僕たちの通学路<FA:萩尾滋さんから>
男子高校生なのだと思います。
砂埃を立ててウッドデッキから駆け下りると僕たちはいつものように橋へと急いだ。
この橋の入り口には僕らの背丈の三倍はあろうかというような巨大な門がある。
どうしてこんなものが必要なんだと思うくらい重厚で頑丈そうな門扉は、さながら地獄の門といった様相だ。
門が閉まるとその日はもうここから外へ出ることはできない。
橋までの道はそこかしこに巨大な穴が空いていた。
そこから時折人の頭が見え隠れする。
この穴の一つ一つに人が住んでいるのだ。
間違えて蹴っ飛ばしたりしないよう、談笑しながらも皆足元に注意を向けて歩く。
制服のズボンの裾は皆砂埃で白くなっている。
学ランなのに足元は革靴ではない。
ビルケンシュトックのサンダルを履くのが定番だ。
おかげで指の股まで砂々してしまう
信号機のすぐとなりに足が生えていた。
二つ揃って足首から足の裏まで。
平べったい裏側が太陽光発電でもしているかのように日の当たる方向へ向いている。
唐突に足だけが生えていて、こんにゃくの花みたいだ。
ツルンと血色の良い黄色人種の足の裏。
弾力がありそうで、生きているかんじがする。
誰も気にかけない。
やばい急ぐぞ!
という声とともに水飛沫が上がる。
門の外の川から上がっているんだ。
噴水のように空高く水の柱が上がり、キラキラと吹き上がる粉のように霧が舞う。
霧は白く乾いた土の表面を少しだけ色濃くさせる。
ビルケンシュトックのサンダルにもシミができる。
穴の下はみるみるうちに地下水路になってしまった。
どこへ隠れたのか住人はいつの間にか消えていた。
逃げ遅れたのか落ちたのか、穴の奥で何人か子供が流されているのが見える。
すごいスピード。ものの一瞬で消え去る。
穴から水が溢れ出し、水が僕たちの足首まで迫った。
信号機前の足の裏は互いを向き合わせ、つま先を天に向けている。
花の蕾のようだ。
水飛沫を上げながら僕たちは急いで門へ向かって駆け出した。




