山頂の町で雲海を見よう
霧雨の中、何人かのグループでどこかの施設に来ている。
グループには息子の他に同じくらいの年頃の女の子たちがいて、すでに仲良くなっている。
あと同室に残っているのはK女史。
他は皆かっぱを着て施設のベランダか屋上へ出たようだ。
私を手招きして呼び寄せたK女史は、拳を突き出し顎で私に手を差し出すよう促した。
掌にぱらりと120円落ちてくる。
ジュースを買ってきてくれというのだ。
別に私は喉渇いてないし、もうカッパも脱いだ。
今更わざわざ雨の中外になんか行きたくない。
けれど受け取ってしまったお金を突き返すのはやりにくく、断れないな、と思う。
様子を見ていた子供たちか便乗して、ファンタグレープ、カフェオレ買って! などと要求し出す。
諦めて承諾し、施設の部屋を出る。
ガラス戸を閉めてため息。
子供にはおごりになるだろう。
階段を降りる。
ここはどこもかしこもガラス戸だ。
他の部屋で青年たちが顔を寄せ合ってトランプしたり、ゴロゴロ寛いでいるのが見える。
玄関口のガラス戸を透かしてみたところ、雨は小降りにはなってきているようだ。
この辺りの人は靴が濡れるのがとても嫌らしく、雨の日は靴にカバーをかけるのが常識だ。
靴箱には靴カバー置きの容器もセットで置いてある。
靴カバーもお洒落の一つだ。
ピンヒールにだってヒール部分に穴を開けて通し、かかとを包み込むようにきれいに包むカバーがある。
そういうわけで靴を履くのはとても手間だ。
傘を開き施設の周りをぐるりとする。
丸く刈り込まれた笹が道をガイドしている。
教えたがりの小さな男の子がまとわりついて、案内したがる。
どうやらここは山頂らしい。
湿気た空気や霧雨をもたらす雲は眼下から吹き上がってきたもの。
それでみんな何も見えない霧の中ベランダに出ていたのかもしれない。
霧はだんだんおさまってきている。
まもなく静かに山を降りていくだろう。
そしたらきっと雲海が見える。
私は霧の中低木のガイドにしたがって男の子の後をついて歩いた。
20191020
何の集団で何しにきたのかは不明
……自販機、無さそう。




