はざまのもの
狭い路地を抜けたら急に都会の風景になる。
車は駅のロータリーに入り、そのまま駐車した。
わたしはカーテンを閉めたワゴン車の後ろの席で着替えている。
厳つい感じの運転手は駅に用があるらしく、バックミラーで短い前髪を整え、いそいそと出て行った。
助手席では赤い髪の坊ちゃんが、ガムをくちゃくちゃしながら退屈そうに外を眺めている。
運転手の弟らしい。
しばらくすると運転手は、アポロチョコみたいなスカートを履いたツインテールの女の子と、温和そうな初老の夫婦を連れて戻ってきた。
彼女とその両親らしい。
彼らを後部座席に乗せて発車する。
車は大きなホテルの駐車場に入る。
今度は赤い髪の坊ちゃんも降りて、みんな行ってしまった。
私は車で待ちぼうけだ。
ホテルの駐車場から路地が覗く。
人通りの多い、賑やかな街の一角。
私は退屈で退屈で堪らなくて、車の中で頭を座席につけ尻を天井に向ける酷い格好でぐにゃぐにゃしている。
黒いフレアスカートがまくれあがるのも構やしない。
誰もいないのだから。
彼らは両家の両親兄弟揃って食事をしてきたようだ。
戻ってきた彼らの衣類から食べ物の匂いがする。
彼の両親と別れた後、彼女の両親はこのまま車が置いておけるのなら街を歩いてみたいと言った。
そして運転手の彼に娘と二人でいってらっしゃい私たちは私たちで行くからと促す。
あぶれた赤い髪の彼は時間まで床屋にいるという。
初老の二人は娘たちカップルに贈り物を選びたかったようだ。
可愛い服を。
真っ赤なセーター。
イチゴミルク色のネックウォーマーとグレーのセーターは男物。
ピンクのニットの羽織りもの。
いろいろ見るがなかなか決まらない。
私は路地の喫茶のテラス席でお茶を飲んでいる。
二人があれでもないこれでもないしているのを眺める。
時々どうかしらと尋ねられる。
可愛いですよと返すけど、素材とかいろいろこだわって決まらない。
そういえばわたしは何者だろう。
赤い髪の坊ちゃんたちとも車で初めて知り合ったようなものだし、彼女の両親と私はもちろん今初めて顔を合わせたばかり。
なのに挨拶することもなしに、当たり前のようにこの服はどうだろうか?なんて尋ねてくる。
誰もわたしを不思議に思わない。
誰であっても構わないみたいだ。
多分わたしは人間の枠じゃないな。
天使とか妖怪とか人の形をしているが全く別のもので、かつこの世界にはありふれたもの。
唐突にいても当たり前なもの。
見えたり見えなかったりするような。
どこにいてもおかしくない馴染むものだけど、対象じゃない存在。
どおりでお腹も減らない。
彼女の両親は、今日同席しなかった塾に通う小学生の息子とこの後合流するという。
塾が終わるまでまだ1時間半あるから大丈夫ね、とまた服を選び始める。
贈り物を選ぶのに付き合う時は、とても楽しい、良いものだ。
私はその空間に溶け込んでいたい。
20191130
これで11月の夢はおしまい。
次から12月です。




