ライオンの仔と別れる<FA:萩尾滋さんから>
ライオンの仔を胸に抱いて土手を歩いていた。
背骨の浮き上がった小さく痩せたライオンの仔だ。
もやしのようにしなだれたしっぽ。
逆立てた絨毯のような艶のない毛並み。
ごっそり抜けた黄金色の毛が深緑のセーターにまとわりついて離れない。
タンポポの綿毛の形にそっくりなものがいくつも。
セーターの胸元を見下ろした時ごろりと何かが土手を転げ落ちた。
川へ向かって転がり、草の根に引っかかって止まる。
近づいてみると白くて丸いそれには黄金色の毛が貼りついている。
頭蓋骨だ。
抱いていたライオンの子の頭。
白骨化しところどころ毛がくっついている。
毛があるのは後頭部の方ばかり。
顔面の方は灰色く濁ったスカスカした骨が露出している。
頭蓋骨は蠢き、くぐもった声で何か唸っているが聞き取ることができない。
聞き取れたとして、そもそも私にライオンの言葉などわからない。
ばらばらにしてはかわいそうだと、胸に抱いた体を頭蓋骨の隣に下ろしてやる。
体は良い子におすわりをして私を見送ってくれた。
私は土手を上がり先を急ぐ。




