満ちて浄化される

　私はダボっとした学ランを着た中学生である。

　修学旅行で厳島神社に来ているようだ。

　海の上にある長い廊下を一人道なりに歩く。

　集団だったはずなのにいつのまにか一人だった。

　周りはとても静かだ。

　とぽとぽと静かに潮の満ちる音が聞こえるくらい。

　進行方向から見て左手に神様の部屋がある。

　とはいえそこはただの空間で何があるわけでもなかった。

　綺麗な白木の柱に縦長のガーゼが貼ってあって、何か文字が書いてあるみたいだけど、読めない。

　一般の人は入ってはいけない空間らしいことはわかる。

　白装束の人が、左から入って中央で独特の動きをし右へ抜けるを繰り返す。

　何か作っているのだろうか。

　だとしたらそれはおそらく塩だろうと直観する。

　神社を出てバスに戻る。

　隣に座るのはムッと太った驚く程歯の汚い女生徒。

　別に仲悪いわけじゃないから話しかけられると普通に話すけど、前歯の上半分が黄色くもろもろした歯垢で埋まっているのをみるとゾワっとしてしまう。

　彼女は私に延々と愚痴をこぼす。

　言った先からそれで気持ちが浄化されて切り替わっていくのがわかる。

　ぶつぶつしていた肌も引き締まり、歯石まみれの歯もみるみる綺麗になっていく。　

　アホ毛だらけだったボサボサの髪も、今や触れたくなるほど艶やかだ。

　これは特殊な能力だよなぁと思う。

20191120