リズムの中に入りたい
ダンススタジオの見学に行く。
中ではミレーの落穂拾いのような淡い色合いの衣装を着た老若男女が、演劇と静かな古武道なような動きを繰り返している。
長い髪をきゅっとお団子にしたバレエスタイルのおばあさんたち。
それから子供も真剣な顔で黙って動きをなぞっている。
中には心がすぐに揺らいでしまう繊細な人たちの姿もある。
スタジオはマンションの部屋のように区切られた小さな幾つかの部屋でできていて、それぞれパートに分かれて練習しているようだ。
壁はどこも全面鏡になっていて、なぜか荒いガーゼのようなナチュラルな色のカーテンがかかっている。
私はこのスタジオに入りたいと思う。
弟がスタジオと同じビル内で飲食店の手伝いをしているので訪ねる。
鉄筋がはみ出し、店の屋根はあったりなかったりで所々ビニールシートが貼ってある。
これが常態なのか。
建設中ではないのか。
弟は金銭をもらっていないのでバイトではないらしい。
友人である店主に弟が私を紹介すると、無精髭をはやした店主はファンタを二本弟に手渡した。
ファンタは何故か透明な水筒に入っていて、タピオカミルクみたいな粒入りになっている。
陽の光に乳白色に透けて見える。
スタジオのことを話すと弟も見学したいという。
弟を連れてスタジオに戻ると動きの練習は終わっていた。
皆ホールに集い、あぐらをかいてシナリオの読み合わせをしている。
まだ歩き始めたばかりといった様子の幼児が、どこかカクカクした動きで人の円の中を歩いている。
彼も砂のような淡い色の布を巻いただけの格好をしている。
たどたどしい読み合わせを目にした弟は「よくわからないな、微妙」と言う。
弟の言う通りそれほど魅力的な演技をする人がいるわけではない。
子供と言っていい年齢を除くと若手は少ない。
子供らの親だろう中年女性やおじいさんおばあさんの方が多いくらいだ。
だけど。
さっき目にした静かな動き。
読み合わせのリズム。
私はただ呼応するそのリズムの中に入りたかった。




