう。
そして、魔力を流すと……。
「このように、私達の持ち物には家の紋章が浮かび上がる処理がしてあります。もちろん刺繍もしてありますがそれはフェイクですの。衛兵さん、そのリボンに魔力を流して頂けるかしら?」
衛兵が魔力をながしても、紋章は浮かび上がらない。
そうだよね~。 だってそれ、私達のじゃないもん。
私の持ち物にもサラーシャの持ち物にも必ず処理が施してあって、持ち主が分かるようにしてたんだよね。
それを用意していたのは王妃様が派遣した侍女達。
私達が身に着ける前に必ず確認してたもの。
「あら? 紋章が浮かび上がらないですわ。やっぱり私達の物ではなかったのですね。衛兵さん、それは私達に罪をきせようと犯人が用意したものですから無くさないでくださいね」
まさかの仕掛けに目を丸くしたエレナは、手を伸ばしてリボンを引っ手繰ろうとする。
その姿は自分が犯人だと証明しているとしか思えないんだけど……。
「衛兵の方、そのリボンの触り心地と刺繍の出来はいかが?」
サラーシャが扇子で口元を隠しながら言った。
そろそろ口元のニンマリが隠せなくなったらしい。
どれだけ楽しいの? サラーシャ。
「はっ。……触り心地は、高位貴族様の使われる布にしては荒いと感じます。刺繍は若干歪な形をしていますので丁寧な仕事とは言えないですね」
「まあ! わたくし達の身の回り品は価値を見極められるようにと厳選されております。そのような粗悪品は王妃様が手配なさってくださった侍女たちが使うはずもありませんから、どこぞの犯人がご自分で用意されたのね」
チロリとエレナを見ながらサラーシャが言う。
釣られて見ると、男の子4人が青白い顔をしながらも憎悪を込めた目でエレナを睨んでいた。
エレナはガタガタと震えながら「違う違う私は悪くない私はヒロインなんだから」と虚ろな瞳でブツブツと呟いていた。
「さて、以上で私達がエレナさんにいじめや暴言・暴力をしていないとお分かりいただけましたか?」
エレナ達に苦笑いをしながら言うと、男の子4人たちが暴れ出す。
「私はコイツにっっつ! 騙されたんだ!」
「私達は踊らさっつ……踊らされた被害者だ!」
「俺達は悪くなっっ!」
「あの女が全っ……っ全部悪いんだ!」
痛みに耐えながら鬼気迫る顔で訴えてくる。
……でも、貴方達、この1年間、私達を散々こき下ろしてくれたんですよ?
冷たい目で4人を眺めていると、隣からひんやりした空気が流れてくる。
サラーシャも、人を凍らせそうな目で4人を見ていた。
どうぞヤっちゃってください。
「この1年、わたくし達は注意も忠告も散々いたしました。その度に、皆さんは『性根が腐っている』『他人を貶める卑しい女』『優しさのかけらもない冷徹な女』『人の心が分からない悪女』等と言い捨てわたくし達を侮辱しました。しかも、その後に必ずエレナさんの株を持ち上げ、髪に触れたり、腕をからませたり、頬をなでたり、抱き締めたりされていました。これらの言動は貴方方が自分で考えられて、自主的にしていたのですから、人のせいにするのはどうかと思います。だって、耳を傾けなかったのは貴方方ではないですか」
「そうですわ。それに、証拠も集めず冤罪で人を国外追放にしようとなさるなんて、本当に恐ろしい犯罪行為ですわ」
「しかも、貴族として除籍されている平民の身分で、侯爵令嬢であるレイティー様と辺境伯爵令嬢であるわたくしに、ありもしない罪を着せようとしたんですもの。不敬罪に詐欺罪、偽証罪、侮辱罪、騒乱罪、名誉棄損罪と沢山罪を重ねているのに、自覚がないんですか?」
サラーシャが仕出かした事をはっきりと告げると、エレナ達5人は青白かった顔が土色に変わり、脂汗と震えが止まらなくなった。
「エレナさんには強制わいせつ罪や淫行勧誘罪も加わるでしょうから、更に罪が重たくなるでしょうね」
仕上げの一言をサラーシャがエレナに告げると、エレナの目が絶望に染まった
それを見てサラーシャが『ざまぁ!』と呟く。
うん、私も思う。エレナざまぁ! と。
「国王様、王妃様、会場の皆様、長々とお話ししてお時間を取らせまして、申し訳ありません。私達は誓って犯罪など起こしておりませんし、いくらでもお調べいただいて構いません」
サラーシャがエレナ達を睨むのに忙しそうなので、代わりに私が場を〆る。
礼をすると、サラーシャも一緒にしてくれた。
「レイティー嬢、サラーシャ嬢、頭を上げよ。2人には常時監視役が付いており、まず以て、そこな令嬢に何かをする理由がない。証言も証拠も不十分であり、2人が罪を犯すなどあり得ぬ。よって悪いのはそこの5人と証言者であり、ありもせぬ罪を捏造し国の機関に通報もせず、あまつさえ他人を裁こうとしたのだ。それ相応の処罰を下す」
エレナ達5人は、会場中から虫けらを見るような視線を浴び、元王子妃候補者3人は嫌悪の視線を浴びた。
「そこの平民5人は取り調べののち斬首とし、嘘の証言をしたそこの3人は牢に監禁して取り調べをし、追って家に通達をする。皆の者、今後このような事が無いように、今回の事を肝に銘じてほしい。『責任の重さ』というものは貴族である限りどこまでも付いてくる。私も今一度国王としてなすべき事を考え執務に励む。皆も、国を支える者としてあるべき姿を考えてくれ。以上だ」
こうして、私は国外追放の運命を無事乗り切った
(レイティー視点end)




