ダイニングテーブルの川<FA:萩尾滋さんから>
ダイニングテーブルの真下には川が流れている。
足元ではパン屑のおこぼれを狙って群れた魚が、期待を胸に身を跳ね上げている。
うっかりおろした足先から靴下に水が染みて、つま先からじわりと色を濃くした。
きれいなグラデーション。
コリー犬は、ボラのようにみっともなく跳ねる太った魚を狙って水面を見つめ、興奮し白い尾を振る。
沸き立つグラタンのいい匂い。
母の熱いから気をつけるのよ、なんて注意、川のことが気がかりで誰も聞いちゃいない。
赤い革のソファーには濡れたカワニナやタニシが這う。
弟が拾い並べた石の列を貝たちが乱すので、怒った弟はデコピンして貝たちを川へ弾き落とす。
ああ、賑やかな食卓。
どうしてこんなところを家にしたのか。
この集落はみな家に川を持っている。
小さな水路の上に建つ家。
激しい流れを挟んで、かまぼこ板のようにやわい心もとない板を組んで建てた家。
どうしてこんなところを家にしたのかって?
それは疑問に浮かぶまでもなく当たり前のふつうのコトだからさ。
爺さんの爺さんもそのまた爺さんもそうしてきたものだから。
家に居ながらにして食うに困らない生活。
悪くないだろう?
と父が言うとコリー犬が魚を前足で跳ね上げた。
魚が床で踊り、飛沫でワンピースが水玉に染まって、もう仕方ないなと思う。
もう何を思ってもどうしようもないやって。




