脈絡なく蝶は溺れる<FA:萩尾滋さんから>
今朝の夢。
朝時間があると覚えているうちにメモができます。
どうでもいい秘密の恋をしていた。
隠していることに、意味はなかった。
なんの障害もない取るに足らない恋愛なのに公にしなかったのは、相手を恥ずかしいと思っていたからかもしれない。
今更な相手だったからかもしれない。
大切にしていなかったことに間違いはない。
真っ直ぐなシルキーベージュの髪をした私の親友と、彼と私で校舎までバス通学だった。
誰もいないバスの一番後ろの座席で、私を挟んで三人並んで座る小一時間。
彼が彼女に私と付き合っていることを打ち明けた。
なんでもない世間話をするように、さらっと。
私は彼よりずっと彼女が好きだった。
多分彼もそうだったんじゃないかと思う。
シルキーベージュの彼女の髪は、光ファイバーでできたクリスマスツリーみたいにしっかりと真っ直ぐでスキがない。
白熱灯みたいな輝く頬もまるっきり生気がなくて、だからそんな話は彼女には似つかわしくない。
「へぇ、そうなんだぁ」
どうでも良さそうに返す彼女の色素の薄い瞳が車窓から差す光に茶色く透けて、奥の奥まで見えそうな気がした。
バスを降りて別れる。
私がゆくのはあぜ道。
初夏、いや晩春にホタルを見に人がぽつりぽつりとくる以外は、住人のほか誰も見かけないようなど田舎。
トラクターも入れないような細い道。
農業用水路にわずかに流れる音。
水路に墨でできたような真っ黒な泡を尻から出している蝶を見つけた。
弾けてしまわないのが不思議なくらい大きな泡は、黒真珠のように虹色に輝いている。
二翅重なり合った蝶が淀みに翅ごと浸かり、水面に産卵している。
いくつもの窓があるみたいな翅の模様をしたグレーのアゲハチョウだ。
交尾し、産卵すると同時に翅の先から澱んだドブの水に溶けていく。
鱗粉が水面をコートするように浮かんで煌めき水草を彩る。
クリスマスツリーみたいに。
コートの禿げた翅は紙石鹸のように脆く、溶けてドブの水を濁す。
残った線のような翅はなすすべなく流され、カラダに絡まって、藻に引っかかり浮かび上がった。
足、触覚、もがくように震え力がなくなる。
糸くずのように折り重なって死ぬ。
死ぬ瞬間はわかる、と思う。
たぶんはっきりと、いまだって。




