シャボン玉の膜の中
シャボン玉の膜の中にいる。
ここは現実ではない。
安全な場所だから、わたしに怒りを放出すべきだと人はいう。
そのためのルームなのだから、さあ、遠慮なくと背中を押す。
しかし怒りを感じる方法も感情そのものもよくわからないから、途方に暮れる。
わたしは怒っているのだろうか?
困惑しながらも言われるがままロッカールームに入る。
キーナンバーを頼りにロッカーを探す。
ちょうど正面にグリーンのニットを着た軍人が、意識不明の状態で寝っ転がっていた。
口が開いたザクロみたいだ。
胸と腰にそれぞれナイフケースとガンケース。
どちらもからっぽ。
意識を取り戻した軍人は、目も開かないうちにその場所を弄り、武器を知らないかと尋ねる。
誰も知らない。
奪ったものがいるはずだ。
ここは安全じゃない。
軍人はベンチシートに手をかけ、ロッカーにもたれかかりながら立ち上がる。
女性ばかりのロッカールームの中を、白人男性である軍人が伝い歩く。
着替えていようが御構い無しに武器のことを聞いて回る。
ここは安全な破れることのないシャボン玉の膜の中だから、叫ぼうが血濡れようが外に飛び出して現実を脅かすことはない。
どこか、この膜の内側で血飛沫が上がった。
球形の膜を伝って、ねっとりと糸を引きながら血がどろっとわたしの眼前に垂れてくる。
泡を立てる。
脱いだシャツが赤黒く染まる。
赤いビードロの内側から覗くように、血濡れた膜の向こうが滲んで映る。
シャボン玉の虹色と混ざり合う赤。
外を見たいと思う。
外の空気を吸いたい。
膜の外が見えるかな。
視点は膜の外へ。
わたしを包んだ小さなシャボン玉は降下していく。
20191022
前回後書きに載せようと思っていた文字数足らずの記録。
20191019かくれんぼ
家の裏山の竹林を歩いている。
わたしは二十歳くらいの青年。
五歳くらいの女の子をさがしている。
女の子は赤と白のシマシマのオーバーオールを着ていてとても目立つから、本当はもう見つけている。
かくれんぼだったり、お化けごっこだったりかまって欲しくて仕方がない彼女。
もう見つけているよと言っても、女の子は捕まえないと見つかったことにはならないんだからと逃げ続ける。
普通の道を行ったのでは全然捕まらない。
女の子は竹林の中を下草を踏み、這いまわって逃げつづける。
追いかけるうち、皆のいる黒い木でできた炭焼き場みたいなボロい家が遠ざかっていく。




