マンタに乗りたくて
マンタみたいな水の中を飛ぶ乗り物に乗りたくて、乗れる場所を探しに歩いている。
先を行くのは厳つい海人とうちのチームのリーダーである兄貴分だ。
わたしはその後ろをぶりぶりしたフリルの傘をさしてついていく。
明らかに場違い。
不釣り合い。
みそっかす扱い。
だけどわたしはどうしてもマンタに乗りたいのだ。
マンタに乗るとか乗らないとかと言うことになった経緯はこうだ。
わたしたちのチームは何らかの試合に出るため、樽のような変な乗り物に乗ってある村へ向かっていた。
道中山賊に人々が襲われているのに遭遇する。
一旦急ぎ通り過ぎるが「どうしよう。あの人たちさらわれて山中へ運ばれていくよ」と下っ端のチビが泣きそうな声で叫ぶと、兄貴分は彼らを助けるために樽を方向転換し、高速で山道を駆け上がったのだ。
大乱闘の末わたしたちは全員を助け出した。
だが、これでわたしたちは試合に出場できなくなってしまった。
乗ってきた樽も完全に破壊されている。
この先どうしようかと途方に暮れた。
そこに助けられた人たちが「助けてくれたお礼にわたし共の持っている三つの乗り物を差し上げます」と提案してくれた。
彼らは港に乗り物があるからついてこいと言う。
乗り物の一つはマンタ。
あとはキラッキラのヤンキーじみた水上バイクと、真っ黒な大きなボードみたいなものだった。
マンタもボードも自前のエンジンを持っているが、水上バイクで引くこともできる仕様だ。
マンタは水中を走り、ボードは水上を走る。
何に乗りたいかと聞かれバイクやボードはすんなり決まった。
しかしマンタは一人乗りなのに兄貴とわたしが被ってしまう。
わたしはどうしてもマンタが良かったのでハイハイと手をあげ強く主張するが、周囲は渋い顔だ。
下っ端のチビにまで「君には無理だよ。バイクの後ろに乗ったら」と言われる。
わたしは大きく首を振った。
「どうしてもマンタに乗りたいの!」
初心者がマンタに乗るには練習が必要だ。
港では船にぶつかってあぶないからと村人は練習場所を探し始めた。
それで村人に頼まれて厳つい海人がマンタに乗りたい兄貴とわたしを連れて歩き回ることになった、というわけ。
最初沖に出るのかと思ったけど、海人は紅一点で鈍そうなわたしのために歩いてでっかいプールへ連れてってくれた。
わたしは断然海の方が良かったとがっかりする。
「マンタの操縦は難しいんだぞ」と兄貴が脅すので、「大丈夫! 乗れるよ!」と胸を張ってみせる。
海人は突然わたしを担ぎ上げてプールに飛び込み、自分の背中に乗せてグルグル高速で泳ぎ出した。
海人はまるでサメみたいだ。
プールの上から兄貴は「マンタに乗ったらスピードもコントロールの難しさももこんなもんじゃないんだからな。それでもお前は乗りたいのか」と大声で尋ねる。
わたしはますますマンタに乗りたいという思いを確かにする。
自分と兄貴とじゃ比べようもないほど能力が違うとわかっているのに「兄貴みたいなアホが乗るのに、わたしが乗れないなんてずるい、わたしだって乗れる!」と叫んだ。
兄貴は「だったらたくさん練習しないとな」と笑った。
20191122
※チームリーダーである兄貴はONE PIECEのルフィそっくりさんでした。そしてわたしさんはストレートロングヘアかつゴスロリファッション! ……着たことないよ。




