魚たちを運ぶ
大掛かりな魚の住み替えを行う。
魚たちが住んでいるのは駅構内に突然あいた穴の中だった。
見つけた時には既に魚たちはぎゅうぎゅうで、いったいどうしてそうなったのは謎だ。
水源は見当たらない。
しかも酷く濁った泥水ときている。
穴の中の太い鯉たちを網で掬い上げてバケツに投入する。
満員電車よろしくひしめいているので、捕まえるのは簡単だった。
移し替えたのは魚屋さんのエプロンみたいな素材の縦長のバケツ。
すぐにいっぱいになってぎっしり詰まった魚が口を天に向けてパクパクすることになる。
小さな魚もいる。
こちらは金のたらいだったり青いプラスチックのバケツだったりで優雅に泳いでいる。
何杯も何杯もぎゅうぎゅうになっては運び出しを繰り返し、どうにか穴の中をからにしようと試みる。
運び出すときには二度改札を通る。
改札と改札の間は何故か人一人分しかスペースがない。
バケツを下ろしてスイカを当てするのは大変だが、スペースも一人分しかないのでなんとか一人で運ぶほかない。
魚たちは駅の入り口、エスカレーター上の広告部分に備えられた水槽に流し込まれる。
陽がよく当たり、煌めいてとても綺麗だ。
泳いでいるのは野太く黒い鯉だけど。
それにとても冷たい水らしく、魚は泳ぐというよりギュッとすみっこに押し固まってじっとしている。
それぞれのリズムで口を開け閉めしながら。
20191121




