腸礼に向かう
平等院のような左右対称の建物の骨組みがしょうめんにみえる。
建築中の建物ではなくこれは完成形だ。
白い巨大なジャングルジムみたい。
「バックアップしてあれば大丈夫。最初の最初からやり直すが不安はない」
ポケットのメモにあるこの言葉はなんだろう。
四つ折りの皺々なメモ。
思い出せないが、この中を探索するにあたっての心構えみたいなものだろう。
私はこれからこの中に入らないといけない。
「正面から入り、探索は右から」
左側に立つ、ぴっちりと髪を結い固めた白いワンピースの女性が進むよう促す。
知っている。
彼女はとても頼りになり賢い存在だ。
だけど中へは私一人で行かなくてはならない。
一人で。
入り口に「腸礼」と書いたポスターが貼ってある。
かつて私が夢で壁に張り付けた男の内臓みたいに、艶やかで美しいぐるりとした腸の写真が目に飛び込んでくる。
腸礼という言葉はよくわからないけど、これからやろうとしている探索がそれに当たるのだろう。
とにかく回路の内側を右へ右へと移動していく運動ことだ。
私は理解する。
進んだ先で瘡蓋のように赤黒い色のオープンカーが待っていた。
チクチク音がして、車体の底に目覚まし時計が嵌め込まれているとわかる。
潜って見上げてみるとやはりあった。
懐中電灯の灯りを反射する金の針。
この針は誰に対しての存在なんだろう。
誰がこの時計で時を確認するのだろう。
針を煌めかせる光も届かない場所で、時計はただ時を刻む。
運転席に乗り込む。
助手席には全方位にサンスベリアのような鋭角の葉を伸ばした球形の植物が愛らしく収まっている。
気付くと私は手の中に幾つもの丸い果実を持っていた。
ラズベリーやブルーベリー。
何やら知らない瑞々しくぷっくりとした赤い粒。
中でも大粒の巨峰の実が一番美しいと思う。
あふれんばかりの瑞々しさを含んだ繊維で内側を満たして、張り詰めていて。
そこで目がさめる。
私の探索はまだまだ途中なはずだ。
20191009




